「M&M’s(エムアンドエムズ)」といえば、誰もが“あのチョコレート”を思い浮かべるはずだ。小さく丸いチョコレートを、赤や黄色のカラフルな砂糖菓子でコーティングした、米マース社のロングセラーにしてベストセラーである。
【画像あり】「私がみんなのマドンナよ」セクシーすぎるチョコレート(写真右)M&M’sの発売元であるマース社が立たされた「窮地」とは?(画像:日本の公式サイトより) アメリカで発売されたのが1941年。日本でも、かれこれ35年前からスーパーやコンビニ、駅の売店でも販売されているので、知らない人は少ないだろう。そんなM&M’sが今、窮地に立たされている。なんとリニューアルをきっかけに、キャラクターたちが「無期限降板」となってしまったのだ。
問題となった「3色のキャンディー」 世界的にも有名なキャラクターたちが降板させられる1年前、マース社はM&M’sの一部キャラクターのリブランディングを進めていた。 緑の女性キャンディーはヒールの高いブーツからスニーカーに履き替えることで、いわゆるステレオタイプ的な“女性キャラ”からの脱却を図った。 また、オレンジのキャンディーは不安障害を受け入れるなど、急にダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、受け入れて、活かすこと。以下、D&I)を考慮した路線に走り始めたのだ。 この新しいアプローチはZ世代(1990年代後半~2010年代前半に生まれた世代)に寄り添う姿勢をアピールするものだと言われている。実際、当初マース社のプレスリリースにも、そう言及されていた。 だが肝心の緑も、オレンジも、当のZ世代からのウケが悪かったどころか、むしろ「前のほうがいい」と言われたり、保守層から「セクシーじゃない」と批判を集めるありさまだ。 そんな中、2022年秋にはM&M’s史上初の「ピーナッツ入りの女性キャンディー(これまでピーナッツ入りは「黄」で男性キャラという設定)」として「紫」が誕生する。彼女は「本当の自分を受け入れようとする姿勢」を表に出し、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」という歌と共に華々しくデビューする……はずだった。 だが、このデビューは、これまでの議論に、さらに火に油を注ぐ結果となる。老舗ブランドがようやくD&Iに対する理解を示したという肯定的な反応も見られるが、多くはZ世代(しかも、それが古い世代のステレオタイプによって描かれている)に中途半端に迎合してしまったことを批判するような内容だ。 たしかにダンスがヘタで、パーティーと言いつつ家で一人さびしくジグソーパズルを完成させながら飲んでいても、ピーナッツ入り(つまり若干ふくよかであることを意味している)であっても、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」と連呼するあたり、「紫」は一見多様性の代表のようにも見える。 だが実際のところ、それは旧来の価値観によって描かれた“多様性のようなもの”でしかない。むしろ、今の社会に対する認識が中途半端、浅はかであることを露呈させたとも批判されている。 例えるなら、マース社の一連のD&Iは、若い人たちの流行りに無理に付いていこうとし、最後の最後で外してしまった結果、余計にジェネレーションギャップを際立たせてしまう「痛いおじさん」のようなものだった。安直すぎる「若者ウケ」は企業にとって逆効果 M&M’sに限らず、企業が社会的なテーマを取り上げ、(多くは社会的意識の高い)若い世代とつながりを持とうとして失敗するケースはよく見られる。 社会的なテーマを取り上げ、それを上手くブランドと結びつけることができれば、一気に意識が高いイメージを作ることができそうだが、現実はそれほど甘くはない。結局、見透かされて炎上するなどして、かえって逆効果になってしまう。 一連の騒動を受け、先日マース社が「世論を分断させたくない」という理由から、キャンディーたちの「無期限降板」を発表したわけだが、アメリカでは「どうせ、すぐに復活するんでしょ?」と冷ややかな反応ばかりだ。 それもそのはず。日本時間で本日2月13日に行われる、スポーツ界、広告業界を巻き込む、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」に、マース社がM&M’sとともに帰ってくると言われているからだ。 2億人以上の人が視聴するといわれているスーパーボウルの舞台で、M&M’sがどんな形で仕切り直しをするのか。今から気になるところである。(リチャード・サトウ)
