陸上自衛隊の第8師団長ら10人が搭乗した多用途ヘリコプターが、沖縄県・宮古島周辺で行方不明になった事故。
深海に潜る特殊技術「飽和潜水」による捜索を実施した自衛隊の潜水士が、乗員とみられる5人やヘリの一部を確認した。
通常の手段で潜水できる深度は、海上保安庁の精鋭ダイバーを集めた「特殊救難隊」でも60メートル程度までとされる。「飽和潜水」は、さらに深い海中で作業をする潜水士の安全を最大限に確保する技術だ。
元海上自衛官で飽和潜水に詳しい水難学会副会長の安倍淳さん(64)によると、水中では10メートル潜るごとに1気圧ずつ加わり、水深100メートルの海中では地上の11倍の圧力が体にかかる。このため、呼吸で取り込む窒素が血液や体の組織に溶け込みやすくなり、潜水中にめまいが起きる「窒素酔い」になる恐れがある。浮上時には、体のしびれや痛み、呼吸困難などの症状が出る「減圧症」に陥る危険もある。
飽和潜水はこうしたトラブルを防ぐ手段だ。潜水士は、船上の加圧室で窒素よりも安全なヘリウムなどの混合ガスを取り込み、あらかじめ体内を「飽和状態」にしておく。その後、加圧室から高圧状態が維持されたカプセルに入り、海底に降下する。
1回の潜水での作業時間は「30分程度が目安」(安倍さん)だが、何度も繰り返すことが可能だ。作業終了後は再びカプセルで船に戻り、減圧室で数日かけて大気圧に戻す。
飽和潜水の技術は、過去の事故でも活用されてきた。
昨年4月、北海道・知床半島沖で乗客乗員26人を乗せた観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没した事故では、飽和潜水士が水深約115メートルの海底で船の内部を捜索。2001年12月、鹿児島県・奄美大島沖で、北朝鮮の工作船が海保の巡視船と銃撃戦の末に沈没した事件でも、工作船を引き揚げる作業で使われた。