【河合 雅司】トラックドライバーが「不人気職種」である決定的理由…60~70代が荷物を届ける「物流崩壊」の未来

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出生数が急減している人口減少日本で各業種・職種に何が起こるのか? 2030年、10億トン以上分の荷物が運べない?
ベストセラー『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。
2030年、10億トン以上分の荷物が運べない宅配ドライバー不足は需要の伸びだけが要因ではない。輸送頻度の増加が不足を加速させている。荷主企業が消費者の要求にきめ細かく応えるべく、「必要なときに必要なだけ届けてほしい」との注文が多くなったためだ。時間指定配送や当日配送といったサービスの高度化に、より一層輸送能力が追い付けなくなっているのである。

輸送サービスの高度化の背景には、付加価値に対する企業の考え方の変化がある。性能や品質、価格優位性といった「商品そのものの価値」だけでなく、商品を届ける上での「利便性」までを含めての付加価値向上を考える企業が増えたのだ。荷主企業には、必要なタイミングで必要な量だけ届けてもらえれば巨大な在庫や保管スペースを抱えずに済むとの計算もある。運送会社へ支払う経費が多少増えようとも、「配達の利便性」向上で消費者の高評価を得られるメリットやコスト削減効果のほうが大きいということだ。一方の運送業界は中小企業が多いという事情もあって、各社とも「発荷主」「着荷主」双方の細かな注文に応えようと必死だ。対応できなければ他社に仕事を奪われるとの危機感は強く、厳しい条件の仕事であっても受注する傾向にある。「便利な社会」を実現するためのしわ寄せが、どんどんドライバーへと向かう構図である。そして、それがドライバーの負担を大きくし、退職者を増やすことにつながっている。物流の需給バランスが崩れることの弊害は大きい。日本ロジスティクスシステム協会の報告書「ロジスティクスコンセプト2030」は、営業用トラックやライトバンによる輸送について供給量不足が拡大していくと見ている。2015年には需要と供給は約29億2000万トンでバランスがとれていたが、需要と運ぶ能力とのギャップは次第に拡大していく。2025年には需要が約31億1000万トンなのに対し約22億6000万トンしか供給できず約8億5000万トンが運べない。2030年には約31億7000万トンの需要に対し供給は約20億3000万トンにとどまり、36.0%にあたる約11億4000万トンが運べないというのだ。多くの製造コストや宣伝費をかけた商品の3割もが計画通りにユーザーの手元に届かないことになれば、荷主企業が受けるダメージは小さくない。 ドライバーが「不人気職種」である理由構造的な要因とは別に、ドライバーが不足する直接的な理由もある。人口減少によってなり手の絶対数が少なくなってきていることもあるが、募集しても集まらないのだ。国交省の資料によれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率(2021年4月)は1.89で、全職業の0.95のおよそ2倍となっている。要するに“不人気職種”なのだ。“不人気職種”になったのは、待遇や労働環境が悪いからだ。全日本トラック協会によれば、2021年の年間所得は全産業平均が489万円なのに対し、大型トラックのドライバーは463万円、中小型トラックドライバーは431万円である。しかも待ち時間が多いこともあって労働時間が長くなりがちだ。2021年の場合、大型トラックが2544時間、中小型は2484時間となっており、全産業平均の2112時間を大きく上回っている。仕事量に対して十分な人数を確保できないので、ドライバー1人あたりが扱う荷物数は増えていく。そこに「待ち時間」の長さも加わって給与に見合わない激務を強いられることになるのである。女性の就業者が少ないことも、人手不足を加速させている。2020年の女性ドライバーの割合は3.6%と極端に低い。長距離走行や重い荷物を運ぶ「体力的にきつい仕事」というイメージが敬遠材料となっているものと見られる。思うように新人が入ってこないと、就業者の高齢化が進む。全日本トラック協会は、2021年に道路貨物運送業(トラック運送業と宅配便業)で働いた人の年齢を紹介しているが、30~40代が43.2%で、20代は9.0%と1割に満たない。一方、50代が27.6%、60代以上も17.6%を占めている。このように、日本の物流は中高年が何とかやり繰りしながら成り立たせているのである。このままなら、老後の生活資金を得るために働き続ける60代後半~70代がドライバーのメイン層となる日も近いかもしれない。
2030年、10億トン以上分の荷物が運べない宅配ドライバー不足は需要の伸びだけが要因ではない。輸送頻度の増加が不足を加速させている。荷主企業が消費者の要求にきめ細かく応えるべく、「必要なときに必要なだけ届けてほしい」との注文が多くなったためだ。時間指定配送や当日配送といったサービスの高度化に、より一層輸送能力が追い付けなくなっているのである。