M&M’sの発売元であるマース社が立たされた「窮地」とは?(画像:日本の公式サイトより)
アメリカで発売されたのが1941年。日本でも、かれこれ35年前からスーパーやコンビニ、駅の売店でも販売されているので、知らない人は少ないだろう。そんなM&M’sが今、窮地に立たされている。なんとリニューアルをきっかけに、キャラクターたちが「無期限降板」となってしまったのだ。
世界的にも有名なキャラクターたちが降板させられる1年前、マース社はM&M’sの一部キャラクターのリブランディングを進めていた。
緑の女性キャンディーはヒールの高いブーツからスニーカーに履き替えることで、いわゆるステレオタイプ的な“女性キャラ”からの脱却を図った。
また、オレンジのキャンディーは不安障害を受け入れるなど、急にダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、受け入れて、活かすこと。以下、D&I)を考慮した路線に走り始めたのだ。 この新しいアプローチはZ世代(1990年代後半~2010年代前半に生まれた世代)に寄り添う姿勢をアピールするものだと言われている。実際、当初マース社のプレスリリースにも、そう言及されていた。 だが肝心の緑も、オレンジも、当のZ世代からのウケが悪かったどころか、むしろ「前のほうがいい」と言われたり、保守層から「セクシーじゃない」と批判を集めるありさまだ。 そんな中、2022年秋にはM&M’s史上初の「ピーナッツ入りの女性キャンディー(これまでピーナッツ入りは「黄」で男性キャラという設定)」として「紫」が誕生する。彼女は「本当の自分を受け入れようとする姿勢」を表に出し、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」という歌と共に華々しくデビューする……はずだった。 だが、このデビューは、これまでの議論に、さらに火に油を注ぐ結果となる。老舗ブランドがようやくD&Iに対する理解を示したという肯定的な反応も見られるが、多くはZ世代(しかも、それが古い世代のステレオタイプによって描かれている)に中途半端に迎合してしまったことを批判するような内容だ。 たしかにダンスがヘタで、パーティーと言いつつ家で一人さびしくジグソーパズルを完成させながら飲んでいても、ピーナッツ入り(つまり若干ふくよかであることを意味している)であっても、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」と連呼するあたり、「紫」は一見多様性の代表のようにも見える。 だが実際のところ、それは旧来の価値観によって描かれた“多様性のようなもの”でしかない。むしろ、今の社会に対する認識が中途半端、浅はかであることを露呈させたとも批判されている。 例えるなら、マース社の一連のD&Iは、若い人たちの流行りに無理に付いていこうとし、最後の最後で外してしまった結果、余計にジェネレーションギャップを際立たせてしまう「痛いおじさん」のようなものだった。安直すぎる「若者ウケ」は企業にとって逆効果 M&M’sに限らず、企業が社会的なテーマを取り上げ、(多くは社会的意識の高い)若い世代とつながりを持とうとして失敗するケースはよく見られる。 社会的なテーマを取り上げ、それを上手くブランドと結びつけることができれば、一気に意識が高いイメージを作ることができそうだが、現実はそれほど甘くはない。結局、見透かされて炎上するなどして、かえって逆効果になってしまう。 一連の騒動を受け、先日マース社が「世論を分断させたくない」という理由から、キャンディーたちの「無期限降板」を発表したわけだが、アメリカでは「どうせ、すぐに復活するんでしょ?」と冷ややかな反応ばかりだ。 それもそのはず。日本時間で本日2月13日に行われる、スポーツ界、広告業界を巻き込む、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」に、マース社がM&M’sとともに帰ってくると言われているからだ。 2億人以上の人が視聴するといわれているスーパーボウルの舞台で、M&M’sがどんな形で仕切り直しをするのか。今から気になるところである。(リチャード・サトウ)
