【独自】新型コロナワクチン関東で300万回“廃棄”判明 突然の変更ばかりで「住民にも怒られトラウマに」自治体取材で聞こえてきた“本音”

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接種開始から1年半以上が経過した新型コロナワクチン。身の回りで既に5回目の接種を終えたという人もいるのではないでしょうか。感染対策の鍵を握ると言われる一方で、このところ接種率は伸び悩み、大量廃棄が起きています。私たちの取材では、2022年東京23区で100万回分のワクチンが期限切れで廃棄されていたことが明らかになりました。さらに取材対象を関東1都6県に広げたところ、合計300万回分が廃棄されていたことが新たに分かりました。

【写真を見る】【独自】新型コロナワクチン関東で300万回“廃棄”判明 突然の変更ばかりで「住民にも怒られトラウマに」自治体取材で聞こえてきた“本音”感染による死者が過去最多の400人を超えるなど、再び感染が拡大する中で、なぜ大量廃棄が起こるのか?複数の自治体の担当者が取材に応じ、本音を語りました。■「いつまで続くのか」接種前倒しにワクチン確保 振り回された自治体「いつも突然でした。ワクチンの種類が増えることも接種間隔の前倒しも。そのたびに私たち自治体が振り回されるんです。いつまでこれが続くんでしょうか」新型コロナのワクチン接種を進める都内のA自治体の担当者は、私たちの取材に2022年をこう振り返りました。2022年1月、3回目のワクチン接種が高齢者を対象に始まりました。第6波の感染拡大を懸念して急遽、接種間隔が8か月から6か月に短縮、前倒しされたのです。自治体の中には、既に8か月で住民への接種券を印刷したところもあり、数万人分の封筒に修正のシールを貼るなどの対応に追われました。A自治体の担当者「『接種間隔が短くなることはありませんよね』と何度も国に確認して印刷を発注したのに。ふざけんなと思いました。」結果的に前倒しは間に合わず、感染は拡大。2月初旬には新規感染者が2万人を超え、接種の遅れが批判されました。思い返せば、2021年の1・2回目の接種でも、高齢者を対象に始まった際、国からの供給が遅れ、ワクチンが不足。自治体に十分に行き渡らず、接種できない事態が起きるなど、混乱しました。A自治体の担当者「なんで遅いんだ、足りないんだと住民から怒られました。それは今もトラウマになっています」こうしたことから、3回目では必要とする住民が打てるよう、どの自治体も早めにワクチンを確保することに必死になりました。しかし、接種間隔の突然の前倒しで自治体は混乱に陥りました。そうした中で2月からは18歳以上への接種が本格化しました。しばらくすると、私たちの元に都内の保健所の関係者から、ある情報がもたらされました。「接種が進まずワクチンの期限が切れる懸念がある。余ったら廃棄になる可能性が出てきた」。いったい何が起きていたのでしょうか。■予測は「神業」若者の接種伸び悩みワクチンが大量に余るワクチンは、国が市区町村の人口を基に供給する上限を定めます。市区町村はどれほどの住民が接種するかを予測して必要な数量を国に要求し、1~2か月後に届けられる仕組みです。自治体は前回の接種でいつ何人が打ったかといったデータや、感染状況などを基に予測するといいます。3回目接種では多くの自治体が十分な量のワクチンを確保できましたが、対象者が拡大してから接種ペースが落ち始めました。自治体担当者は「想定外に若者の3回目接種率が低かった」と口を揃えました。予測に反してワクチンが打たれず、大量のワクチンの在庫を抱え込んだまま5月になりました。自治体によっては数万回分のワクチンの有効期限が目前に迫り、未使用のまま廃棄する可能性も出てきたのです。A自治体の担当者「先のことを予測して余らせないようにするのは『神業』。ワクチンは数か月前に国に申請しなければいけないが、もらった時に世の中どうなっているかなんて分からない」B自治体の担当者「接種対象の住民が100万人だとしたら、接種率が5%下がっただけで5万人の誤差が出る計算になる。