【川本 大吾】マグロの産地「大間」で起こっている「異変」…超有名なのに苦境に追い込まれた理由 それでも圧倒的なブランド力を誇る

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日本一のマグロとして名高い青森県の「大間まぐろ」。東京・豊洲市場の初競りでは、毎年1番マグロとして市場関係業者の注目を集め、過去には1本数億円の超高値を付けたことで話題となった。
「国産」「天然」「生」の本マグロの中でも、他の追随を許さない高級マグロとなったが、このところ大間町の水産業者が漁獲無報告で逮捕されたり、大間沖で漁獲したマグロでなくても「大間まぐろ」のステッカーを張れるよう漁協がブランド条件を変更したりと、ザワつきが絶えない。
豊洲でも「大間は大丈夫なの?」と、首をかしげる業者もいるが、それでもマグロは「大間が1番」だという。一大マグロ産地の混乱と、揺るぎない人気の理由を探った。
日本一のマグロとして知られる青森県大間産の本マグロ(市場関係者提供)
水産業者2人が逮捕された今年2月7日、本マグロを漁獲したものの、その一部を青森県へ報告しなかったとして、大間町の水産業者2人が漁業法違反の容疑で逮捕された。容疑は2021年夏に、漁業者と共謀し、本マグロ漁獲量のうち約18トンを県に報告せずに流通させたというものだ。このほかにも多くの本マグロが資源管理の規制から逃れ、県外に「大間まぐろ」として流れていたことが分かっている。大間のマグロを巡る逮捕劇を受け、野村哲郎農林水産大臣は2月10日の会見で「このような行為を防止するため、再発防止の管理ができるのか、今、検討している。今後、こういうことが横行していけば国際的な信用を失っていく」と指摘。対応策の検討を強調した。そもそも今回の事件、マグロの漁獲を県に報告しなかったというのは、何が悪いのか-。漁獲報告を失念したという単純なミスならともかく、大量にマグロを獲り、漁獲実績としない、つまり「なかったことにする」というのは、産地偽装や「密漁」というわけではないものの、意外と深刻な問題になる。本マグロに関しては、日本だけでなく外国も含めて、資源評価を行った上で管理策が敷かれており、国内ではシーズンに応じて、漁法や都道府県ごとの漁獲上限が定められている。この上限を守るために必要なのが、漁業者による漁獲報告。偽れば資源管理の根本が揺るがされる。漁獲枠削減というペナルティー漁獲の事実を隠すというのは、他の地域の漁業者にとってはハタ迷惑な話で、ルールそのものに意味がなくなるのだ。乱獲によりマグロが減れば、そのツケを払うのは大間の漁師だけではなくなって連帯責任の大問題に。資源状況によっては、県外の漁業者や外国漁船にとっても影響が出かねない。こうした無秩序な漁獲や流通は以前から横行しているとみられている。青森県では2021年度に、大間など3漁協で少なくとも約60トンの本マグロの漁獲が報告されておらず、漁獲規制から逃れるため、報告しないまま流通させる「脇売り」と呼ばれるマグロが、横行していたことをうかがわせる。日本一の生マグロを供給する青森県の大間漁業協同組合 無報告分が約60トンあったことで、青森県は定められた漁獲枠(605.9トン)を16トン超過したことが分かり、国の水産政策審議会では2022年の枠から差し引くことを決め、大間漁協の割当も相応分が減らされている。こうした中、水産業者2人の逮捕以降、漁業者らを含め関係者への捜査は継続中の模様。関わった漁業者は20人以上いるとみられ、脇売りが常態化していたとの見方もある。横行するルール違反に対して、有識者からは日本の漁業管理策や罰則が「甘すぎる」と指摘されており、規制策の厳格化を求める声は多い。 大間沖のマグロでなくても「大間まぐろ」に一方、大間漁協は昨年秋、商標登録されている「大間まぐろ」のブランド条件を緩和。