こうして悲劇は繰り返される…30年前に桜田淳子さんと合同結婚式に参加した信者たちのいま

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※本稿は、いのうえせつこ著、山口広監修『新宗教の現在地』(花伝社)の一部を再編集したものです。
霊感商法とは、「先祖の祟り」などの文句を使って、壺や印鑑などの物品を「幸運を呼ぶ」と謳って法外な値段で購入させたり、多額な献金を強要したりするものである。
時には、合同結婚式が利用される場合もある。
五年ほど前のことである。私が住む首都圏郊外には、まだ農家も点在している。そのうちの一軒の農家は、田畑も地域のなかでは大きく、屋敷も広くて、地元の農家の中では世話役として、周囲から頼りにされていた。
ただ、悩みもあった。一人息子は体が弱く、40歳を過ぎても、結婚運に恵まれないことだった。
そこへ、「働き者の、いいお嫁さんを息子さんにお世話しましょう」と、親切そうな中年の女性が訪ねて来て、「世界的に有名な合同結婚式です。経費は100万円ほどかかりますが」と、誘った。その家のご両親は、「100万円で働き者のお嫁さんが来てくれるなら」と、息子を合同結婚式に参加させた。
やって来たお嫁さんは、息子より少し年上の、明るい女性だった。だが、彼女が農業をしてくれたのは最初だけで、だんだんと、「この家が不幸なのは、ご先祖様を大切にしないからだ」と言って、「先祖供養のために」と、貯金を下ろすことを両親に迫り始めた。いつしか、農作業はまったくしなくなった。
そこで、結婚して家を出ていた長女が、「何かおかしい」と、母親の兄弟たちに相談をもちかけた。私は、この母方の兄弟から相談を受けたのである。
私はこの農家へと連れて行かれて、息子さんが合同結婚式で出会ったというお嫁さんに会うことになった。
真っ赤なワンピースを着た彼女は、私を見るなり、「話すことはありませんから」と一言。二階の部屋へと駆けあがって行ってしまった。結局、私は、ご家族に対策弁連の連絡先を教えることしかできなかった。
その後、その女性は義父を老人ホームへ入所させ(入所後死亡)、義母を長女の家に追い出し、家屋や田畑の名義を彼女の名義に書き換えて、売却してしまった。すべて、あれよ、あれよという間だった。
これは、実はよくある統一協会の手口なのだが、こうした事例は、表立って裁判になるような「事件」の陰に隠れているだけで、実はこうした「わかりやすい被害」よりも多いのではないかと私は思う。
私も、もっと支援をしてあげていれば、と悔しい思いをした出来事だった。
こうした被害は、決して統一協会時代の、過去の話ではない。
図表1「係属中の(宗)家庭連合(旧統一協会)関係被害訴訟一覧表」を見てほしい。
2020年1月9日時点で、請求金額の総額は、約40億円。1件あたりにすると、3000万円ということになる。献金、物品購入、弁護士費用というのが主な内訳だ。
全国の消費者センターと弁護団による2015年から2019年の図表2「過去5年間の商品別被害集計」によると、商品名の欄には、「印鑑」「数珠・念珠」「壺」「仏像・みろく像」「多宝塔」「人参凝縮液」「献金・浄財」「絵画・美術品」「呉服」「宝石類・毛皮」「仏壇・仏具」「借入」「ビデオ受講料等」「内訳不詳・その他」が並ぶ。
ここに、懐かしい「みろく像」が出てきて驚いた。
拙著『新興宗教ブームと女性』(新評論)の中で、統一協会による主婦向けの宗教法人「天地正教」を取り上げた。天地正教では、そのご本尊である弥勒菩薩について、「この弥勒菩薩の正体こそ文鮮明である」とまことしやかに明かすトリックを使った霊感商法を展開していた。
櫻井義秀・中西尋子著『統一教会 日本宣教の戦略と韓日祝福』(2010年、北海道大学出版)によれば、この天地正教の信者の大半は主婦層であり、統一協会の「ダミー教団」と言われることもあるという。天地正教では、壺や多宝塔を「霊石」として扱っていた。天地正教は1999年に「和合」という形で、旧統一協会に事実上吸収された。