初回接種の経験を踏まえても過不足なくワクチンを用意するのは不可能」同じ5月には4回目接種が開始。余り始めたワクチンを抱える中、別の問題が浮上します。4回目は対象が基礎疾患がある人と60歳以上の人に限定され、基礎疾患がある人をどうやって把握するのか、自治体は頭を悩ませました。B自治体は申請した人に接種券を配送する方式を取りましたが、申請なしで全ての住民に接種券を配る自治体もあり、住民からは苦情も…。B自治体の担当者「住民から『なぜうちだけ接種券が届くのが遅いんだ。自治体の怠慢だ』と苦情が来た」■届いたワクチンの有効期限が予想外に短く「到底使い切れない」どれくらいの人が接種をするのか予測が難しい上に接種率も伸び悩み、夏頃から23区などでワクチンが大量に余り始めました。東京都は余ったワクチンを都内の自治体同士で融通するなど手を打とうとしました。しかしワクチンが余っている状況はどこも同じで、融通先はほとんど見つかりませんでした。さらに自治体を困らせたのは、届いたワクチンの有効期限の短さです。有効期限は事前に自治体には知らされず、届いてみなければ分かりません。A自治体では、半年ほど先まで見据えて発注したワクチンが、到着時すでに有効期限が残り3か月を切っていました。モデルナワクチンの有効期限は製造から9か月。輸送などの事情を考えてもあまりに短く、国から説明もないことにA自治体の担当者は「不信感以外の何物でもない」と怒りを露わにしました。結果、使い切れずに数万回分のワクチンを廃棄することになりました。住民と最前線で向き合っている担当者は憤ります。A自治体の担当者「使う努力はしました。でも余っても国に返せないから自治体で廃棄するしかない。廃棄したら今度は住民から怒られました。国は都合の悪いところは丸投げ」7月。再び感染が拡大し第7波に突入しました。都内の新規感染者は3万人を超え、過去最多を更新していた7月の半ば、ようやく医療従事者への4回目接種が開始されました。この対応の遅れにより医療従事者の感染が相次ぎ、医療現場がひっ迫しました。■関東で300万回廃棄 「新しいワクチンも余るかも」10月以降、未使用のワクチンの有効期限がどんどん切れ廃棄されています。廃棄の現場を取材すると、期限切れのワクチンは未使用のまま「感染性廃棄物」と書かれた専用の箱に詰められ、業者によって処分施設へ運ばれていきました。処分施設では密閉された箱ごと高温で焼却されます。東京23区への取材では、11月までに廃棄されたワクチンは100万回分以上。さらに関東1都6県にも取材範囲を広げると、12月末までに各都県の大規模接種会場分と政令市・中核市の分を合わせて、300万回分以上のワクチンが廃棄されていたことが新たに分かりました。こんなにも多くのワクチンが廃棄されていることについて、国はどう考えているのでしょうか。国の担当者「国民が安心して接種できるよう対象者全員分のワクチンを確保している。余ることは仕方ない。期限が切れたものは捨てていくしかない。」新たにオミクロン株に対応したワクチン接種も9月から始まりました。接種間隔は3か月に短縮され、11月に都内の新規感染者が1万人を超えた頃には接種する人が一時的に増加しました。しかし、その後の都内の接種率を見ると、11月は1か月で約17ポイント増えた(11月1日5.9%→12月1日22.5%)のに対し、12月は約1か月で12ポイント(12月1日22.5%→26日34.8%)と、接種ペースが遅くなってきています。自治体の担当者からは「このままいけば新しいワクチンも使いきれず余るかもしれない」という不安の声もあがっています。多い人で5回目となった新型コロナのワクチン接種。2023年も続きそうです。自治体の担当者に「国に言いたいことは?」と尋ねると…。A自治体の担当者「何のために接種してるんですか?と。余ったワクチンを消費するために打ってませんか?と。接種回数も多いし接種間隔も短くなった。ワクチンを使い切れなくて余ってるからでしょと考えたくなります」C自治体の担当者「接種間隔も期限も接種対象もどんどん変わって、新しいワクチンも出てくる。方針もどんどん変わる、もう翻弄されるのは慣れましたよ。ワクチンは国の所有物、それを代わりに私たちが打っている。余った分は国に返したい、国の責任で何とか活用してと言いたい」社会部東京都庁担当 寺川祐介・佐藤碧
