2月16日、元セクシー女優の澁谷果歩氏が、自身が過去に出演したアダルト作品の無修正動画がインターネット上に流出したとして、制作者らに対し損害賠償を求める訴えを起こした。異例の対応だが、過去を振り返ると無修正動画流出は何度も起きていた。
【写真】七段の棚にびっしりの分厚い本の前で語る澁谷果歩さん。アザーカットも アダルトビデオ(AV)業界の歴史を紐解いた『日本AV全史』の著者でアダルトメディア研究家の安田理央氏が話す。「流出の歴史の前に触れておきたいのが『裏ビデオ』の存在です。そもそも無修正ものは裏ビデオという名称で1980年頃に制作、販売されていました。とは言っても、国内では無修正動画の制作や販売はわいせつ物頒布罪にあたるため、違法なルートでの流通でした」
もともとは「流出」ではなく、「撮り下ろし」が無修正動画の始まりだった。「1980年代中期にトップセクシー女優が出演した作品の無修正版が流出し、正規の作品ではなく、流出した無修正版の方が異例の5万本以上の売上を記録しました。これ以降、業界には“正規品の無修正版は売れる”という悪しき認識が芽生えたように思います。ここから一気に裏ビデオの撮り下ろしは廃れ、流出が横行するようになります。 編集スタジオで修正作業をする前の『ワークテープ』と呼ばれるものが流出しているので、制作関係者が持ち出したり、メーカーが倒産した際に債権者が裏市場に流したり、といった可能性が指摘されていました。また、編集スタジオがこっそりとダビングして流しているといった噂もありました。実際、真偽のほどはわかりませんが、1993年にNetflix『全裸監督』のモデルになった村西とおる氏のセクシービデオメーカーが倒産した直後に、そのメーカーの作品の映像が大量流出したことがあります」(安田氏) 時代がビデオからDVD、インターネットへと変わりゆく中で、流出経緯も変化していく。「1993年には、すでにテレビタレントとして人気だった飯島愛さんの作品が流出し話題を呼びました。また、2001年には当時のトップ女優の無修正動画がインターネット上に流れて業界内は騒然としました。ネットでの流出は世界規模になるからです」(安田氏) 2018年には有名AV監督の作品が多数流出し、その監督は行方知れずに。2021年には大手メーカーの作品が大量流出したこともあった。この2つの”事件”では、今も現役で活躍する有名セクシー女優はもちろんのこと、すでに引退した女優の過去作品も含まれていたため、業界史上最大の被害と言える。 なぜ、無修正動画の流出は起きるのか。メーカー側の管理体制や管理意識について、上述した大手メーカーの関係者に聞いた。「そもそも社外には持ち出さない厳重ルールの元、素材を扱うカメラマンや監督、編集スタッフと契約書を結んだり、無修正素材を扱う編集ルームには限られた人間しか入れないようにするなど徹底した管理体制を敷いていました。それでもシステムへのハッキングのリスクはありますし、場合によっては関係スタッフによる故意の持ち出しや金銭目的など、人的な要因がすごく大きいんです。そのため、どうしても100%防ぐことができていない」 さまざまな脅威に、セクシー女優たちは晒されているのが実情なのだ。「今回の澁谷果歩さんの流出事件においては、メーカー側の管理体制が問われています。ただ、このデジタル時代に、実際に完全に管理するのは難しい側面がある、というのも正直な感想です。女優側にとっても、それだけのリスクがある仕事だという意識と覚悟が必要なのかもしれません」(安田氏) セクシー女優たちが所属するプロダクションも、最近では新人女優へのリスク説明はとくに入念にしているという。ある大手プロダクション関係者が続ける。「セクシー女優になることのリスクはきちんと伝えます。そうでなければ後にトラブルとなった際に、多大な損害を被るケースもあり、メーカーはもちろんプロダクションにとってもデメリットしかないからです。親バレや身バレなどはもちろんのこと、プロダクションによっては、過去の動画流出の事例を説明し、そのリスクについても納得してもらった上で契約を交わすケースがあるほどです」 澁谷氏は、提訴当日の会見で次のように吐露していた。「私は今でも、セクシー女優だった過去に後悔も後ろめたさもありません。むしろその過去があるからこそ、現在タレント活動ができていることに感謝しています。 しかし日本では、無修正動画の制作や販売は『わいせつ物頒布罪』に該当するため、たとえ本人に過失はなくても流出してしまえば広い意味で犯罪に“加担”したことになる。そのトラブルに巻き込まれたことで、改めて今後も覚悟をし続けなければいけないのだろうと思いました」 作品の作り手であり、データ管理をも担うビデオメーカーには、今後さらなる管理体制の徹底を求めたい──。取材・文/河合桃子