輸送サービスの高度化の背景には、付加価値に対する企業の考え方の変化がある。性能や品質、価格優位性といった「商品そのものの価値」だけでなく、商品を届ける上での「利便性」までを含めての付加価値向上を考える企業が増えたのだ。荷主企業には、必要なタイミングで必要な量だけ届けてもらえれば巨大な在庫や保管スペースを抱えずに済むとの計算もある。運送会社へ支払う経費が多少増えようとも、「配達の利便性」向上で消費者の高評価を得られるメリットやコスト削減効果のほうが大きいということだ。一方の運送業界は中小企業が多いという事情もあって、各社とも「発荷主」「着荷主」双方の細かな注文に応えようと必死だ。対応できなければ他社に仕事を奪われるとの危機感は強く、厳しい条件の仕事であっても受注する傾向にある。「便利な社会」を実現するためのしわ寄せが、どんどんドライバーへと向かう構図である。そして、それがドライバーの負担を大きくし、退職者を増やすことにつながっている。物流の需給バランスが崩れることの弊害は大きい。日本ロジスティクスシステム協会の報告書「ロジスティクスコンセプト2030」は、営業用トラックやライトバンによる輸送について供給量不足が拡大していくと見ている。2015年には需要と供給は約29億2000万トンでバランスがとれていたが、需要と運ぶ能力とのギャップは次第に拡大していく。2025年には需要が約31億1000万トンなのに対し約22億6000万トンしか供給できず約8億5000万トンが運べない。2030年には約31億7000万トンの需要に対し供給は約20億3000万トンにとどまり、36.0%にあたる約11億4000万トンが運べないというのだ。多くの製造コストや宣伝費をかけた商品の3割もが計画通りにユーザーの手元に届かないことになれば、荷主企業が受けるダメージは小さくない。 ドライバーが「不人気職種」である理由構造的な要因とは別に、ドライバーが不足する直接的な理由もある。人口減少によってなり手の絶対数が少なくなってきていることもあるが、募集しても集まらないのだ。国交省の資料によれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率(2021年4月)は1.89で、全職業の0.95のおよそ2倍となっている。要するに“不人気職種”なのだ。“不人気職種”になったのは、待遇や労働環境が悪いからだ。全日本トラック協会によれば、2021年の年間所得は全産業平均が489万円なのに対し、大型トラックのドライバーは463万円、中小型トラックドライバーは431万円である。しかも待ち時間が多いこともあって労働時間が長くなりがちだ。2021年の場合、大型トラックが2544時間、中小型は2484時間となっており、全産業平均の2112時間を大きく上回っている。仕事量に対して十分な人数を確保できないので、ドライバー1人あたりが扱う荷物数は増えていく。そこに「待ち時間」の長さも加わって給与に見合わない激務を強いられることになるのである。女性の就業者が少ないことも、人手不足を加速させている。2020年の女性ドライバーの割合は3.6%と極端に低い。長距離走行や重い荷物を運ぶ「体力的にきつい仕事」というイメージが敬遠材料となっているものと見られる。思うように新人が入ってこないと、就業者の高齢化が進む。全日本トラック協会は、2021年に道路貨物運送業(トラック運送業と宅配便業)で働いた人の年齢を紹介しているが、30~40代が43.2%で、20代は9.0%と1割に満たない。一方、50代が27.6%、60代以上も17.6%を占めている。このように、日本の物流は中高年が何とかやり繰りしながら成り立たせているのである。このままなら、老後の生活資金を得るために働き続ける60代後半~70代がドライバーのメイン層となる日も近いかもしれない。
宅配ドライバー不足は需要の伸びだけが要因ではない。輸送頻度の増加が不足を加速させている。荷主企業が消費者の要求にきめ細かく応えるべく、「必要なときに必要なだけ届けてほしい」との注文が多くなったためだ。時間指定配送や当日配送といったサービスの高度化に、より一層輸送能力が追い付けなくなっているのである。
輸送サービスの高度化の背景には、付加価値に対する企業の考え方の変化がある。性能や品質、価格優位性といった「商品そのものの価値」だけでなく、商品を届ける上での「利便性」までを含めての付加価値向上を考える企業が増えたのだ。
荷主企業には、必要なタイミングで必要な量だけ届けてもらえれば巨大な在庫や保管スペースを抱えずに済むとの計算もある。運送会社へ支払う経費が多少増えようとも、「配達の利便性」向上で消費者の高評価を得られるメリットやコスト削減効果のほうが大きいということだ。