接種開始から1年半以上が経過した新型コロナワクチン。身の回りで既に5回目の接種を終えたという人もいるのではないでしょうか。感染対策の鍵を握ると言われる一方で、このところ接種率は伸び悩み、大量廃棄が起きています。私たちの取材では、2022年東京23区で100万回分のワクチンが期限切れで廃棄されていたことが明らかになりました。さらに取材対象を関東1都6県に広げたところ、合計300万回分が廃棄されていたことが新たに分かりました。
【写真を見る】【独自】新型コロナワクチン関東で300万回“廃棄”判明 突然の変更ばかりで「住民にも怒られトラウマに」自治体取材で聞こえてきた“本音”感染による死者が過去最多の400人を超えるなど、再び感染が拡大する中で、なぜ大量廃棄が起こるのか?複数の自治体の担当者が取材に応じ、本音を語りました。■「いつまで続くのか」接種前倒しにワクチン確保 振り回された自治体「いつも突然でした。ワクチンの種類が増えることも接種間隔の前倒しも。そのたびに私たち自治体が振り回されるんです。いつまでこれが続くんでしょうか」新型コロナのワクチン接種を進める都内のA自治体の担当者は、私たちの取材に2022年をこう振り返りました。2022年1月、3回目のワクチン接種が高齢者を対象に始まりました。第6波の感染拡大を懸念して急遽、接種間隔が8か月から6か月に短縮、前倒しされたのです。自治体の中には、既に8か月で住民への接種券を印刷したところもあり、数万人分の封筒に修正のシールを貼るなどの対応に追われました。A自治体の担当者「『接種間隔が短くなることはありませんよね』と何度も国に確認して印刷を発注したのに。ふざけんなと思いました。」結果的に前倒しは間に合わず、感染は拡大。2月初旬には新規感染者が2万人を超え、接種の遅れが批判されました。思い返せば、2021年の1・2回目の接種でも、高齢者を対象に始まった際、国からの供給が遅れ、ワクチンが不足。自治体に十分に行き渡らず、接種できない事態が起きるなど、混乱しました。A自治体の担当者「なんで遅いんだ、足りないんだと住民から怒られました。それは今もトラウマになっています」こうしたことから、3回目では必要とする住民が打てるよう、どの自治体も早めにワクチンを確保することに必死になりました。しかし、接種間隔の突然の前倒しで自治体は混乱に陥りました。そうした中で2月からは18歳以上への接種が本格化しました。しばらくすると、私たちの元に都内の保健所の関係者から、ある情報がもたらされました。「接種が進まずワクチンの期限が切れる懸念がある。余ったら廃棄になる可能性が出てきた」。いったい何が起きていたのでしょうか。■予測は「神業」若者の接種伸び悩みワクチンが大量に余るワクチンは、国が市区町村の人口を基に供給する上限を定めます。市区町村はどれほどの住民が接種するかを予測して必要な数量を国に要求し、1~2か月後に届けられる仕組みです。自治体は前回の接種でいつ何人が打ったかといったデータや、感染状況などを基に予測するといいます。3回目接種では多くの自治体が十分な量のワクチンを確保できましたが、対象者が拡大してから接種ペースが落ち始めました。自治体担当者は「想定外に若者の3回目接種率が低かった」と口を揃えました。予測に反してワクチンが打たれず、大量のワクチンの在庫を抱え込んだまま5月になりました。自治体によっては数万回分のワクチンの有効期限が目前に迫り、未使用のまま廃棄する可能性も出てきたのです。A自治体の担当者「先のことを予測して余らせないようにするのは『神業』。