「大間沖で漁獲されるマグロ」から「大間の港に水揚げされ、荷受けされたマグロ」に変更し、特許庁に再出願している。大間は下北半島にあって本州最北端に位置し、北海道南岸との間の津軽海峡に面している。これまで、大間沖の津軽海峡で一本釣りとはえ縄漁によって獲った本マグロを「大間まぐろ」とし、最高級マグロの産地としての地位を築いてきたのだが、ここへきて「大間沖」という条件を撤回。太平洋など他の海域で獲れたマグロにも、「大間まぐろ」であるというお墨付きを新たに与えることにした。条件緩和の背景には、近年、秋~冬のマグロ漁場が津軽海峡よりも東側の太平洋沖に形成される傾向にあることが挙げられる。研究機関も「近年は三陸沖の太平洋でマグロが回遊するケースが多く、それを狙って青森県の漁業者が漁獲している」と認識していた。津軽海峡での漁獲が低調になったことで、大間では「(従来の)『大間まぐろ』の条件である『大間沖』という漁場にこだわっていては、ブランド認定のステッカーを張って出荷できるものが少なくなってしまう」(漁協関係者)といった危機感が増し、大間で揚がればみな「大間まぐろ」として出荷できるようにした。大間同様に青森県大畑産の本マグロにも出荷時にステッカーが貼られている同じく出荷時にステッカーが貼られてた北海道戸井産の本マグロ 国産の生鮮魚介の場合、水産物の表示基準では、原産地は原則として漁場、もしくは水揚げ港か都道府県名を記載することができ、太平洋で獲ったマグロでも大間港で揚がれば「大間まぐろ」とすること自体に問題はない。小売店でも、魚のパックに「〇〇産」と、漁港や地名が表記されていることは多いが、決してその港の沖で獲られた魚ばかりではない。ただ、他の魚とは一線を画す「大間まぐろ」だけに、ブランド条件から漁場を除外するのは「少々残念な気がする」(豊洲市場関係者)との声も。その一方で、「大間の漁師も漁の継続が厳しいと聞く。たとえ大間沖で獲ったマグロでなくても、他の産地同様に大間のマグロとして流通させたらいい」(同市場仲卸)といった寛容な意見もある。伝説の3億3000万円のマグロ漁獲無報告やブランド条件の変更についても、その根底には「大間まぐろ」というネームバリューの高さがある。これまで旧築地~豊洲市場の初競り1番マグロは、高値が話題となった2000年以降、11年の北海道・戸井産を除き、すべてが大間産。01年の1本2000万円超えで不動の地位を築き、13年に初めて1億円の大台に達する1億5540万円、19年には3億3360万円と伝説の史上最高値を叩き出して、「日本一」を独走中だ。今年の豊洲の初競りで、仲卸のやま幸が1本3604万円で落札した大間の本マグロ。「銀座おのでら」に卸され、寿司ネタなどとして提供された ただ、そうした唯一無二の「大間まぐろ」の評価に、異論を唱えるマグロ専門業者は少なくない。長年マグロ漁師を経験し、築地場外市場で鮮魚店「みやこ」を営む店主は、「津軽海峡や太平洋にしても、大間と同じ漁場で獲ったマグロは、ほかの港にも揚がる。マグロの価値はどこも大差ないよ」と話す。豊洲市場でも、初競りを除いた競りでは、青森県の三厩(みんまや)や大畑港、それに北海道の戸井港などから運ばれるマグロが、大間産以上の値を付けることはしばしば。どれも上マグロが獲れる共通の漁場からきたものだ。豊洲のマグロの競り人は、さらにこう付け加える。「確かに数十年前までは、揚がったマグロの活締めや内臓を取って氷を詰める鮮度維持の処理は、大間がすごく丁寧だったが、今は他の産地でもうまく処理するようになった」知名度が圧倒的に違う漁場が同じとはいえマグロには個体差があるため、市場では大間産が1番とは一概に言えないようだが、出回る数の上では大きな差がある。青森県の漁獲枠を見ると、大間が全体の半分近くを占めており、結果として上マグロの多くが大間産と言える。