北海道札幌市で経験した、雪の中のごみ収集の実態を紹介します(筆者撮影)
毎日、毎週、真夏や雨の日でも当たり前のように収集されるごみ。それは雪の日でも同じだ。北海道札幌市で雪の中のごみ収集について取材した。
筆者は体力に自信がある。浪人のときに始めたランニングが30年以上続き、毎朝ランニングをしている。20代には頻繁に大会に出場し、素人ながらフルマラソンでは2時間54分、100kmウルトラマラソンでは11時間47分のベストタイムを持つ(今は到底無理である)。
しかし、その自信が見事に打ち砕かれたのが、真冬の北海道札幌市で体験した「雪の中でのごみ収集」だ。
これまで経験してきた清掃現場では、過酷なごみ収集の現場を体験させてもらったが、なんとか作業を完遂させてきた。札幌市の雪の中の収集では、雪の中という不慣れな作業環境ということもあり、体力的にも、作業のスピードにもついていけなかった。結果、作業の進捗が大幅に遅れ、最後は仲間の皆さんにフォローしてもらうという大迷惑をかけてしまった。
本稿では、筆者が経験した雪の中の収集の実態を紹介するとともに、そこに勤務する清掃職員の方々の仕事に対する想いを伝える。
「札幌市の雪の中の収集を体験してください」とオファーを出していただいたのは、札幌市西清掃事務所の田中有人氏である。2018年に筆者が登壇した講演で知り合った。
収集体験は2019年1月30日~2月1日までの3日間の日程で準備が進んでいった。1日目は指導啓発や訪問収集を行う「ごみパト隊」に同行して雪の中での作業環境に慣れ、2日目、3日目は収集作業を体験するという計画で進められた。
収集作業当日、雪はやんでいたが、これまでに降り積もった雪の中での収集となった。職員の皆さんからすれば「ふつうの日」なのであるが、慣れぬ者からすると「こんな作業環境で収集作業をするのか」という思いであった。
始業前の準備体操の様子(筆者撮影)
清掃職員のユニフォームを着て、雪靴と防寒具をまとって現場へと出ていった。東京とは異なる、肌を突き刺すような寒さの中で準備体操を行い、清掃車に向かった。
札幌市のごみ収集車は4トン車であり、1日4台分のごみを積み込む作業内容となっている。筆者が東京で体験してきたときは2トン車を6台分であったので、単純計算でもかなり多くのごみを積み込む。
収集車に乗る前に驚いたのが、座席位置の高さである。これまで経験した2トン車では高さを意識せずに乗り込めたが、4トン車は身長184cmの筆者でも車に登っていく感覚であり、足にかなりの負担がかかった。収集のために何度も乗り降りしているうちに、じわりじわりと足に負担がかかっていくようになった。
4トン車の座席位置。乗り降りにはかなりの負担がかかる(筆者撮影)
いよいよ出発し、雪道をひた走って山側の西野地区へと向かった。東京で雪が降った翌日は、路面凍結の可能性があるため収集が見合わせられるケースがあるが、札幌市では対策を施したうえで収集を行っていく。
除雪による雪山が道の両側にでき、3車線の道が2車線となっている雪道のなか収集に向かう(筆者撮影)
いよいよ現場に到着し、ごみ収集作業を始めるときとなった。雪が積もった場所に降りるため、慣れていなければ足を取られて転倒してしまう。また、雪靴や防寒具では身動きがとりにくく、自由に動けない中での収集作業となっていった。
札幌市のごみ収集は町内会との間で決めた場所にごみを排出し、それを収集して回るステーション方式となっている。ステーションにはさまざまな形があり、籠タイプのところもあれば、折り畳み式の囲いに防鳥ネットを被せているところもある。
到着すると、集積所に被った雪を払い除けてごみを収集していくのだが、雪を払っていくうちにグローブの隙間から入った雪の冷たさで手の感覚が薄れていき、思うように動かなくなっていく。
(写真左上から時計回りに)雪に埋もれた集積所、折り畳み籠タイプ、囲いに防鳥ネットを被せているタイプ、折り畳み式の囲いに防鳥ネットを被せているタイプ(筆者撮影)
手が悴んで思うようにつかめないのに加え、札幌市は指定の有料ごみ袋で可燃ごみを排出するため、詰め込めるだけのごみをパンパンに入れてある袋が多い。
