医師がネットで《中出しされたんだな》と暴言を…「緊急避妊薬」への無理解に対する医師、薬剤師の怒り

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《中出しされたんだなーという目で見られながら飲むのはなかなか》
《あまり頻繁に来ると馬鹿扱いされそうだし、まあ違う店行けばいいのか、、体を大切にね》
女性の置かれた状況や背景を一切顧みず、自己責任や軽率さを断罪するかのような表現。緊急避妊薬を求める女性に対するこのポストは、ネット上で大きな波紋を呼んだ(その後、投稿は削除)。発信者が医師だったことで、現場からは怒りと失望の声が上がっている。
2026年2月2日から、薬局で緊急避妊薬「ノルレボ」の販売が開始された。制度の本当の意味は、どこにあるのか。三軒茶屋Artクリニック理事長の坂口健一朗医師と都内調剤薬局で働く女性の管理薬剤師に話を聞いた。
ーーSNSで冒頭のような発言が拡散されました。現場の医療者としては、どう受け止めますか。
坂口医師「現場の医師がそう考えることはないと思います。緊急避妊薬が必要な患者さんは避妊の失敗だけでなく、避妊に同意が得られなかったケース、性被害など、本人の意思だけではどうにもならない事情が少なからずあります。しかし、患者さんから話してくれない限り、深く聞き出すことはできません。診察では『いま、身体的・心理的に何がいちばん安全か』という点を考えます」
薬剤師「薬局の現場も同じです。多くの方は、不安や焦り、混乱の中で来局されるので、私たちが考えるのは、
・服用できる条件にあるか
・誤解なく使ってもらえるか
・次に必要な医療につなげられるか
これだけです」
ーーあらためて、今回の緊急避妊薬OTC(医師の処方箋がなくても薬局で買える薬)化をどう捉えていますか。
坂口医師「制度の趣旨は非常にシンプルで、『時間制約のある薬を、必要な人に間に合うように届ける』というこの一点です。緊急避妊薬には、性交後72時間以内という明確な制限があります。病院が休みだった、受診する余裕がなかった、心理的に受診が難しかったなどの理由で、選択肢を失ってしまう人が現実にいます。薬局で買えるようになったことで、選択肢が増えたという評価になります」
ーー実際に薬局で購入する場合、どういう流れになりますか。
薬剤師「研修を修了した薬剤師がいれば、ドラッグストアでも購入できます。
処方箋は不要ですが、性交の時期や体調などを服用前チェックで確認します。服用可能と判断した場合は、薬剤師の前で服用します。年齢制限はなく、未成年であっても本人の意思で購入・服用が可能です。ただし、必要に応じて医療機関や相談先につなぐ配慮が求められています」
ーーOTC化で、プライバシーの問題も浮き彫りになりますが、薬局で何か対策していますか?
薬剤師「薬局には不特定多数の人が出入りします。その中で緊急避妊薬の相談をするには、声、視線、待ち時間、すべてに配慮が必要です。個室があっても、忙しい時間帯だと空くのを待っている間に相談を断念してしまう方もいると思います。時間・空間・動線まで含めた配慮が求められています。この点は、薬局によって対応が異なると思います」
ーーメフィーゴパックなどの「中絶薬」との違いを教えてください。
坂口医師「緊急避妊薬は妊娠を中断する薬ではありません。排卵を遅らせたり、受精・着床が起きにくい環境をつくる薬で、すでに成立した妊娠を終わらせる作用はありません」
薬剤師「中絶薬と誤解する人がいるかもしれないので、その点は私たちもしっかりと伝える必要があると考えています。研修では、緊急避妊薬と中絶薬の違いは必ず学びます。緊急避妊薬は妊娠を防ぐための薬で、すでに妊娠している場合には効果がありません。
一方、中絶薬は妊娠が成立したあとに使う薬で、目的も作用もまったく違います。ここが混同されると『命を軽く扱う制度』という誤解につながってしまう。その誤解を防ぐことも、薬剤師の重要な役割だと思います」
ーー緊急避妊薬を求める背景には、性被害が疑われるケースもあります。その際はどういう対応になりますか。
坂口医師「非常に繊細な問題です。医師であっても、本人が語らない限り、性被害かどうかを断定することはできません。無理に聞き出すことは、かえって本人を追い詰めてしまうことがあります。だからこそ、話しても、話さなくても尊重される環境をつくることが大切です」
薬剤師「医療機関や支援先につなぐことはできますが、こちらから事情を聞き出すことはありません。緊急避妊薬の購入を考える方の中には、『薬局でいろいろ聞かれるのではないか』と心配される方もいると思います。我々薬剤師が確認するのは、身体的に服用可能かどうかを判断するために必要なことだけです」
ーー医師が《頻繁に来ると馬鹿扱いされそう》と投稿したことに驚きました。緊急避妊薬を繰り返し必要とする人が来た場合、現場はどう受け止めるのでしょうか。
坂口医師「頻回に使っている人がいるなら、それは責める対象ではなく、次の医療につなぐサインです。緊急避妊薬は緊急時の選択肢。繰り返し必要になる場合は、低用量ピルなど、より安定した避妊法を一緒に考えるべきです。その点で言えば、緊急避妊薬のOTC化と同時に薬局での販売を議論すべきだったのではないかと思います」
ーー服用後に妊娠が成立した場合、胎児への影響はありますか。
坂口医師「胎児の発育に悪影響を及ぼすことはありません。緊急避妊薬を服用しても、妊娠が成立していればそのまま進んでいきます。そのため、服用後およそ3週間前後で妊娠の有無を必ず確認することが重要です」
――妊娠が成立した場合でも、産まないという決断をした場合には?
坂口医師「出産を望まない場合、中絶手術が必要になります」
ーー中絶手術そのものに不安を持つ人もいます。
坂口医師「現在は器具や方法が改良され、安全性は大きく向上しています。将来の妊娠に影響するリスクは極めて低いとされています」
ーー妊娠が成立していた場合には、本人だけでなく、周りの人とも相談し、十分に考えてほしいと思いますが、中絶手術にはリミットもありますね?
坂口医師「母体保護法により妊娠21週6日(22週未満)まで中絶手術は可能です。胎児の成長と母体への負担を考慮し、妊娠6~9週の『初期中絶』が最も安全な時期とされています」
ーー「もう少し考えてから」と思っているうちに週数が進み、選択肢が狭まってしまうケースもあるので、早い段階での相談が必要ですね。緊急避妊薬のOTC化で、薬局が最初の相談窓口になるケースも増えそうです。
薬剤師「そう思います。薬局は、医療機関よりも心理的ハードルが低い場所です。だからこそ、私たちは『ここで終わらせない』ことを意識しています。
・妊娠の可能性があること
・確認が必要な時期
・医療機関につながる必要性
これらを冷静に伝え、必要な場合は医師につなぐ。薬を渡して終わりではなく、次の一歩を一緒に考える場所でありたいと思っています」
緊急避妊薬を必要とする背景は人によってまったく異なる。だからこそ、一部の偏見や不用意な言葉が女性の選択肢や健康を狭めてしまうようなことがあってはならない。そのことを社会で共有する必要があるだろう。

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