一方の運送業界は中小企業が多いという事情もあって、各社とも「発荷主」「着荷主」双方の細かな注文に応えようと必死だ。対応できなければ他社に仕事を奪われるとの危機感は強く、厳しい条件の仕事であっても受注する傾向にある。「便利な社会」を実現するためのしわ寄せが、どんどんドライバーへと向かう構図である。そして、それがドライバーの負担を大きくし、退職者を増やすことにつながっている。
物流の需給バランスが崩れることの弊害は大きい。日本ロジスティクスシステム協会の報告書「ロジスティクスコンセプト2030」は、営業用トラックやライトバンによる輸送について供給量不足が拡大していくと見ている。2015年には需要と供給は約29億2000万トンでバランスがとれていたが、需要と運ぶ能力とのギャップは次第に拡大していく。
2025年には需要が約31億1000万トンなのに対し約22億6000万トンしか供給できず約8億5000万トンが運べない。2030年には約31億7000万トンの需要に対し供給は約20億3000万トンにとどまり、36.0%にあたる約11億4000万トンが運べないというのだ。
多くの製造コストや宣伝費をかけた商品の3割もが計画通りにユーザーの手元に届かないことになれば、荷主企業が受けるダメージは小さくない。
ドライバーが「不人気職種」である理由構造的な要因とは別に、ドライバーが不足する直接的な理由もある。人口減少によってなり手の絶対数が少なくなってきていることもあるが、募集しても集まらないのだ。国交省の資料によれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率(2021年4月)は1.89で、全職業の0.95のおよそ2倍となっている。要するに“不人気職種”なのだ。“不人気職種”になったのは、待遇や労働環境が悪いからだ。全日本トラック協会によれば、2021年の年間所得は全産業平均が489万円なのに対し、大型トラックのドライバーは463万円、中小型トラックドライバーは431万円である。しかも待ち時間が多いこともあって労働時間が長くなりがちだ。2021年の場合、大型トラックが2544時間、中小型は2484時間となっており、全産業平均の2112時間を大きく上回っている。仕事量に対して十分な人数を確保できないので、ドライバー1人あたりが扱う荷物数は増えていく。そこに「待ち時間」の長さも加わって給与に見合わない激務を強いられることになるのである。女性の就業者が少ないことも、人手不足を加速させている。2020年の女性ドライバーの割合は3.6%と極端に低い。長距離走行や重い荷物を運ぶ「体力的にきつい仕事」というイメージが敬遠材料となっているものと見られる。思うように新人が入ってこないと、就業者の高齢化が進む。全日本トラック協会は、2021年に道路貨物運送業(トラック運送業と宅配便業)で働いた人の年齢を紹介しているが、30~40代が43.2%で、20代は9.0%と1割に満たない。一方、50代が27.6%、60代以上も17.6%を占めている。このように、日本の物流は中高年が何とかやり繰りしながら成り立たせているのである。このままなら、老後の生活資金を得るために働き続ける60代後半~70代がドライバーのメイン層となる日も近いかもしれない。
構造的な要因とは別に、ドライバーが不足する直接的な理由もある。
人口減少によってなり手の絶対数が少なくなってきていることもあるが、募集しても集まらないのだ。国交省の資料によれば、貨物自動車運転手の有効求人倍率(2021年4月)は1.89で、全職業の0.95のおよそ2倍となっている。要するに“不人気職種”なのだ。
“不人気職種”になったのは、待遇や労働環境が悪いからだ。全日本トラック協会によれば、2021年の年間所得は全産業平均が489万円なのに対し、大型トラックのドライバーは463万円、中小型トラックドライバーは431万円である。しかも待ち時間が多いこともあって労働時間が長くなりがちだ。
2021年の場合、大型トラックが2544時間、中小型は2484時間となっており、全産業平均の2112時間を大きく上回っている。仕事量に対して十分な人数を確保できないので、ドライバー1人あたりが扱う荷物数は増えていく。そこに「待ち時間」の長さも加わって給与に見合わない激務を強いられることになるのである。
女性の就業者が少ないことも、人手不足を加速させている。2020年の女性ドライバーの割合は3.6%と極端に低い。長距離走行や重い荷物を運ぶ「体力的にきつい仕事」というイメージが敬遠材料となっているものと見られる。
思うように新人が入ってこないと、就業者の高齢化が進む。全日本トラック協会は、2021年に道路貨物運送業(トラック運送業と宅配便業)で働いた人の年齢を紹介しているが、30~40代が43.2%で、20代は9.0%と1割に満たない。一方、50代が27.6%、60代以上も17.6%を占めている。
このように、日本の物流は中高年が何とかやり繰りしながら成り立たせているのである。このままなら、老後の生活資金を得るために働き続ける60代後半~70代がドライバーのメイン層となる日も近いかもしれない。

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