「タブー視」された美容整形、なぜ一般化? 「金出せばコンプレックス解消」の光と闇…ちいめろ&識者と考える

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近年、美容整形は、芸能人やインフルエンサーが赤裸々に公表する動きを見せているように「隠すべきもの」ではなくなってきた。一方、カジュアル化でルッキズム(外見至上主義)に関わる問題も懸念される。
整形の潮流や功罪について整形当事者と識者に話を聞いた。
人気ブロガー時代から整形を公表しているYouTuber(登録者約71万)のちいめろさんは、500万円以上を手術代に投じている。その始まりにあった素朴な動機をJ-CASTニュースの取材に明かした。
実施したのは、メスを使わずにまぶたを糸で縫い留める「埋没法」の二重整形。メイクが楽になったばかりか、コンプレックス解消と周囲の反応の良さから自信も持てるようになった。整形を公表した理由は、職業柄もありつつ、同じ悩みを持つ人の参考になればとの思いがあった。J-CASTニュースが当時のブログを確認したところ、コメント欄では「すごく参考になりました!!」「かなり変わったねーあたしもやりたいな」といった読者の声が見られた。
整形は、いまや老若男女に浸透しつつある。約20年にわたり整形について調査・研究している谷本奈穂・関西大学総合情報学部教授は、整形が普及した要因は複数あると前置いたうえで、外せない点として「社会の情報化」が進んだこと、つまりメディアの発達が関係していると取材に答えた。特にSNSを中心としたネットメディアは若年層に大きな影響を与えているとした。
SNSでは整形に関する投稿が盛んで、情報交換に特化した「整形垢(アカウント)」を持つ人は少なくない。インスタグラムやティックトックでは、施術例を紹介する美容外科医も目立ち、フォロワーを多く抱える”医師インフルエンサー”も誕生している。
J-CASTニュースは「Yahoo!クラウドソーシング」を通じて全国の10代から60代以上にアンケートを行い、2000人から有効回答を得た。「あなたは、美容整形で外見を変えることをどのように思いますか?」との設問では、肯定的に捉えている「良い派」に分類できるのは、「良くない派」(24%)を超える36%だった。
年代別では、若年層ほど美容整形に寛容な人が多かった。谷本教授は「今が一番、過渡期じゃないか」「この流れはなかなか止まらない」とし、「今後は『別に良いんじゃない』が主流の社会になると言えそうです」と考察する。
ちいめろさんは、整形のメリットを「簡単に言っちゃえば、お金を出せばコンプレックスが解消できる」と述べる。「それで笑えるようになったとか前向きになったとか、明るくなれる」とも。
しかし、ちいめろさんは熟考した上で臨むべきだと忠告する。▽理想と異なる仕上がりになる恐れ▽医療トラブル▽費用捻出のために犠牲が伴いうる――の3点を懸念材料に挙げた。医師に勧められるまま受けた手術が、別の医師が危険性を訴えているものだった、という経験もあったという。
「依存症になると怖い」と当事者ならではの苦悩も打ち明ける。
ちいめろさんは、「目の整形して鼻の整形して輪郭して…とやっていた時は、ちょっと依存症なところはありました」と振り返る。
埋没法は手軽な反面、長期的に二重を持続できるとは限らない。二重整形を複数回繰り返してまぶたにメスを入れてからは、涙袋や鼻にヒアルロン酸を注射するといった手軽なものから、骨を切って口元を後退させる大掛かりな手術まで重ねている。当時はこのような心理も働いていたという。
現在は落ち着き、一定期間で効果が薄れるような施術をメンテナンスとして続けている程度だ。とはいえ、今後も時間があれば整形済みの箇所を修正したいという。
整形普及による懸念はほかにもあるようだ。谷本教授は、「整形が気軽になればなるほど、ルッキズムが加速するリスクは常にある」と述べる。アンケートでは整形に寛容な若年層の方が同様の懸念を強く示している。
手軽に直せるとなると、「美の基準が単一のままである社会」になりうるためだと谷本教授はいう。ただ、因果関係として「ルッキズムがあるから整形する」とも考えられ、意識の持ち方が重要だとする。
美容整形とルッキズムをめぐって起こりうる社会問題の一つには、就職の場面が挙げられる。企業が採用時に美醜を加味しないか、という可能性だ。谷本教授は外見差別を防ぐ法整備も有効な対策だとした。
親が未成年の子供を整形させようとする事例もみられる。このような状況には、「自己決定権の尊重」が必要だと危機感を示し、深刻な場合は美容外科業界によるガイドライン策定を提言した。
アンケートでは、女性だけでなく男性も多数が「外見による差別や評価を受けたことがあると思う」と答えている。谷本教授は、ルッキズムは男女共通の問題だと指摘する。
と谷本教授は述べ、整形当事者に責任があるとは「思わない」と強調。「二重でない目も綺麗あるいは良いよねと、お互いが認めあえるような意識を皆で持てれば生きやすい社会になる」ともいう。
整形当事者にはネット上で「どうせ整形でしょ」と揶揄するような声も散見される。ちいめろさんは「努力して自分の目指す顔になっているのに、なんでそんな否定的になるんだろう」と首をかしげる。費用捻出に始まり、人によって手術前から精神的な葛藤があるほか、術後は鈍痛との闘いが待ち受ける。しばらく普段通りに食事出来ないケースもあるなど、幾多の困難を乗り越えて実現していると説明した。
谷本教授は整形の普及が進む社会に対し、「他の人の選択や身体に関して、馬鹿にしたり排除したりしない社会を作っていくのが大事だ」と訴える。
この記事はJ-CASTニュースとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。Yahoo!ニュースが実施したアンケートの結果を利用しています。アンケートは全国のYahoo! JAPANユーザーを対象に2023年1月24日に実施しました。

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