絶滅種とされた植物“妖精のランプ”を30年ぶりに発見!ガラス細工のように美しく幻想的…研究者「生きた姿を初めて見た」

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絶滅したと考えられていた植物が約30年ぶりに、兵庫県三田市の森林で発見された。それが「コウベタヌキノショクダイ」で、茎の高さは1mmほど、花の大きさも1cmに満たない小さな植物だ。花はガラス細工のように美しく、幻想的で、海外では「妖精のランプ」と呼ばれているという。日本名のタヌキノショクダイは狸がろうそく台を利用したと見立てられ、名付けられている。そもそも、タヌキノショクダイの仲間は、光合成をせず、キノコと見紛うばかりの奇妙な花をつける特殊な植物。世界で90種の報告があるが、その半分以上が発見場所以外から見つかっていないとされている。

その中で、コウベタヌキノショクダイは1992年に作製された、花の一部が欠けている状態の標本が残っているだけだった。なお、標本は兵庫県の博物館で保管されていたが、長い間、別の種のヒナノボンボリだと思われていたという。その後、2018年に神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授らの研究グループが標本を詳しく検討し、新種であることを証明し、コウベタヌキノショクダイと命名していた。しかし、発見された場所(神戸市)は既に産業団地開発により消失してしまっており、コウベタヌキノショクダイは絶滅したと考えられていた。こうした中、2021年5月に神戸大の学生が三田市の森林で他の植物の調査中に偶然発見し、末次健司教授のもとに届けられ、コウベタヌキノショクダイであることがわかった。幻想的で美しい“妖精のランプ”が日本に生息していたことに驚いた人も多いだろう。では、30年ぶりに発見されたことをどう感じているのだろうか?また今回の発見は今後、どう活かされていくのか? 神戸大の末次健司教授に詳しく話を聞いた。教授「驚きとうれしい気持ちでいっぱい」――発表後、反響はあった?ネットニュースなどで数千ツイートされているようですね。このようにご連絡をいただけることが反響のひとつだと思います。――コウベタヌキノショクダイに再び出会えた時、どんな気持ちだった?コウベタヌキノショクダイは私が新種として発表した植物ですが、博物館の標本を私が精査した時点で、もともとの自生地は開発で消滅しており既に絶滅したとしか考えられない状況でした。どこかで生き残っていたら良いとは思っていましたが、驚きとうれしい気持ちで一杯でした。また私自身、その生きた姿は初めて見たわけですが、その姿は予想以上に美しく幻想的で、まさに「妖精のランプ」の名にふさわしく光り輝いてみえました。謎に包まれたタヌキノショクダイへの理解を前進させる発見――今回の発見は、植物界にとってどんな意味がある?光合成せず「植物」という言葉から想起される概念と矛盾する性質を持つタヌキノショクダイについて深く理解することで、逆説的ではあるが植物全体に対する理解を深めることができるでしょう。――発見後、どんなことが分かった?コウベタヌキノショクダイは、アジア産のタヌキノショクダイ科で最北端に分布する植物です。今回、その詳細な研究が可能になったことで、その変わった形、光合成をやめた不思議な生態、珍しさから植物界で最も不思議な植物と評されるタヌキノショクダイの仲間の謎に包まれた分布パターンや進化史に重要なヒントを得ることができました。コウベタヌキノショクダイの外見は、タヌキノショクダイの仲間でも最も謎めいた種であるアメリカのタヌキノショクダイの仲間T. americana を想起させます。T. americana は北アメリカで発見された唯一のタヌキノショクダイ属ですが、その発見場所であるシカゴは、タヌキノショクダイの分布地点としては最北端です。発見後100年以上再発見されておらず、コウベタヌキノショクダイ以上に実態が不明な種でした。今回、コウベタヌキノショクダイが再発見されたことで、両者の特徴を比較したところ、この北米産のタヌキノショクダイのルーツについて、新しいヒントが得られました。具体的には、コウベタヌキノショクダイは T. americana にも外見のみならずその内部構造も、よく似ていることが明らかになりました。実は東アジアと北米間ではベーリング地峡を介し、様々な生物種が移動してきました。T. americana とコウベタヌキノショクダイが、アメリカ大陸とアジアでそれぞれ最北端に分布することを併せて考えると、タヌキノショクダイの仲間は、ベーリング地峡を通って北アメリカへと分布を広げた可能性が示唆されました。タヌキノショクダイ属は、その奇妙な見た目と生活様式から植物界で最も不思議で並外れた植物と評されていました。今回30年ぶりにアジアで最北端に分布する種を再発見できたことによって、謎に包まれたタヌキノショクダイへの理解を前進させることができました。――最後に植物ファンに向けてメッセージをお願いしたいタヌキノショクダイの仲間は、光合成をやめた植物の中でもとりわけ繊細で、丹念に個体数を数え上げようとするだけで、その影響で翌年数が減ってしまうくらい繊細な植物です。私達もジレンマを抱えながら調査しています。直接自分の目で見たい人もいると思いますが、ニュースとして楽しんでいただけるとうれしいです(論文等でも意図的に詳しい場所を伏せています)。なお現物を見たい方は、人と自然の博物館で私が寄贈した標本の展示を企画してくださっているそうなので、そちらの見学もお勧めです。人と自然の博物館には1992年に採取された標本もありますので30年の年月に思いをはせながらご覧いただければと思います。もし万一似たような植物を見つけたら、私にこっそり教えてください。今回の発見は、謎に包まれたタヌキノショクダイの理解の大きな一歩になったようだ。もし皆さんが似たような植物を見かけた際は、末次教授にこっそり教えてあげてほしい。