さらに、豊洲のように多くの漁港から来たマグロが並べられ、品定めを行う市場でなければ、各産地の質を比較するのは難しい。そうなると、市場の外では地名度が群を抜いている大間のネームバリューが物を言う。東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」は、大間のマグロの質の良さをかなり前から感じ、寿司ダネとして仕入れてきた。店主は「冬場になれば、上マグロといえば大間。最高級マグロの代名詞にもなっている。上マグロの産地はいくつかあるが、ほかの産地を知らない人もいて、大間のマグロを握ると、客の酒も進むんだよね」とこぼす。 また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。
今年2月7日、本マグロを漁獲したものの、その一部を青森県へ報告しなかったとして、大間町の水産業者2人が漁業法違反の容疑で逮捕された。
容疑は2021年夏に、漁業者と共謀し、本マグロ漁獲量のうち約18トンを県に報告せずに流通させたというものだ。このほかにも多くの本マグロが資源管理の規制から逃れ、県外に「大間まぐろ」として流れていたことが分かっている。
大間のマグロを巡る逮捕劇を受け、野村哲郎農林水産大臣は2月10日の会見で「このような行為を防止するため、再発防止の管理ができるのか、今、検討している。今後、こういうことが横行していけば国際的な信用を失っていく」と指摘。対応策の検討を強調した。
そもそも今回の事件、マグロの漁獲を県に報告しなかったというのは、何が悪いのか-。漁獲報告を失念したという単純なミスならともかく、大量にマグロを獲り、漁獲実績としない、つまり「なかったことにする」というのは、産地偽装や「密漁」というわけではないものの、意外と深刻な問題になる。
本マグロに関しては、日本だけでなく外国も含めて、資源評価を行った上で管理策が敷かれており、国内ではシーズンに応じて、漁法や都道府県ごとの漁獲上限が定められている。この上限を守るために必要なのが、漁業者による漁獲報告。偽れば資源管理の根本が揺るがされる。
漁獲の事実を隠すというのは、他の地域の漁業者にとってはハタ迷惑な話で、ルールそのものに意味がなくなるのだ。乱獲によりマグロが減れば、そのツケを払うのは大間の漁師だけではなくなって連帯責任の大問題に。資源状況によっては、県外の漁業者や外国漁船にとっても影響が出かねない。
こうした無秩序な漁獲や流通は以前から横行しているとみられている。
青森県では2021年度に、大間など3漁協で少なくとも約60トンの本マグロの漁獲が報告されておらず、漁獲規制から逃れるため、報告しないまま流通させる「脇売り」と呼ばれるマグロが、横行していたことをうかがわせる。
日本一の生マグロを供給する青森県の大間漁業協同組合
無報告分が約60トンあったことで、青森県は定められた漁獲枠(605.9トン)を16トン超過したことが分かり、国の水産政策審議会では2022年の枠から差し引くことを決め、大間漁協の割当も相応分が減らされている。こうした中、水産業者2人の逮捕以降、漁業者らを含め関係者への捜査は継続中の模様。関わった漁業者は20人以上いるとみられ、脇売りが常態化していたとの見方もある。横行するルール違反に対して、有識者からは日本の漁業管理策や罰則が「甘すぎる」と指摘されており、規制策の厳格化を求める声は多い。 大間沖のマグロでなくても「大間まぐろ」に一方、大間漁協は昨年秋、商標登録されている「大間まぐろ」のブランド条件を緩和。「大間沖で漁獲されるマグロ」から「大間の港に水揚げされ、荷受けされたマグロ」に変更し、特許庁に再出願している。大間は下北半島にあって本州最北端に位置し、北海道南岸との間の津軽海峡に面している。これまで、大間沖の津軽海峡で一本釣りとはえ縄漁によって獲った本マグロを「大間まぐろ」とし、最高級マグロの産地としての地位を築いてきたのだが、ここへきて「大間沖」という条件を撤回。