羽生九段vs藤井五冠の勝負の行方を加藤一二三・元名人が分析 「大接戦になると思っていた」

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まさか、の展開である。20歳の第一人者・藤井聡太五冠に、52歳の羽生善治九段が挑んだ将棋の王将戦。圧倒的に藤井有利との声が大きかったが、いざ始まればがっぷり四つ。伝説のボクシングの名勝負を思い起こさせる、タイトル奪取の奇跡も見えてきて……。
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【写真】「徹子の部屋」に出演し妻(元女優の畠田理恵さん)や娘、ペットのウサギについて話した羽生善治九段 昨年度の勝率は8割1分に対し、3割6分。 タイトル戦11戦無敗の現役五冠に対し、2年以上出場なしの無冠。 羽生九段が初の七冠制覇を達成した史上最強棋士の一人であることは誰も疑わないが、数字だけを見れば、昇り竜の若武者に対しての劣勢は否定しようがない。

羽生善治九段 しかし、年明けから始まった7番勝負は、羽生九段が今月9、10日に行われた第4局に勝利し、2勝2敗のタイに持ち込んでいる。これまで7番勝負のタイトル戦第4局終了時点において、リードを奪えなかったことはない藤井五冠。予想外の苦戦を強いられているのだ。奇策を繰り出し続ける羽生九段「私は初めから大接戦になると思っていましたよ」 と語るのは、加藤一二三・元名人である。「何しろですね、羽生さんは王将戦の挑戦者決定リーグを、何と全勝で突破しているんです。渡辺(明・名人)さんや永瀬(拓矢・王座)さんなどトップクラスばかりを相手にですからね、勢いは十分です。羽生さんはタイトルをあとひとつ奪取すれば前人未踏の通算100期に乗る。その最後のチャンスと思って並々ならぬ意欲で臨んでいますよね」 藤井五冠のプロ初戦の対戦相手でもある「ひふみん」に、これまでの4局を早口で振り返ってもらうと、「まず初戦はですね、羽生さんは負けましたけど、『一手損角換わり』という非常に珍しい戦法を取りました。2局目は羽生さんが会心譜で勝利。対して藤井さんは終盤で珍しく判断ミスをし、悪手を指してしまったのが響きましたね。3局目は羽生さんに負けが付きましたが、互角の大接戦」 先日の4局目でも、「羽生さんは『角換わり腰掛け銀』という、藤井さんが好んで使う戦法にあえて挑みました。これには驚きましたが、十分に研究を重ねてきたんでしょう、快勝でしたね。藤井さんは封じ手でのミスが響きました」 すなわち、相手の意表を突く戦法を果敢に繰り出す羽生九段に対し、藤井五冠はらしからぬミスが目立つという展開が続いているのである。“予想しない手を指す”「藤井さんには、プレッシャーがかかっていると思いますよ」 と述べるのは、日本将棋連盟の常務理事を務める森下卓九段。森下九段は羽生九段と4回タイトル戦を戦い、いずれも敗れた経験を持つが、「初めて(7番勝負の)タイトル戦で2勝2敗に持ち込まれた藤井さん。いつもと違う流れである上に、相手が大舞台で百戦錬磨の羽生さんですからね。いくら“AIの化身”と言われる藤井さんだって、まだ20歳の生身の青年でしょう。平常心を保つのは難しいと思いますよ」 実際、このシリーズでは、対局合間の取材時に、藤井五冠が「これくらいでいいでしょうか」と珍しく質問を打ち切る場面が見られたという。「(羽生九段は)予想しない手を指す」と語ったことも。 対して羽生九段はいつになく食欲旺盛で、食事にステーキ、うな重、トンテキなどを注文しているとか。 となれば、約半世紀前、40戦無敗と無敵の強さを誇った25歳のジョージ・フォアマンに全盛期を過ぎたモハメド・アリが挑み、ロープに体を預ける奇策で勝利を収めたボクシングの「キンシャサの奇跡」よろしく、羽生九段劇的勝利も見えてこようが、その点は加藤、森下両氏とも声をそろえて、「ここまでくれば、十分に勝機はあるでしょう」 ポイントとなる第5局は25、26日に行われる。タイトル奪取ならば、まさに「中年の星」となるが、その結末は……。「週刊新潮」2023年2月23日号 掲載