これまでほかの都市で収集していたときにごみ袋の結び目部分を握るのがポイントだと学び、いつも実践してきた。しかし札幌市では傾向として、ごみ袋の結び目が小さく、中にはピンセットで結んだのではないかと言っても過言ではないぐらい小さな結び目のものが多く、つかめない。
注意深くほかの方の作業を見ていると、ごみ袋の中に指を突っ込んで引っかけていくように収集しているのだが、袋の中には尖ったものが入っている可能性もあり、非常に怖くリスクが伴う収集作業だった。
また、収集車の車高が高いため、ごみの投入口(バケット)も2トン車よりも幾分高くなる。これは、ごみを積み込む際に、持ち上げる労力が余分にかかることを意味する。少し高いだけなのだが、非常に腕の力を要する作業となり労力は予想以上だった。
4トン車の投入口は幾分高く、積み込みには余計に労力がかかる(筆者撮影)
雪の中の作業は、過酷そのものであった。雪に不慣れな者ではまったくといっていいほど使いものにならない。田中氏は「収集では走らない」とは言っていたものの、「小走り」で次の集積所に向かって行った。筆者もついていこうと思っても雪靴で動きにくく、足が雪の中に吸い込まれていくようで思うように動けず、何回かこけてしまった。
体力に自信があったものの、息はあがっていき、収集車に乗り込んでからも収まらないまま、次の収集が始まる状態であった。何とか最後まで作業を終えたが、途中からはへたってしまい、田中氏やほかの職員の皆さんに筆者の分まで仕事をしてフォローしていただき、多大な迷惑をかけてしまった。
寒さからか酸欠状態で顔が真っ青になり生あくびが続いていたため、田中氏から「明日はやめときましょう」と言われてしまった。これまで筆者が体験した収集の中でいちばん過酷な作業であったが、機会があればリベンジをしてみたく思っている。
このような過酷な現場で清掃職員の皆さんは作業を行っているが、昨今の行政改革のあおりを受け、札幌市でも人員削減が進められ、委託業者も入ってごみ収集をしている。直営比率は50%程度から30%に低下し、現在では70%近くが委託になっている。
単にごみを収集するだけなら、委託業者の仕事と変わらないと判断され、さらなる人員の削減という流れになってしまう。そこで田中氏をはじめとする清掃職員の方々は、「市民目線に立ち、住民のためにできる限りのサービスを提供する」ことをポリシーにし、収集業務を展開している。
その一環として挙げられるのが、集積所の後片付けである。具体的には、防鳥ネットを綺麗に畳んで所定の場所に片付けたり、囲いを綺麗に畳んで片付けたり、集積所に散らかる細かいごみを熊手ほうきで集めたりして、市民へのサービスを向上させている。
防鳥ネットと集積所の囲いを片付けている様子(筆者撮影)
ちなみに、筆者も収集時に防鳥ネットを畳んでみた。素早く畳むにはコツがある。地べたに広げて畳むのではなく、防鳥ネットの中心部を持ち上げて、そこを基点に畳んでいく方法があるのだが、教えていただいてもすぐに実践できなかった。
所定の場所に片付けている様子(筆者撮影)
委託業者が作業を行った後の様子。確かにごみは収集されているが…(筆者撮影)
通常の収集量は多く、16時ぐらいまで収集作業が続く。非常に過酷な業務となっているにもかかわらず、それに加えて、住民の満足度の向上を目指し、自らの業務を深化・進化させている。筆者はこの業務へ取り組む姿勢に驚くとともに、直営でごみ収集業務をする意義がそこにあるのだと思えた。
一方で、このようなサービスは、住民にはそれほど認知されていないようだ。「市長が代わったからサービスがよくなった」という住民もいるとのことである。当該サービスの裏には清掃職員の「市民目線の清掃サービスの提供」という直営魂が込められている。
これは札幌市に限らず、どの収集現場でも当てはまることである。私たちの生活のために過酷な現場で働いている方々に、当たり前と思わず、そのサービスを享受する人々が自然と感謝の意を伝えていくような世の中になっていってほしく思う。
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(藤井 誠一郎 : 大東文化大学法学部准教授)