ワクチンは数か月前に国に申請しなければいけないが、もらった時に世の中どうなっているかなんて分からない」B自治体の担当者「接種対象の住民が100万人だとしたら、接種率が5%下がっただけで5万人の誤差が出る計算になる。初回接種の経験を踏まえても過不足なくワクチンを用意するのは不可能」同じ5月には4回目接種が開始。余り始めたワクチンを抱える中、別の問題が浮上します。4回目は対象が基礎疾患がある人と60歳以上の人に限定され、基礎疾患がある人をどうやって把握するのか、自治体は頭を悩ませました。B自治体は申請した人に接種券を配送する方式を取りましたが、申請なしで全ての住民に接種券を配る自治体もあり、住民からは苦情も…。B自治体の担当者「住民から『なぜうちだけ接種券が届くのが遅いんだ。自治体の怠慢だ』と苦情が来た」■届いたワクチンの有効期限が予想外に短く「到底使い切れない」どれくらいの人が接種をするのか予測が難しい上に接種率も伸び悩み、夏頃から23区などでワクチンが大量に余り始めました。東京都は余ったワクチンを都内の自治体同士で融通するなど手を打とうとしました。しかしワクチンが余っている状況はどこも同じで、融通先はほとんど見つかりませんでした。さらに自治体を困らせたのは、届いたワクチンの有効期限の短さです。有効期限は事前に自治体には知らされず、届いてみなければ分かりません。A自治体では、半年ほど先まで見据えて発注したワクチンが、到着時すでに有効期限が残り3か月を切っていました。モデルナワクチンの有効期限は製造から9か月。輸送などの事情を考えてもあまりに短く、国から説明もないことにA自治体の担当者は「不信感以外の何物でもない」と怒りを露わにしました。結果、使い切れずに数万回分のワクチンを廃棄することになりました。住民と最前線で向き合っている担当者は憤ります。A自治体の担当者「使う努力はしました。でも余っても国に返せないから自治体で廃棄するしかない。廃棄したら今度は住民から怒られました。国は都合の悪いところは丸投げ」7月。再び感染が拡大し第7波に突入しました。都内の新規感染者は3万人を超え、過去最多を更新していた7月の半ば、ようやく医療従事者への4回目接種が開始されました。この対応の遅れにより医療従事者の感染が相次ぎ、医療現場がひっ迫しました。■関東で300万回廃棄 「新しいワクチンも余るかも」10月以降、未使用のワクチンの有効期限がどんどん切れ廃棄されています。廃棄の現場を取材すると、期限切れのワクチンは未使用のまま「感染性廃棄物」と書かれた専用の箱に詰められ、業者によって処分施設へ運ばれていきました。処分施設では密閉された箱ごと高温で焼却されます。東京23区への取材では、11月までに廃棄されたワクチンは100万回分以上。さらに関東1都6県にも取材範囲を広げると、12月末までに各都県の大規模接種会場分と政令市・中核市の分を合わせて、300万回分以上のワクチンが廃棄されていたことが新たに分かりました。こんなにも多くのワクチンが廃棄されていることについて、国はどう考えているのでしょうか。国の担当者「国民が安心して接種できるよう対象者全員分のワクチンを確保している。余ることは仕方ない。期限が切れたものは捨てていくしかない。」新たにオミクロン株に対応したワクチン接種も9月から始まりました。接種間隔は3か月に短縮され、11月に都内の新規感染者が1万人を超えた頃には接種する人が一時的に増加しました。しかし、その後の都内の接種率を見ると、11月は1か月で約17ポイント増えた(11月1日5.9%→12月1日22.5%)のに対し、12月は約1か月で12ポイント(12月1日22.5%→26日34.8%)と、接種ペースが遅くなってきています。自治体の担当者からは「このままいけば新しいワクチンも使いきれず余るかもしれない」という不安の声もあがっています。多い人で5回目となった新型コロナのワクチン接種。2023年も続きそうです。