この「みろく像」の項目は、天地正教がなんらかの形で生き残っていることを示しているのかもしれない。
私が1990年代に天地正教に潜入した時、集会に集まっていた女性は、誰もが実直そうな主婦であった。私にこの集会のことを教えてくれた主婦も、「子どものアトピーが治るから」と誘われて入ったのだと話してくれたのが印象的だった。
2019年度だけで、家庭連合(旧統一協会)による霊感商法の被害額は11億円を超えている。しかしこうした事実は、先述の通りマスコミも報道せず、一般的にどれほど周知されているのか疑問である。
そこで、対策弁連の山口広事務局長に、「全国統一教会被害者家族の会」(以後、「家族の会」)を紹介していただいた。
新型コロナウイルス禍の2020年10月、東京で、「家族の会」事務局長夫婦に話を聞いた。ご夫婦からは、深刻な現状を教えていただいた。
「相談を受けるようになって17年になりますが、その数はおよそ5000件ですね。年間では約300件。今は、新型コロナの影響で対面での相談会などは設けていないのですが、電話やメールなどで相談を受けています」
主婦が被害者となるケースが多く、全体の約70パーセントを占めているという。社会人となった若者(青年)が10パーセント程度、その他大学在学中に関わってしまったケースが5パーセント程度、それぞれ継続して相談が寄せられている。「家族の会」の会報六五号(2020年1月号)によると、詳しい内訳は図表3の通り。
やはり、「壮年・主婦」が圧倒的に多い。ご夫婦も、「相談件数は、減少していますが、いわゆる妻や母親の「壮婦」被害者についての相談が圧倒的に多いですね」とのことだった。
ご夫婦によると、最近では家庭連合(旧統一協会)から「念書」のようなものを書かされたという事例が増えているという。
「脱会後、統一協会に対して「献金を返せ!」という訴えが多数あるために、「念書」を書かせているのでしょう」とのことだ。
この「念書」をめぐって裁判になった事件の資料を、対策弁連の山口広弁護士にいただいたので紹介しよう。2020年2月28日の、東京地方裁判所での判決である。
この裁判においては、この「合意書」の有効性について争われたが、結果は原告の勝利。「合意書」は無効とされた。原告は、「合意書」に一度はサインしたにもかかわらず、勝訴を掴んだ。こうした判例が広く知られれば、統一協会による組織的かつ卑劣な行為に歯止めがかかるかもしれない。
「家族の会」を訪ねた帰り際、事務局長ご夫妻から、「来週、東京地裁で霊感商法の裁判がありますよ。傍聴にいらっしゃいますか」と言われた。私はもちろん、二つ返事で「はい、行きます」と答えた。
2020年10月16日、雨模様の中、私は東京地方裁判所に駆け付けた。今日行われる霊感商法の裁判は、午前10時から午後5時まで行われるという。
裁判所に着いて、東京地裁806号に向かって左側のエレベーターに乗る。「平成20年(ワ)105号」と書かれた部屋に入ると、向かって右側が被告である家庭連合側、左が原告である被害者側である。私は傍聴席の中央、一番前に腰を下ろした。傍聴席は、コロナウイルス対策で、一つ置きの着席となっている。午前10時きっかりに、裁判官が登場。全員、立ちあがって黙礼。
原告の証人尋問によると、事件の概要は次のようなものであった。
被害者は、N県に住む高齢女性。3人の娘を育てあげた後も、農業従事者として働いていた。所有していた果樹園をはじめとする不動産や貯金などの全財産を、家庭連合に献金の名目で取り上げられたとして、その損害賠償を求めている。認知症で高齢者施設に入所中の本人に代わって、本人の成年後見人に選任された長女が統一協会を訴えた。
「献金」の概要は次の通り。
最初は、「借り入れ」と称して300万円。その後は、果樹園などを売却させて、2500万円を3回に分けて回収。被害額の合計は1億円以上にのぼった。