また、オレンジのキャンディーは不安障害を受け入れるなど、急にダイバーシティ&インクルージョン(多様性を認め、受け入れて、活かすこと。以下、D&I)を考慮した路線に走り始めたのだ。
この新しいアプローチはZ世代(1990年代後半~2010年代前半に生まれた世代)に寄り添う姿勢をアピールするものだと言われている。実際、当初マース社のプレスリリースにも、そう言及されていた。 だが肝心の緑も、オレンジも、当のZ世代からのウケが悪かったどころか、むしろ「前のほうがいい」と言われたり、保守層から「セクシーじゃない」と批判を集めるありさまだ。 そんな中、2022年秋にはM&M’s史上初の「ピーナッツ入りの女性キャンディー(これまでピーナッツ入りは「黄」で男性キャラという設定)」として「紫」が誕生する。彼女は「本当の自分を受け入れようとする姿勢」を表に出し、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」という歌と共に華々しくデビューする……はずだった。 だが、このデビューは、これまでの議論に、さらに火に油を注ぐ結果となる。老舗ブランドがようやくD&Iに対する理解を示したという肯定的な反応も見られるが、多くはZ世代(しかも、それが古い世代のステレオタイプによって描かれている)に中途半端に迎合してしまったことを批判するような内容だ。 たしかにダンスがヘタで、パーティーと言いつつ家で一人さびしくジグソーパズルを完成させながら飲んでいても、ピーナッツ入り(つまり若干ふくよかであることを意味している)であっても、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」と連呼するあたり、「紫」は一見多様性の代表のようにも見える。 だが実際のところ、それは旧来の価値観によって描かれた“多様性のようなもの”でしかない。むしろ、今の社会に対する認識が中途半端、浅はかであることを露呈させたとも批判されている。 例えるなら、マース社の一連のD&Iは、若い人たちの流行りに無理に付いていこうとし、最後の最後で外してしまった結果、余計にジェネレーションギャップを際立たせてしまう「痛いおじさん」のようなものだった。安直すぎる「若者ウケ」は企業にとって逆効果 M&M’sに限らず、企業が社会的なテーマを取り上げ、(多くは社会的意識の高い)若い世代とつながりを持とうとして失敗するケースはよく見られる。 社会的なテーマを取り上げ、それを上手くブランドと結びつけることができれば、一気に意識が高いイメージを作ることができそうだが、現実はそれほど甘くはない。結局、見透かされて炎上するなどして、かえって逆効果になってしまう。 一連の騒動を受け、先日マース社が「世論を分断させたくない」という理由から、キャンディーたちの「無期限降板」を発表したわけだが、アメリカでは「どうせ、すぐに復活するんでしょ?」と冷ややかな反応ばかりだ。 それもそのはず。日本時間で本日2月13日に行われる、スポーツ界、広告業界を巻き込む、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」に、マース社がM&M’sとともに帰ってくると言われているからだ。 2億人以上の人が視聴するといわれているスーパーボウルの舞台で、M&M’sがどんな形で仕切り直しをするのか。今から気になるところである。(リチャード・サトウ)
この新しいアプローチはZ世代(1990年代後半~2010年代前半に生まれた世代)に寄り添う姿勢をアピールするものだと言われている。実際、当初マース社のプレスリリースにも、そう言及されていた。
だが肝心の緑も、オレンジも、当のZ世代からのウケが悪かったどころか、むしろ「前のほうがいい」と言われたり、保守層から「セクシーじゃない」と批判を集めるありさまだ。
そんな中、2022年秋にはM&M’s史上初の「ピーナッツ入りの女性キャンディー(これまでピーナッツ入りは「黄」で男性キャラという設定)」として「紫」が誕生する。彼女は「本当の自分を受け入れようとする姿勢」を表に出し、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」という歌と共に華々しくデビューする……はずだった。