アダルトビデオ(AV)業界の歴史を紐解いた『日本AV全史』の著者でアダルトメディア研究家の安田理央氏が話す。
「流出の歴史の前に触れておきたいのが『裏ビデオ』の存在です。そもそも無修正ものは裏ビデオという名称で1980年頃に制作、販売されていました。とは言っても、国内では無修正動画の制作や販売はわいせつ物頒布罪にあたるため、違法なルートでの流通でした」
もともとは「流出」ではなく、「撮り下ろし」が無修正動画の始まりだった。
「1980年代中期にトップセクシー女優が出演した作品の無修正版が流出し、正規の作品ではなく、流出した無修正版の方が異例の5万本以上の売上を記録しました。これ以降、業界には“正規品の無修正版は売れる”という悪しき認識が芽生えたように思います。ここから一気に裏ビデオの撮り下ろしは廃れ、流出が横行するようになります。
編集スタジオで修正作業をする前の『ワークテープ』と呼ばれるものが流出しているので、制作関係者が持ち出したり、メーカーが倒産した際に債権者が裏市場に流したり、といった可能性が指摘されていました。また、編集スタジオがこっそりとダビングして流しているといった噂もありました。実際、真偽のほどはわかりませんが、1993年にNetflix『全裸監督』のモデルになった村西とおる氏のセクシービデオメーカーが倒産した直後に、そのメーカーの作品の映像が大量流出したことがあります」(安田氏)
時代がビデオからDVD、インターネットへと変わりゆく中で、流出経緯も変化していく。
「1993年には、すでにテレビタレントとして人気だった飯島愛さんの作品が流出し話題を呼びました。また、2001年には当時のトップ女優の無修正動画がインターネット上に流れて業界内は騒然としました。ネットでの流出は世界規模になるからです」(安田氏)
2018年には有名AV監督の作品が多数流出し、その監督は行方知れずに。2021年には大手メーカーの作品が大量流出したこともあった。この2つの”事件”では、今も現役で活躍する有名セクシー女優はもちろんのこと、すでに引退した女優の過去作品も含まれていたため、業界史上最大の被害と言える。
なぜ、無修正動画の流出は起きるのか。メーカー側の管理体制や管理意識について、上述した大手メーカーの関係者に聞いた。
「そもそも社外には持ち出さない厳重ルールの元、素材を扱うカメラマンや監督、編集スタッフと契約書を結んだり、無修正素材を扱う編集ルームには限られた人間しか入れないようにするなど徹底した管理体制を敷いていました。それでもシステムへのハッキングのリスクはありますし、場合によっては関係スタッフによる故意の持ち出しや金銭目的など、人的な要因がすごく大きいんです。そのため、どうしても100%防ぐことができていない」
さまざまな脅威に、セクシー女優たちは晒されているのが実情なのだ。
「今回の澁谷果歩さんの流出事件においては、メーカー側の管理体制が問われています。ただ、このデジタル時代に、実際に完全に管理するのは難しい側面がある、というのも正直な感想です。女優側にとっても、それだけのリスクがある仕事だという意識と覚悟が必要なのかもしれません」(安田氏)
セクシー女優たちが所属するプロダクションも、最近では新人女優へのリスク説明はとくに入念にしているという。ある大手プロダクション関係者が続ける。
「セクシー女優になることのリスクはきちんと伝えます。そうでなければ後にトラブルとなった際に、多大な損害を被るケースもあり、メーカーはもちろんプロダクションにとってもデメリットしかないからです。親バレや身バレなどはもちろんのこと、プロダクションによっては、過去の動画流出の事例を説明し、そのリスクについても納得してもらった上で契約を交わすケースがあるほどです」
澁谷氏は、提訴当日の会見で次のように吐露していた。
「私は今でも、セクシー女優だった過去に後悔も後ろめたさもありません。むしろその過去があるからこそ、現在タレント活動ができていることに感謝しています。
しかし日本では、無修正動画の制作や販売は『わいせつ物頒布罪』に該当するため、たとえ本人に過失はなくても流出してしまえば広い意味で犯罪に“加担”したことになる。そのトラブルに巻き込まれたことで、改めて今後も覚悟をし続けなければいけないのだろうと思いました」
作品の作り手であり、データ管理をも担うビデオメーカーには、今後さらなる管理体制の徹底を求めたい──。
取材・文/河合桃子