「飼い殺し…つらいです」福岡の職場の差別、働く障害者の悲鳴

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心身に障害のある働き手が、職場で差別的な扱いを受ける被害が後を絶たない。国は障害があることを理由に採用や待遇で差別しないよう事業主に求めるが、相談窓口に届く声は年間220件超で推移。上司や同僚の理解不足のほか、相談体制が機能していないことも背景にあるようだ。働く障害者が増える中、差別に苦しむ人を見逃さない対応が急務になっている。
障害者差別「ある」88%
「参加は難しいよね。有休を取るとか、どう?」
福岡県内の40代女性は昨年末、数日後に迫った職場のビンゴゲーム大会のことで上司に言われた。難聴のため補聴器を付けており、上司は「コミュニケーションが難しい」とそれとなく理由を明かした。
耳のことで排除されたと思い、悔しさが募った。「来ないでほしいということかな」。大会は欠席した。
今の会社に入ったのは20代後半。ハローワークで障害者枠の求人を見つけ、フルタイムのアルバイトとして採用された。職種は事務職。難聴の影響からか言葉をうまく発音できないこともあり、電話対応をしない条件で働き始めた。
ところが入社半年後、複数の同僚から嫌がらせを受け始めた。顧客の電話対応を頼むと「電話できないなら辞めれば」「どこまで聞こえんの?」。仕事も教えてもらえず、困り果てた。
その後も「いじめ」は続く。パソコンで入力作業をしていると、背後を歩く同僚からいすを蹴られる。「私たちが電話で、どんなクレームを受けているか知らないでしょ?」とすごまれることも。職場の責任者からは「障害があるから正社員にはなれないよ」と言われた。
たまりかねて東京にある本社の相談窓口に何度か報告した。本社の対応は「職場の責任者に相談してみてください」―。「言って解決しなかったから連絡したのに」。つらさで不眠にさいなまれるようになった。
今の会社に入って16年。待遇は入社時の有期雇用から無期雇用になったが、給料は時給制のままだ。思い切って昨年末、会社の枠を超えて個人加入できる労働組合に入った。適応障害や抑うつ状態と診断されたこともあり、職場での仕打ちを訴えることにした。「もうがまんできない」と声を詰まらせる。
障害のある労働者について、国は障害者雇用促進法で、差別の禁止や本人への適切な配慮を事業主に義務付けている。採用や待遇、教育訓練、福利厚生、職種の変更などで、障害を理由に異なる取り扱いをすることを差別の例に挙げる。
障害者が差別に関してハローワークに寄せた相談は2021年度、全国で227件。18~20年度は年間226~243件で推移する。上司や同僚の理解不足、相談体制の整備、コミュニケーションの悩みが多いという。
企業に雇われて働く障害者は年々増加し、22年には61万4千人に上る。この人数を考えると、ハローワークの相談件数には表れていない差別がさらに隠れている恐れもある。
女性は何度か退職を考えたが、暮らしを考えると踏み切れなかった。補聴器の買い替えには数十万円かかり、子どもの進学費用も必要で障害年金以外の収入が欠かせない。辞めても障害者枠で採用してくれる会社があるか分からない。
障害者雇用促進法は企業などに一定割合以上で障害者を雇うよう義務付け、達成できないと納付金を徴収する。22年は企業の半数近くが達成したものの大企業が中心で、中小の事業所の雇用はなお厳しい。地方都市の求人の少なさや、年齢的な再就職の難しさも考え、女性は耐え続けている。
女性が加入した労組によると、会社は今月上旬の団体交渉でパワハラや嫌がらせを否定した。労組の担当者は「会社は相談に対応せず、アルバイトから正社員になった例はあるのに女性に働きかけもしなかった。納付金を逃れるためだけに雇い、『飼い殺し』にしていると言わざるを得ない」と批判を強めた。
会社側は取材依頼に「個別案件のため応じられない」と回答した。女性は「いじめがあったことを素直に認めて謝ってほしい。つらいです」と話している。
(編集委員・河野賢治)
障害者雇用のルール 障害者雇用促進法は事業主に、従業員のうち一定割合以上で障害者を雇うよう義務付けている。この割合を「法定雇用率」と呼ぶ。民間企業の場合、43.5人以上を雇う事業主に法定雇用率が適用され、従業員の2.3%以上を雇用するよう求められる。国の集計では2022年、法定雇用率を達成した企業の割合は48%。規模別の達成度は従業員1000人以上が62%、同43.5~100人未満は46%だった。法定雇用率を満たしていない一定規模の事業主は納付金を徴収される。

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