自治体の担当者に「国に言いたいことは?」と尋ねると…。A自治体の担当者「何のために接種してるんですか?と。余ったワクチンを消費するために打ってませんか?と。接種回数も多いし接種間隔も短くなった。ワクチンを使い切れなくて余ってるからでしょと考えたくなります」C自治体の担当者「接種間隔も期限も接種対象もどんどん変わって、新しいワクチンも出てくる。方針もどんどん変わる、もう翻弄されるのは慣れましたよ。ワクチンは国の所有物、それを代わりに私たちが打っている。余った分は国に返したい、国の責任で何とか活用してと言いたい」社会部東京都庁担当 寺川祐介・佐藤碧
感染による死者が過去最多の400人を超えるなど、再び感染が拡大する中で、なぜ大量廃棄が起こるのか?複数の自治体の担当者が取材に応じ、本音を語りました。
「いつも突然でした。ワクチンの種類が増えることも接種間隔の前倒しも。そのたびに私たち自治体が振り回されるんです。いつまでこれが続くんでしょうか」
新型コロナのワクチン接種を進める都内のA自治体の担当者は、私たちの取材に2022年をこう振り返りました。
2022年1月、3回目のワクチン接種が高齢者を対象に始まりました。第6波の感染拡大を懸念して急遽、接種間隔が8か月から6か月に短縮、前倒しされたのです。自治体の中には、既に8か月で住民への接種券を印刷したところもあり、数万人分の封筒に修正のシールを貼るなどの対応に追われました。
A自治体の担当者「『接種間隔が短くなることはありませんよね』と何度も国に確認して印刷を発注したのに。ふざけんなと思いました。」
結果的に前倒しは間に合わず、感染は拡大。2月初旬には新規感染者が2万人を超え、接種の遅れが批判されました。
思い返せば、2021年の1・2回目の接種でも、高齢者を対象に始まった際、国からの供給が遅れ、ワクチンが不足。自治体に十分に行き渡らず、接種できない事態が起きるなど、混乱しました。
A自治体の担当者「なんで遅いんだ、足りないんだと住民から怒られました。それは今もトラウマになっています」
こうしたことから、3回目では必要とする住民が打てるよう、どの自治体も早めにワクチンを確保することに必死になりました。しかし、接種間隔の突然の前倒しで自治体は混乱に陥りました。そうした中で2月からは18歳以上への接種が本格化しました。しばらくすると、私たちの元に都内の保健所の関係者から、ある情報がもたらされました。
「接種が進まずワクチンの期限が切れる懸念がある。余ったら廃棄になる可能性が出てきた」。いったい何が起きていたのでしょうか。
ワクチンは、国が市区町村の人口を基に供給する上限を定めます。市区町村はどれほどの住民が接種するかを予測して必要な数量を国に要求し、1~2か月後に届けられる仕組みです。自治体は前回の接種でいつ何人が打ったかといったデータや、感染状況などを基に予測するといいます。3回目接種では多くの自治体が十分な量のワクチンを確保できましたが、対象者が拡大してから接種ペースが落ち始めました。自治体担当者は「想定外に若者の3回目接種率が低かった」と口を揃えました。予測に反してワクチンが打たれず、大量のワクチンの在庫を抱え込んだまま5月になりました。自治体によっては数万回分のワクチンの有効期限が目前に迫り、未使用のまま廃棄する可能性も出てきたのです。
A自治体の担当者「先のことを予測して余らせないようにするのは『神業』。ワクチンは数か月前に国に申請しなければいけないが、もらった時に世の中どうなっているかなんて分からない」
B自治体の担当者「接種対象の住民が100万人だとしたら、接種率が5%下がっただけで5万人の誤差が出る計算になる。初回接種の経験を踏まえても過不足なくワクチンを用意するのは不可能」
同じ5月には4回目接種が開始。余り始めたワクチンを抱える中、別の問題が浮上します。4回目は対象が基礎疾患がある人と60歳以上の人に限定され、基礎疾患がある人をどうやって把握するのか、自治体は頭を悩ませました。B自治体は申請した人に接種券を配送する方式を取りましたが、申請なしで全ての住民に接種券を配る自治体もあり、住民からは苦情も…。
