老後の仕事選びに「シルバー人材センターが頼りにならない」理由

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人生100年時代。「人生最後の職場を探そう」と、シニア転職に挑む50、60代が増えている。しかし、支援の現場ではシニア転職の成功事例だけでなく、失敗事例も目にする。シニア専門転職支援会社「シニアジョブ」代表の中島康恵氏が、シニア転職現場のリアルを紹介する。 今回はシルバー人材センターについて解説してみよう。定年後の就職先探しにシルバー人材センターをあてにする人も多いが、「ひとまずシルバー人材センターに足を運べば安心だろう」と考えている人がいるとしたら、注意を促したい。その理由や、シルバー人材センター利用に向いている人、向いていない人の違いを解説する。
◆そもそもシルバー人材センターって何?
まず、シルバー人材とはそもそもどんなところとサービスなのかを整理しよう。シルバー人材センターは民間サービスではなく公共サービスで、営利法人(株式会社)ではない。多くは「社団法人」で、一部に「財団法人」もあるが、その前に「公益」とつく、公益性の認定を受けた公益法人だ。
つまり、シルバー人材センターは、公共の利益のためにシルバー人材を扱っているのだが、国や都道府県、市区町村の運営ではない。形式としては、地域の高齢者自身が「自主的に」シルバー人材センターを運営しており、国や都道府県が援助をしている、という構図になっている。
そのため、シルバー人材センターのサービスを受けるにはその地域のシルバー人材センターの「会員になる」という形を取っている。会員が互助的に仕事の斡旋をしており、シルバー人材センターそのものの運営も会員のシニアの中から選出することが多い。
ただし、概ね市区町村単位で設けられているシルバー人材センターは、それぞれ別法人で基本的には地域のセンターがそれぞれ独立した運営を行なっている。そのため、センターごとに状況が異なる場合もある。この後の説明もセンターによっては異なる点はご留意いただきたい。
シルバー人材センターが仕事の斡旋を行うのは、原則として「60歳以上」となっている。最近では、企業に65歳までの雇用継続が義務付けられているが、シルバー人材センターの利用は一応60歳からできる。ただし、これもまたセンターによって異なる可能性は否定できず、仕事ごとに年齢の上限・下限が決められている場合もあるので、確実に60歳以上から利用できるとは限らない。
また、仕事の斡旋の仕方が、ハローワークや人材紹介のエージェントサービス(職業紹介)と違うことにも注意が必要だ。ハローワークや人材紹介は「就職先」を紹介してくれるサービスで、選考を勝ち抜けば求人企業に就職できる。しかし、シルバー人材センターの場合、基本的には「請負」または「委任」の形の仕事を斡旋しているので、身分の保証がある社員として長期的に働けるわけではない。
一部には職業紹介や人材派遣の機能を持ったセンターもあり、社員として就職や派遣社員としての勤務ができるケースもあるが、多くは「請負」「委任」の形態で個人事業主として働くことになる。福利厚生、収入、安定などの面では注意したい。
◆もし60代前半がシルバー人材センターを利用したら?
では仮に、60歳で定年を迎え、再雇用を受けずに退職した人が地域のシルバー人材センターで仕事探しを始めたらどうなるのか。一つの例を出してみよう。
長年、都内の会社に営業として勤めた男性、Aさんは、60歳で定年を迎え、それなりの貯金と退職金もあったため、再雇用を受けずに退職した。働き詰めだったので奥さんとの旅行など、しばらくはゆっくり過ごそうと思ったためだ。