太平洋など他の海域で獲れたマグロにも、「大間まぐろ」であるというお墨付きを新たに与えることにした。条件緩和の背景には、近年、秋~冬のマグロ漁場が津軽海峡よりも東側の太平洋沖に形成される傾向にあることが挙げられる。研究機関も「近年は三陸沖の太平洋でマグロが回遊するケースが多く、それを狙って青森県の漁業者が漁獲している」と認識していた。津軽海峡での漁獲が低調になったことで、大間では「(従来の)『大間まぐろ』の条件である『大間沖』という漁場にこだわっていては、ブランド認定のステッカーを張って出荷できるものが少なくなってしまう」(漁協関係者)といった危機感が増し、大間で揚がればみな「大間まぐろ」として出荷できるようにした。大間同様に青森県大畑産の本マグロにも出荷時にステッカーが貼られている同じく出荷時にステッカーが貼られてた北海道戸井産の本マグロ 国産の生鮮魚介の場合、水産物の表示基準では、原産地は原則として漁場、もしくは水揚げ港か都道府県名を記載することができ、太平洋で獲ったマグロでも大間港で揚がれば「大間まぐろ」とすること自体に問題はない。小売店でも、魚のパックに「〇〇産」と、漁港や地名が表記されていることは多いが、決してその港の沖で獲られた魚ばかりではない。ただ、他の魚とは一線を画す「大間まぐろ」だけに、ブランド条件から漁場を除外するのは「少々残念な気がする」(豊洲市場関係者)との声も。その一方で、「大間の漁師も漁の継続が厳しいと聞く。たとえ大間沖で獲ったマグロでなくても、他の産地同様に大間のマグロとして流通させたらいい」(同市場仲卸)といった寛容な意見もある。伝説の3億3000万円のマグロ漁獲無報告やブランド条件の変更についても、その根底には「大間まぐろ」というネームバリューの高さがある。これまで旧築地~豊洲市場の初競り1番マグロは、高値が話題となった2000年以降、11年の北海道・戸井産を除き、すべてが大間産。01年の1本2000万円超えで不動の地位を築き、13年に初めて1億円の大台に達する1億5540万円、19年には3億3360万円と伝説の史上最高値を叩き出して、「日本一」を独走中だ。今年の豊洲の初競りで、仲卸のやま幸が1本3604万円で落札した大間の本マグロ。「銀座おのでら」に卸され、寿司ネタなどとして提供された ただ、そうした唯一無二の「大間まぐろ」の評価に、異論を唱えるマグロ専門業者は少なくない。長年マグロ漁師を経験し、築地場外市場で鮮魚店「みやこ」を営む店主は、「津軽海峡や太平洋にしても、大間と同じ漁場で獲ったマグロは、ほかの港にも揚がる。マグロの価値はどこも大差ないよ」と話す。豊洲市場でも、初競りを除いた競りでは、青森県の三厩(みんまや)や大畑港、それに北海道の戸井港などから運ばれるマグロが、大間産以上の値を付けることはしばしば。どれも上マグロが獲れる共通の漁場からきたものだ。豊洲のマグロの競り人は、さらにこう付け加える。「確かに数十年前までは、揚がったマグロの活締めや内臓を取って氷を詰める鮮度維持の処理は、大間がすごく丁寧だったが、今は他の産地でもうまく処理するようになった」知名度が圧倒的に違う漁場が同じとはいえマグロには個体差があるため、市場では大間産が1番とは一概に言えないようだが、出回る数の上では大きな差がある。青森県の漁獲枠を見ると、大間が全体の半分近くを占めており、結果として上マグロの多くが大間産と言える。さらに、豊洲のように多くの漁港から来たマグロが並べられ、品定めを行う市場でなければ、各産地の質を比較するのは難しい。そうなると、市場の外では地名度が群を抜いている大間のネームバリューが物を言う。東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」は、大間のマグロの質の良さをかなり前から感じ、寿司ダネとして仕入れてきた。店主は「冬場になれば、上マグロといえば大間。最高級マグロの代名詞にもなっている。上マグロの産地はいくつかあるが、ほかの産地を知らない人もいて、大間のマグロを握ると、客の酒も進むんだよね」とこぼす。 また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。