だが、このデビューは、これまでの議論に、さらに火に油を注ぐ結果となる。老舗ブランドがようやくD&Iに対する理解を示したという肯定的な反応も見られるが、多くはZ世代(しかも、それが古い世代のステレオタイプによって描かれている)に中途半端に迎合してしまったことを批判するような内容だ。 たしかにダンスがヘタで、パーティーと言いつつ家で一人さびしくジグソーパズルを完成させながら飲んでいても、ピーナッツ入り(つまり若干ふくよかであることを意味している)であっても、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」と連呼するあたり、「紫」は一見多様性の代表のようにも見える。 だが実際のところ、それは旧来の価値観によって描かれた“多様性のようなもの”でしかない。むしろ、今の社会に対する認識が中途半端、浅はかであることを露呈させたとも批判されている。 例えるなら、マース社の一連のD&Iは、若い人たちの流行りに無理に付いていこうとし、最後の最後で外してしまった結果、余計にジェネレーションギャップを際立たせてしまう「痛いおじさん」のようなものだった。安直すぎる「若者ウケ」は企業にとって逆効果 M&M’sに限らず、企業が社会的なテーマを取り上げ、(多くは社会的意識の高い)若い世代とつながりを持とうとして失敗するケースはよく見られる。 社会的なテーマを取り上げ、それを上手くブランドと結びつけることができれば、一気に意識が高いイメージを作ることができそうだが、現実はそれほど甘くはない。結局、見透かされて炎上するなどして、かえって逆効果になってしまう。 一連の騒動を受け、先日マース社が「世論を分断させたくない」という理由から、キャンディーたちの「無期限降板」を発表したわけだが、アメリカでは「どうせ、すぐに復活するんでしょ?」と冷ややかな反応ばかりだ。 それもそのはず。日本時間で本日2月13日に行われる、スポーツ界、広告業界を巻き込む、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」に、マース社がM&M’sとともに帰ってくると言われているからだ。 2億人以上の人が視聴するといわれているスーパーボウルの舞台で、M&M’sがどんな形で仕切り直しをするのか。今から気になるところである。(リチャード・サトウ)
だが、このデビューは、これまでの議論に、さらに火に油を注ぐ結果となる。老舗ブランドがようやくD&Iに対する理解を示したという肯定的な反応も見られるが、多くはZ世代(しかも、それが古い世代のステレオタイプによって描かれている)に中途半端に迎合してしまったことを批判するような内容だ。
たしかにダンスがヘタで、パーティーと言いつつ家で一人さびしくジグソーパズルを完成させながら飲んでいても、ピーナッツ入り(つまり若干ふくよかであることを意味している)であっても、「I’m Just Gonna Be Me(私は私でいいの)」と連呼するあたり、「紫」は一見多様性の代表のようにも見える。
だが実際のところ、それは旧来の価値観によって描かれた“多様性のようなもの”でしかない。むしろ、今の社会に対する認識が中途半端、浅はかであることを露呈させたとも批判されている。
例えるなら、マース社の一連のD&Iは、若い人たちの流行りに無理に付いていこうとし、最後の最後で外してしまった結果、余計にジェネレーションギャップを際立たせてしまう「痛いおじさん」のようなものだった。
M&M’sに限らず、企業が社会的なテーマを取り上げ、(多くは社会的意識の高い)若い世代とつながりを持とうとして失敗するケースはよく見られる。
社会的なテーマを取り上げ、それを上手くブランドと結びつけることができれば、一気に意識が高いイメージを作ることができそうだが、現実はそれほど甘くはない。結局、見透かされて炎上するなどして、かえって逆効果になってしまう。
一連の騒動を受け、先日マース社が「世論を分断させたくない」という理由から、キャンディーたちの「無期限降板」を発表したわけだが、アメリカでは「どうせ、すぐに復活するんでしょ?」と冷ややかな反応ばかりだ。
それもそのはず。日本時間で本日2月13日に行われる、スポーツ界、広告業界を巻き込む、アメリカンフットボールの一大イベント「スーパーボウル」に、マース社がM&M’sとともに帰ってくると言われているからだ。
2億人以上の人が視聴するといわれているスーパーボウルの舞台で、M&M’sがどんな形で仕切り直しをするのか。今から気になるところである。
(リチャード・サトウ)