絶滅したと考えられていた植物が約30年ぶりに、兵庫県三田市の森林で発見された。それが「コウベタヌキノショクダイ」で、茎の高さは1mmほど、花の大きさも1cmに満たない小さな植物だ。
花はガラス細工のように美しく、幻想的で、海外では「妖精のランプ」と呼ばれているという。日本名のタヌキノショクダイは狸がろうそく台を利用したと見立てられ、名付けられている。
そもそも、タヌキノショクダイの仲間は、光合成をせず、キノコと見紛うばかりの奇妙な花をつける特殊な植物。世界で90種の報告があるが、その半分以上が発見場所以外から見つかっていないとされている。
その中で、コウベタヌキノショクダイは1992年に作製された、花の一部が欠けている状態の標本が残っているだけだった。なお、標本は兵庫県の博物館で保管されていたが、長い間、別の種のヒナノボンボリだと思われていたという。その後、2018年に神戸大学大学院理学研究科の末次健司教授らの研究グループが標本を詳しく検討し、新種であることを証明し、コウベタヌキノショクダイと命名していた。
しかし、発見された場所(神戸市)は既に産業団地開発により消失してしまっており、コウベタヌキノショクダイは絶滅したと考えられていた。こうした中、2021年5月に神戸大の学生が三田市の森林で他の植物の調査中に偶然発見し、末次健司教授のもとに届けられ、コウベタヌキノショクダイであることがわかった。
幻想的で美しい“妖精のランプ”が日本に生息していたことに驚いた人も多いだろう。では、30年ぶりに発見されたことをどう感じているのだろうか?また今回の発見は今後、どう活かされていくのか? 神戸大の末次健司教授に詳しく話を聞いた。
――発表後、反響はあった?
ネットニュースなどで数千ツイートされているようですね。このようにご連絡をいただけることが反響のひとつだと思います。
――コウベタヌキノショクダイに再び出会えた時、どんな気持ちだった?
コウベタヌキノショクダイは私が新種として発表した植物ですが、博物館の標本を私が精査した時点で、もともとの自生地は開発で消滅しており既に絶滅したとしか考えられない状況でした。どこかで生き残っていたら良いとは思っていましたが、驚きとうれしい気持ちで一杯でした。
また私自身、その生きた姿は初めて見たわけですが、その姿は予想以上に美しく幻想的で、まさに「妖精のランプ」の名にふさわしく光り輝いてみえました。
――今回の発見は、植物界にとってどんな意味がある?
光合成せず「植物」という言葉から想起される概念と矛盾する性質を持つタヌキノショクダイについて深く理解することで、逆説的ではあるが植物全体に対する理解を深めることができるでしょう。
――発見後、どんなことが分かった?
コウベタヌキノショクダイは、アジア産のタヌキノショクダイ科で最北端に分布する植物です。今回、その詳細な研究が可能になったことで、その変わった形、光合成をやめた不思議な生態、珍しさから植物界で最も不思議な植物と評されるタヌキノショクダイの仲間の謎に包まれた分布パターンや進化史に重要なヒントを得ることができました。
コウベタヌキノショクダイの外見は、タヌキノショクダイの仲間でも最も謎めいた種であるアメリカのタヌキノショクダイの仲間T. americana を想起させます。T. americana は北アメリカで発見された唯一のタヌキノショクダイ属ですが、その発見場所であるシカゴは、タヌキノショクダイの分布地点としては最北端です。発見後100年以上再発見されておらず、コウベタヌキノショクダイ以上に実態が不明な種でした。
今回、コウベタヌキノショクダイが再発見されたことで、両者の特徴を比較したところ、この北米産のタヌキノショクダイのルーツについて、新しいヒントが得られました。具体的には、コウベタヌキノショクダイは T. americana にも外見のみならずその内部構造も、よく似ていることが明らかになりました。
実は東アジアと北米間ではベーリング地峡を介し、様々な生物種が移動してきました。T. americana とコウベタヌキノショクダイが、アメリカ大陸とアジアでそれぞれ最北端に分布することを併せて考えると、タヌキノショクダイの仲間は、ベーリング地峡を通って北アメリカへと分布を広げた可能性が示唆されました。
タヌキノショクダイ属は、その奇妙な見た目と生活様式から植物界で最も不思議で並外れた植物と評されていました。今回30年ぶりにアジアで最北端に分布する種を再発見できたことによって、謎に包まれたタヌキノショクダイへの理解を前進させることができました。
――最後に植物ファンに向けてメッセージをお願いしたい
タヌキノショクダイの仲間は、光合成をやめた植物の中でもとりわけ繊細で、丹念に個体数を数え上げようとするだけで、その影響で翌年数が減ってしまうくらい繊細な植物です。私達もジレンマを抱えながら調査しています。直接自分の目で見たい人もいると思いますが、ニュースとして楽しんでいただけるとうれしいです(論文等でも意図的に詳しい場所を伏せています)。
今回の発見は、謎に包まれたタヌキノショクダイの理解の大きな一歩になったようだ。もし皆さんが似たような植物を見かけた際は、末次教授にこっそり教えてあげてほしい。

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