無報告分が約60トンあったことで、青森県は定められた漁獲枠(605.9トン)を16トン超過したことが分かり、国の水産政策審議会では2022年の枠から差し引くことを決め、大間漁協の割当も相応分が減らされている。
こうした中、水産業者2人の逮捕以降、漁業者らを含め関係者への捜査は継続中の模様。関わった漁業者は20人以上いるとみられ、脇売りが常態化していたとの見方もある。横行するルール違反に対して、有識者からは日本の漁業管理策や罰則が「甘すぎる」と指摘されており、規制策の厳格化を求める声は多い。
一方、大間漁協は昨年秋、商標登録されている「大間まぐろ」のブランド条件を緩和。「大間沖で漁獲されるマグロ」から「大間の港に水揚げされ、荷受けされたマグロ」に変更し、特許庁に再出願している。
大間は下北半島にあって本州最北端に位置し、北海道南岸との間の津軽海峡に面している。これまで、大間沖の津軽海峡で一本釣りとはえ縄漁によって獲った本マグロを「大間まぐろ」とし、最高級マグロの産地としての地位を築いてきたのだが、ここへきて「大間沖」という条件を撤回。太平洋など他の海域で獲れたマグロにも、「大間まぐろ」であるというお墨付きを新たに与えることにした。
条件緩和の背景には、近年、秋~冬のマグロ漁場が津軽海峡よりも東側の太平洋沖に形成される傾向にあることが挙げられる。研究機関も「近年は三陸沖の太平洋でマグロが回遊するケースが多く、それを狙って青森県の漁業者が漁獲している」と認識していた。
津軽海峡での漁獲が低調になったことで、大間では「(従来の)『大間まぐろ』の条件である『大間沖』という漁場にこだわっていては、ブランド認定のステッカーを張って出荷できるものが少なくなってしまう」(漁協関係者)といった危機感が増し、大間で揚がればみな「大間まぐろ」として出荷できるようにした。
大間同様に青森県大畑産の本マグロにも出荷時にステッカーが貼られている
同じく出荷時にステッカーが貼られてた北海道戸井産の本マグロ
国産の生鮮魚介の場合、水産物の表示基準では、原産地は原則として漁場、もしくは水揚げ港か都道府県名を記載することができ、太平洋で獲ったマグロでも大間港で揚がれば「大間まぐろ」とすること自体に問題はない。小売店でも、魚のパックに「〇〇産」と、漁港や地名が表記されていることは多いが、決してその港の沖で獲られた魚ばかりではない。ただ、他の魚とは一線を画す「大間まぐろ」だけに、ブランド条件から漁場を除外するのは「少々残念な気がする」(豊洲市場関係者)との声も。その一方で、「大間の漁師も漁の継続が厳しいと聞く。たとえ大間沖で獲ったマグロでなくても、他の産地同様に大間のマグロとして流通させたらいい」(同市場仲卸)といった寛容な意見もある。伝説の3億3000万円のマグロ漁獲無報告やブランド条件の変更についても、その根底には「大間まぐろ」というネームバリューの高さがある。これまで旧築地~豊洲市場の初競り1番マグロは、高値が話題となった2000年以降、11年の北海道・戸井産を除き、すべてが大間産。01年の1本2000万円超えで不動の地位を築き、13年に初めて1億円の大台に達する1億5540万円、19年には3億3360万円と伝説の史上最高値を叩き出して、「日本一」を独走中だ。今年の豊洲の初競りで、仲卸のやま幸が1本3604万円で落札した大間の本マグロ。