思わず、この裁判の傍聴をすすめて下さった「家族の会」事務局長夫婦から聞いた、「『信者』という文字を一つにすると、「儲」かるになる」という言葉を思い出す。
被害者女性が、「生活が苦しい」として、長女に相談をもちかけたことで被害が発覚。他に、不動産売買による税務署からの督促状や、健康保険などの滞納の知らせが届いて困るという話もあった。
娘への相談があった時点で、母親はすでに生活に困窮する状態であった。被害発覚を恐れてか、統一協会側は、一人住まいの被害者女性に生活費として月数万円を渡していた。
証言台に立った長女は、被告の弁護士からの質問に、一歩もひるまなかった。その後ろ姿が凛々しくて、私は思わず休憩時間に「あなた、立派よ」と声をかけたほどである。
原告による証人尋問の後は、家庭連合側の被告として女性4名が次々と証言台に立った。霊感商法の取り立て人として、被害者女性から献金を献納させたという女性たちだ。彼女たちによれば、それは「喜んで、神様に捧げられた」ものであるという。
果樹園の売却金は、どのようにして「献金」に化けたのか。彼女たちの「商法」は、次のようである。
まずは、協会が懇意にしている不動産屋を被害者女性に紹介し、果樹園の売買をさせる。契約には彼女たちが立ち会い、売却金は現金で支払わせる。次に、そのお金を統一協会の施設に「預けさせる」。その後、「本人が神様に差し上げたいと言ったから」、「献金」になったということだ。
彼女たちの証言は、終始、誰が聞いても「嘘でしょ!」と言いたくなるようなものだった。
たとえば、「私は教育係です」といった女性に対して、原告側の弁護士が「原理公論」などの統一協会の教えについて質問すると、「私にははっきり分かりません」と答えたり、「多額なお金を預かったのですね。預かり証は出したのですか」という裁判官からの質問に、「私の担当ではないので」と、はっきりした返答をさけたりと、とにかく曖昧の一言に尽きる証言が続いた。裁判の冒頭、「私は嘘を言いません」と宣言していたにもかかわらず、あやふやな発言の数々に、「これって、何?」とツッコミを入れたくなった。
その後、原告側の弁護士からの質問で、驚きの事実が明らかになった。
家庭連合側の被告として証言に立った彼女たちは、もともと、桜田淳子たちが参加して話題になった、1992年の合同結婚式の参加者だったのだ。ちょうど私が統一協会を追っていた頃だ。
あれから30年近く経って、中年女性になった彼女たちが、家庭連合の活動家──霊感商法の取り立て人──として、私たちの前に再登場したということになる。
久しぶりの長時間にわたる裁判傍聴には疲れた。
しかしあらためて、家庭連合の霊感商法に関する裁判だけで、2019年の1年間に13件、請求被害額は計11億3000万円にのぼっていることを思い出し、なぜ、このような実態がマスコミで取り上げられないのか、不思議に思った。きっと、私の知らない「闇の背景」があるのだろう。
———-いのうえせつこフリーライター1939年岐阜県大垣市生まれ。横浜市在住。県立大垣北高校・京都府立大学卒。子ども、女性、平和などの市民運動を経て女性の視点で取材・執筆・講演活動。フリーライター。一般社団法人日本コンテンツ審査センター諮問委員。一般社団法人AV人権倫理機構監事。NPO法人精舎こどもファンド代表。NPO法人あんしんネット代表。著書に『ウサギと化学兵器――日本の毒ガス兵器開発と戦後』『地震は貧困に襲いかかる――「阪神・淡路大震災」死者6437人の叫び』(花伝社)、『女子挺身隊の記録』『占領軍慰安所――敗戦秘史 国家による売春施設』『子ども虐待――悲劇の連鎖を断つために』『新興宗教ブームと女性』(新評論)など多数。———-
(フリーライター いのうえせつこ)

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