昨年度の勝率は8割1分に対し、3割6分。
タイトル戦11戦無敗の現役五冠に対し、2年以上出場なしの無冠。
羽生九段が初の七冠制覇を達成した史上最強棋士の一人であることは誰も疑わないが、数字だけを見れば、昇り竜の若武者に対しての劣勢は否定しようがない。
しかし、年明けから始まった7番勝負は、羽生九段が今月9、10日に行われた第4局に勝利し、2勝2敗のタイに持ち込んでいる。これまで7番勝負のタイトル戦第4局終了時点において、リードを奪えなかったことはない藤井五冠。予想外の苦戦を強いられているのだ。
「私は初めから大接戦になると思っていましたよ」
と語るのは、加藤一二三・元名人である。
「何しろですね、羽生さんは王将戦の挑戦者決定リーグを、何と全勝で突破しているんです。渡辺(明・名人)さんや永瀬(拓矢・王座)さんなどトップクラスばかりを相手にですからね、勢いは十分です。羽生さんはタイトルをあとひとつ奪取すれば前人未踏の通算100期に乗る。その最後のチャンスと思って並々ならぬ意欲で臨んでいますよね」
藤井五冠のプロ初戦の対戦相手でもある「ひふみん」に、これまでの4局を早口で振り返ってもらうと、
「まず初戦はですね、羽生さんは負けましたけど、『一手損角換わり』という非常に珍しい戦法を取りました。2局目は羽生さんが会心譜で勝利。対して藤井さんは終盤で珍しく判断ミスをし、悪手を指してしまったのが響きましたね。3局目は羽生さんに負けが付きましたが、互角の大接戦」
先日の4局目でも、
「羽生さんは『角換わり腰掛け銀』という、藤井さんが好んで使う戦法にあえて挑みました。これには驚きましたが、十分に研究を重ねてきたんでしょう、快勝でしたね。藤井さんは封じ手でのミスが響きました」
すなわち、相手の意表を突く戦法を果敢に繰り出す羽生九段に対し、藤井五冠はらしからぬミスが目立つという展開が続いているのである。
「藤井さんには、プレッシャーがかかっていると思いますよ」
と述べるのは、日本将棋連盟の常務理事を務める森下卓九段。森下九段は羽生九段と4回タイトル戦を戦い、いずれも敗れた経験を持つが、
「初めて(7番勝負の)タイトル戦で2勝2敗に持ち込まれた藤井さん。いつもと違う流れである上に、相手が大舞台で百戦錬磨の羽生さんですからね。いくら“AIの化身”と言われる藤井さんだって、まだ20歳の生身の青年でしょう。平常心を保つのは難しいと思いますよ」
実際、このシリーズでは、対局合間の取材時に、藤井五冠が「これくらいでいいでしょうか」と珍しく質問を打ち切る場面が見られたという。「(羽生九段は)予想しない手を指す」と語ったことも。
対して羽生九段はいつになく食欲旺盛で、食事にステーキ、うな重、トンテキなどを注文しているとか。
となれば、約半世紀前、40戦無敗と無敵の強さを誇った25歳のジョージ・フォアマンに全盛期を過ぎたモハメド・アリが挑み、ロープに体を預ける奇策で勝利を収めたボクシングの「キンシャサの奇跡」よろしく、羽生九段劇的勝利も見えてこようが、その点は加藤、森下両氏とも声をそろえて、
「ここまでくれば、十分に勝機はあるでしょう」
ポイントとなる第5局は25、26日に行われる。タイトル奪取ならば、まさに「中年の星」となるが、その結末は……。
「週刊新潮」2023年2月23日号 掲載

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