B自治体の担当者「住民から『なぜうちだけ接種券が届くのが遅いんだ。自治体の怠慢だ』と苦情が来た」
どれくらいの人が接種をするのか予測が難しい上に接種率も伸び悩み、夏頃から23区などでワクチンが大量に余り始めました。東京都は余ったワクチンを都内の自治体同士で融通するなど手を打とうとしました。しかしワクチンが余っている状況はどこも同じで、融通先はほとんど見つかりませんでした。さらに自治体を困らせたのは、届いたワクチンの有効期限の短さです。有効期限は事前に自治体には知らされず、届いてみなければ分かりません。A自治体では、半年ほど先まで見据えて発注したワクチンが、到着時すでに有効期限が残り3か月を切っていました。モデルナワクチンの有効期限は製造から9か月。輸送などの事情を考えてもあまりに短く、国から説明もないことにA自治体の担当者は「不信感以外の何物でもない」と怒りを露わにしました。結果、使い切れずに数万回分のワクチンを廃棄することになりました。住民と最前線で向き合っている担当者は憤ります。
A自治体の担当者「使う努力はしました。でも余っても国に返せないから自治体で廃棄するしかない。廃棄したら今度は住民から怒られました。国は都合の悪いところは丸投げ」
7月。再び感染が拡大し第7波に突入しました。都内の新規感染者は3万人を超え、過去最多を更新していた7月の半ば、ようやく医療従事者への4回目接種が開始されました。この対応の遅れにより医療従事者の感染が相次ぎ、医療現場がひっ迫しました。
10月以降、未使用のワクチンの有効期限がどんどん切れ廃棄されています。廃棄の現場を取材すると、期限切れのワクチンは未使用のまま「感染性廃棄物」と書かれた専用の箱に詰められ、業者によって処分施設へ運ばれていきました。処分施設では密閉された箱ごと高温で焼却されます。
東京23区への取材では、11月までに廃棄されたワクチンは100万回分以上。さらに関東1都6県にも取材範囲を広げると、12月末までに各都県の大規模接種会場分と政令市・中核市の分を合わせて、300万回分以上のワクチンが廃棄されていたことが新たに分かりました。こんなにも多くのワクチンが廃棄されていることについて、国はどう考えているのでしょうか。
国の担当者「国民が安心して接種できるよう対象者全員分のワクチンを確保している。余ることは仕方ない。期限が切れたものは捨てていくしかない。」
新たにオミクロン株に対応したワクチン接種も9月から始まりました。接種間隔は3か月に短縮され、11月に都内の新規感染者が1万人を超えた頃には接種する人が一時的に増加しました。しかし、その後の都内の接種率を見ると、11月は1か月で約17ポイント増えた(11月1日5.9%→12月1日22.5%)のに対し、12月は約1か月で12ポイント(12月1日22.5%→26日34.8%)と、接種ペースが遅くなってきています。自治体の担当者からは「このままいけば新しいワクチンも使いきれず余るかもしれない」という不安の声もあがっています。
多い人で5回目となった新型コロナのワクチン接種。2023年も続きそうです。自治体の担当者に「国に言いたいことは?」と尋ねると…。
A自治体の担当者「何のために接種してるんですか?と。余ったワクチンを消費するために打ってませんか?と。接種回数も多いし接種間隔も短くなった。ワクチンを使い切れなくて余ってるからでしょと考えたくなります」
C自治体の担当者「接種間隔も期限も接種対象もどんどん変わって、新しいワクチンも出てくる。方針もどんどん変わる、もう翻弄されるのは慣れましたよ。ワクチンは国の所有物、それを代わりに私たちが打っている。余った分は国に返したい、国の責任で何とか活用してと言いたい」

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