「今日から、この人たちにすべてを任せます。金輪際、私はもうお父さんとは付き合いません!」
とある病院の一室、医師と介護士、入院中の父親が集まった場で、突然立ち上がった娘の良子さん(57歳、仮名)はそう告げて部屋を出て行った。その直前、父親は自慢げに、自身の弁護士人生を語って聞かせていたという―。
今、老親の介護や世話から逃れたいと、家族の代行サービスを利用する子供が増えている。
一般社団法人LMNの代表理事・遠藤英樹氏は今年3月、「家族じまいドットコム」という相談窓口を立ち上げた。
「もともと、身寄りのないご高齢の方の生活を助けるために始めました。当初はご本人から『サポートしてほしい』とご依頼いただくことが多かったのですが、3年ほど前から、自分の親や兄弟姉妹の世話を依頼する方が増えました。LMNに来る相談は、最近では月に約300件と、3年前の5倍に増えています」
LMNでは介護はもちろん、買い物や洗濯などの家事、通院の付き添い、そして葬儀や納骨まで代行する。初期費用が55万円で、以後は1回4時間ほどで1万6500円。全国で約400人が利用しているという。
冒頭で紹介した良子さんはその後、「父には外国に行ったと伝えてほしい」と言って、父親には知らせず国内で引っ越しをした。父親は良子さんに連絡をとろうとしたが、電話番号は変更済み。代行サービスに聞いても教えてくれない。死ぬ間際まで娘に会えない悲劇が父親を襲ったのだ。
良子さんが語る。
「父はいつも高圧的で、自分の間違いを認めません。あるとき、口論の末に『90歳を過ぎても、運転免許を返納しないのはおかしい』と言ったら、『生意気だ。そんな法律があるなら条文を言ってみろ』と怒った父に殴られて、限界が来たのです。
今では、代行サービスが月に1回、父親の様子を私に伝えてくれます。おかげで、父に怯えることもなく、安心して眠れるようになりました」
捨てられないために、どうすればよい?
「家族じまい」とは、配慮の欠けた親に対して、子供が代行サービスを利用し、親子が距離をおき、お互いの関係を作り直すことだ。
極端なケースでは、親との関係を一切絶った人もいる。葬儀には出ない、骨も見たくないと言って散骨を希望し、すべて業者に任せて終わりという徹底ぶりだ。親は、最初のうちこそ怒り心頭で代行業者に八つ当たりするものの、しばらくするとおとなしくなるという。
それでは、どんな親が子供から「家族じまい」をされてしまうのか(下の表も参照)。前出の遠藤氏が語る。
「たとえば、家のことが何もできない男性です。妻が亡くなった後、家事ができず、きちんと食事も摂れず、生活が荒んで病気になった。入院した病院も、気に入らないからと勝手に退院してしまう。
自分一人では行政や銀行の手続きが満足にできないにもかかわらず、介護施設への入所は拒否する。子供たちが説得をあきらめ、私たちのもとに相談しに来ました」
また、代行サービスに相談に来る子供は、年代で大きく2つに分けられる。
1つは、90代の親をもつ60~70代の子供。この世代の親は、いわゆる『頑固オヤジ』。プライドが高く、素直に人の世話になれない。
もう1つは、70~80代の親をもつ40~50代の子供だ。近年注目されている「毒親」が典型的で、DVをしたり、暴言を吐いたりする。前出の遠藤氏が語る。
「私たちが依頼を受けて対応するまで、親御さんは『自分が育てたんだから、多少は子供に迷惑をかけてもいいだろう』と思っているか、『自分が子供に迷惑をかけている』だなんて微塵も思っていないようなのです。
でも、子育てにはゴールがあり、子供が成長する楽しみもありますが、介護にゴールはありません。子供からすれば、親が何歳まで生きるかわからず、その終わりが見通せない。『私が子育てしたのだから、子供に介護してもらうのは当然だ』という考え方は間違いです」
家族じまいをされないためには、利己的な考え方や、他人に耳を傾けない態度を改める「自分しまい」が必要だ。そのヒントを次章で探ってみよう。
「週刊現代」2025年09月15日号より
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