「銀座おのでら」に卸され、寿司ネタなどとして提供された ただ、そうした唯一無二の「大間まぐろ」の評価に、異論を唱えるマグロ専門業者は少なくない。長年マグロ漁師を経験し、築地場外市場で鮮魚店「みやこ」を営む店主は、「津軽海峡や太平洋にしても、大間と同じ漁場で獲ったマグロは、ほかの港にも揚がる。マグロの価値はどこも大差ないよ」と話す。豊洲市場でも、初競りを除いた競りでは、青森県の三厩(みんまや)や大畑港、それに北海道の戸井港などから運ばれるマグロが、大間産以上の値を付けることはしばしば。どれも上マグロが獲れる共通の漁場からきたものだ。豊洲のマグロの競り人は、さらにこう付け加える。「確かに数十年前までは、揚がったマグロの活締めや内臓を取って氷を詰める鮮度維持の処理は、大間がすごく丁寧だったが、今は他の産地でもうまく処理するようになった」知名度が圧倒的に違う漁場が同じとはいえマグロには個体差があるため、市場では大間産が1番とは一概に言えないようだが、出回る数の上では大きな差がある。青森県の漁獲枠を見ると、大間が全体の半分近くを占めており、結果として上マグロの多くが大間産と言える。さらに、豊洲のように多くの漁港から来たマグロが並べられ、品定めを行う市場でなければ、各産地の質を比較するのは難しい。そうなると、市場の外では地名度が群を抜いている大間のネームバリューが物を言う。東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」は、大間のマグロの質の良さをかなり前から感じ、寿司ダネとして仕入れてきた。店主は「冬場になれば、上マグロといえば大間。最高級マグロの代名詞にもなっている。上マグロの産地はいくつかあるが、ほかの産地を知らない人もいて、大間のマグロを握ると、客の酒も進むんだよね」とこぼす。 また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。
国産の生鮮魚介の場合、水産物の表示基準では、原産地は原則として漁場、もしくは水揚げ港か都道府県名を記載することができ、太平洋で獲ったマグロでも大間港で揚がれば「大間まぐろ」とすること自体に問題はない。小売店でも、魚のパックに「〇〇産」と、漁港や地名が表記されていることは多いが、決してその港の沖で獲られた魚ばかりではない。
ただ、他の魚とは一線を画す「大間まぐろ」だけに、ブランド条件から漁場を除外するのは「少々残念な気がする」(豊洲市場関係者)との声も。その一方で、「大間の漁師も漁の継続が厳しいと聞く。たとえ大間沖で獲ったマグロでなくても、他の産地同様に大間のマグロとして流通させたらいい」(同市場仲卸)といった寛容な意見もある。
漁獲無報告やブランド条件の変更についても、その根底には「大間まぐろ」というネームバリューの高さがある。
これまで旧築地~豊洲市場の初競り1番マグロは、高値が話題となった2000年以降、11年の北海道・戸井産を除き、すべてが大間産。01年の1本2000万円超えで不動の地位を築き、13年に初めて1億円の大台に達する1億5540万円、19年には3億3360万円と伝説の史上最高値を叩き出して、「日本一」を独走中だ。
今年の豊洲の初競りで、仲卸のやま幸が1本3604万円で落札した大間の本マグロ。「銀座おのでら」に卸され、寿司ネタなどとして提供された