この段階でのシルバー人材センターの反応は2つに分かれる。比較的若い60代前半を重宝するケースと、年配の人が多いし、仕事もそう多くないからとわりと冷めた対応となるケースだ。最近では、「自分はまだシニアではない、もっとバリバリ働きたい」とシルバー人材センターを活用しない人が増え、むしろ人手不足となるセンターもあると聞く。
センターの反応はともかく、次にAさんは、自分のイメージした仕事があまりなさそうなことに戸惑う。現役時代は内勤も多い営業職だったAさんは、書類作成や営業などの仕事なら自分の経験を活かせると思ったのだが、勧められる仕事は「60代前半ならまだまだ元気だから」と、草刈りやさらに年配の方の介助の仕事がほとんどだった。事務仕事は主に女性のシニアがやっていて、しかも手書きで宛名書きなどの仕事も多いという。
とりあえずAさんは、行政の配布物を家々に配達する仕事と、草刈りの仕事をすることにした。草刈りの仕事は単発。行政の配布物の配達は毎月定期的にあるが、数日で終わってしまう。それぞれお小遣い程度にしかならない。しかも、シルバー人材センターの会員同士の飲み会が発生し、むしろ出費のほうが大きかった。
配布物の配達は一人で気楽だが、草刈りは造園会社の人に監督されるので面倒だった。また、結構体力も必要で、炎天下では大変な仕事だ。駐輪場や市の施設の管理の仕事も希望しているが、それらは人気で空きがなく、順番待ちだという。
「こんなことなら普通にどこかの会社に勤めたほうがやりがいも収入もあるのではないか」そう思ったAさんは、ネットで検索したパートの営業職に応募し、採用された。最初はシルバー人材センターの仕事と掛けもちしていたが、給料は段違いだし会社の健康保険にも入れる。
結局、フルタイムの契約社員になり、シルバー人材センターではもっと年齢が上がるまではしばらく勤めないことにしたという。
◆シルバー人材センター活用に向いている人・いない人
前述のAさんは、シルバー人材センターの仕事のイメージを誤解しており、もっとバリバリ働けれる場所を探して移っていったパターンだったことがミスマッチを生んでしまった。
では、どういった人ならシルバー人材センターが向いていて、どういった人には向かないのか。まとめると以下のようになる。
【シルバー人材センターに向いている人】・65~75歳くらいの人・そこまでしっかり働くわけではない人・地域に貢献したい人・社交的な人、地域で交流したい人
【シルバー人材センターに向かない人】・しっかり働きたい人、長時間働きたい人・しっかりお金を稼ぎたい人・地域を超えて活躍したい人・あまり交流したくない人・自分に合った仕事を選びたい人、スキルをしっかり活かしたい人
そもそも、シルバー人材センターで主に働く人は、65~75歳が多い。60代前半の人は今では少なく、また、75歳以上は仕事の種類が減ってしまう。
長時間働きたい人や、しっかりお金を稼ぎたい人にとっても、シルバー人材センターはそういった趣旨で作られていないため、向いていないだろう。
◆地域と離れていた人には不向き
また、意外と重要になるのが、地域の枠組みとその中での交流だ。シルバー人材センターは地域に根ざし、地域に貢献する趣旨で作られているので、その市区町村の外で活躍するような仕事は原則なく、そうしたスキルも活かせない。
シルバー人材センターそのものも、その市区町村の職員だった人や長く貢献していた人が運営に携わっている。そうした“しがらみ”や人づき合いがどうしてもサービスに反映される。なので、現役時代に地域と離れて活躍していたような人だと、馴染みにくい部分が出てくるのだ(ちなみに、大手企業ではOB・OG会が企業版シルバー人材センターのようなシニア活躍の場を模索しているケースもある)。
自身の経験スキルを活かす点についても同様に、地域の枠組みの中でしか活かせず、その仕事数も多くない。やはり自分に合った仕事にしっかり取り組みたい人にとっては向いていないことが多くなりそうだ。
会社員などとして働き続ける年齢が、65歳、70歳と上がり続け、インターネットやモビリティの環境変化によって地域の枠組みも変化している現在、シルバー人材センターもまた、こうした年齢と地域の枠組みの変化の影響に合わせて今後変化していくのかもしれない。

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