三重県の新名神高速道路でスマートフォンを見ながら大型トラックを運転して事故を起こし、6人を死亡させたとして自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)に問われた元運転手の被告(55)に対し、津地裁は20日、求刑通り法定刑上限の拘禁刑7年の判決を言い渡した。
出口博章裁判官は「誠に軽率な運転の仕方だ」と指摘。過失や引き起こした結果は重大だとし、「過去の事案と比較しても最も重い部類」と非難した。(津支局 阪本祐理子)
判決によると、被告は3月20日午前2時20分頃、亀山市の新名神高速道下り線で、スマホの画面を脇見しながら時速約82キロで大型トラックを運転。渋滞で停車していた家族5人が乗る乗用車に追突し、さらに別の乗用車も巻き込む多重事故を起こした。
この事故で松本幸司さん(当時45歳)、妻恵梨子さん(同42歳)、長女莉桜(りお)さん(同11歳)、長男壮真君(同8歳)、次女彩那ちゃん(同5歳)の一家5人と、別の車の高峰啓三さん(同56歳)を死亡させた。
判決で出口裁判官は、被告がスマホの動画をスクリーンショットで保存するため、十数秒間にわたって脇見をし、前方の安全確認を怠ったと認定。プロのドライバーでありながら「運転者の責任や事故の危険を顧みず、基本的な注意義務違反を招いた」と批判した。公判では、被告は動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」で料理の動画を見ていたことが明らかになっていた。
出口裁判官は、被害に遭った松本さん一家は家族旅行中、高峰さんは単身赴任先からの帰省中だったことに触れ、「充実し、将来ある人生を理不尽にも断ち切られた。被害者らの苦痛や無念は察するに余りある」と指摘。被告が反省の態度を示していることなどを考慮しても「法定刑の上限が相当」と結論づけた。
「6人の命が7年というのは軽すぎる」。被告に対し、過失運転致死罪の法定刑上限となる拘禁刑7年が言い渡された判決の後、津市内で記者会見した遺族たちは一様に納得できない表情を見せた。事故の原因となったスマホを操作しながらの運転の危険性を訴え、法改正による厳罰化を求めた。
「ながら運転」を巡っては、2024年に危険運転致死傷罪の要件見直しを議論した法務省の有識者検討会で、処罰対象に追加するかどうかが論点となった。しかし、「危険性や悪質性を的確に規定するのは困難」などとして見送られた。
20日の会見で高峰さんの長男(31)は「スマホを見ていて正常な運転ができないことは危険ではないのか。ながらスマホも危険運転の対象にしてほしい」と訴えた。松本恵梨子さんの兄(47)も「(判決が)法定刑の上限とはわかっているが納得できない」と心境を語った。
松本幸司さんの姉(54)は公判を傍聴し続け、今月上旬には三重県菰野町に保管されている事故車両を初めて見た。「残骸からは、弟の悔しさが伝わってきた」と話した。
警察庁によると、昨年1年間に全国で起きた自動車ドライバーの「ながらスマホ」による死亡・重傷事故は148件(前年比10件増)に上り、5年連続で増加した。
同庁が昨年までの5年間の交通事故を分析したところ、事故件数全体のうち「スマホなどを使用時」の死亡事故の割合が、不使用時の約3・4倍だった。
国土交通省は対策強化に乗り出し、9月30日には、脇見運転などを検知すると警報が鳴る「ドライバーモニタリングシステム」の自動車への搭載を義務づけると発表した。対象にはトラックやバスを含む。
システムでは、運転手の視線が前方から一定時間それると車内カメラが異常と判断し、警報が鳴る。新型車には2031年9月からの搭載が義務づけられ、継続生産車は33年9月から適用される。