ただ、そうした唯一無二の「大間まぐろ」の評価に、異論を唱えるマグロ専門業者は少なくない。長年マグロ漁師を経験し、築地場外市場で鮮魚店「みやこ」を営む店主は、「津軽海峡や太平洋にしても、大間と同じ漁場で獲ったマグロは、ほかの港にも揚がる。マグロの価値はどこも大差ないよ」と話す。豊洲市場でも、初競りを除いた競りでは、青森県の三厩(みんまや)や大畑港、それに北海道の戸井港などから運ばれるマグロが、大間産以上の値を付けることはしばしば。どれも上マグロが獲れる共通の漁場からきたものだ。豊洲のマグロの競り人は、さらにこう付け加える。「確かに数十年前までは、揚がったマグロの活締めや内臓を取って氷を詰める鮮度維持の処理は、大間がすごく丁寧だったが、今は他の産地でもうまく処理するようになった」知名度が圧倒的に違う漁場が同じとはいえマグロには個体差があるため、市場では大間産が1番とは一概に言えないようだが、出回る数の上では大きな差がある。青森県の漁獲枠を見ると、大間が全体の半分近くを占めており、結果として上マグロの多くが大間産と言える。さらに、豊洲のように多くの漁港から来たマグロが並べられ、品定めを行う市場でなければ、各産地の質を比較するのは難しい。そうなると、市場の外では地名度が群を抜いている大間のネームバリューが物を言う。東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」は、大間のマグロの質の良さをかなり前から感じ、寿司ダネとして仕入れてきた。店主は「冬場になれば、上マグロといえば大間。最高級マグロの代名詞にもなっている。上マグロの産地はいくつかあるが、ほかの産地を知らない人もいて、大間のマグロを握ると、客の酒も進むんだよね」とこぼす。 また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。
ただ、そうした唯一無二の「大間まぐろ」の評価に、異論を唱えるマグロ専門業者は少なくない。長年マグロ漁師を経験し、築地場外市場で鮮魚店「みやこ」を営む店主は、「津軽海峡や太平洋にしても、大間と同じ漁場で獲ったマグロは、ほかの港にも揚がる。マグロの価値はどこも大差ないよ」と話す。
豊洲市場でも、初競りを除いた競りでは、青森県の三厩(みんまや)や大畑港、それに北海道の戸井港などから運ばれるマグロが、大間産以上の値を付けることはしばしば。どれも上マグロが獲れる共通の漁場からきたものだ。
豊洲のマグロの競り人は、さらにこう付け加える。
「確かに数十年前までは、揚がったマグロの活締めや内臓を取って氷を詰める鮮度維持の処理は、大間がすごく丁寧だったが、今は他の産地でもうまく処理するようになった」
漁場が同じとはいえマグロには個体差があるため、市場では大間産が1番とは一概に言えないようだが、出回る数の上では大きな差がある。青森県の漁獲枠を見ると、大間が全体の半分近くを占めており、結果として上マグロの多くが大間産と言える。
さらに、豊洲のように多くの漁港から来たマグロが並べられ、品定めを行う市場でなければ、各産地の質を比較するのは難しい。そうなると、市場の外では地名度が群を抜いている大間のネームバリューが物を言う。
東京・渋谷区で人気の寿司店「おけいすし」は、大間のマグロの質の良さをかなり前から感じ、寿司ダネとして仕入れてきた。店主は「冬場になれば、上マグロといえば大間。最高級マグロの代名詞にもなっている。上マグロの産地はいくつかあるが、ほかの産地を知らない人もいて、大間のマグロを握ると、客の酒も進むんだよね」とこぼす。
また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。
また、豊洲のマグロ専門仲卸は、「大間産よりも質が上というマグロもあるが、やはり(仲卸)店に買いに来る寿司屋や料理屋は、大間を欲しがるんだよね」と打ち明けながら、複雑な表情を浮かべる。大間産の人気が突出するあまり、自分の目利きが必ずしも生かされないからだ。
もはや「最高級・うまいマグロ」の代名詞となった大間のマグロ。ただ、実際に高級マグロが獲れる漁港が他にも存在することを考えれば、うかうかしていられない。ブランド力を維持するためには、適正な漁獲・流通にも目を向け、正々堂々、マグロを供給すべきだ。

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