「もっと深くえぐり取らないと」と言われたがん患者はショックを受け…腕が良いと評判の医師の衝撃的な言動。名医の条件は腕だけではない

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「がん」と診断されたときに直面する「どの病院に行くべき?」「どの医師に診てもらえばいい?」といった疑問――しかし、がん患者のための情報サイト「イシュラン」で編集長を務める医療コンサルタント・鈴木英介さんは「ランキング本や口コミサイトなど、世の中の多くの方が頼りにする情報は、実は賢明な病院・医師選びに結びつきにくい」と語ります。そこで今回は、鈴木さんの著書『後悔しないがんの病院と名医の探し方~「有名病院」「ランキング」に頼らず、最善の選択を』から、本当に信頼できる主治医にたどり着くための方法を一部ご紹介します。
【書影】がん患者と家族に寄り添う、病院・医師選びの道しるべ。鈴木英介『後悔しないがんの病院と名医の探し方~「有名病院」「ランキング」に頼らず、最善の選択を』
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専門医資格は医師の「腕」を見る指標として不可欠の条件ですが、医師の良し悪しは、必ずしも「腕」だけでは決まりません。もう一つ大事な条件があります。それは、コミュニケーション力です。
20年近く前に、とあるがんセンターの副院長の先生から聞いた話ですが、病院でのトラブルの原因の9割以上が、“医師と患者とのコミュニケーション不全に起因”するそうです。
その後、私自身も、がん患者さんとは数多く接触してきて、知り合った患者さんに発生したトラブルを観察するにつれ、この先生の言葉は至言だったと確信しています。
一例を挙げましょう。
私が、とある70代の女性の患者さんの外来診療に付き添った時の話です。(*本人の了承を得ています)
主治医の先生は泌尿器科医で、腕が良いという評判を聞きつけて、この患者さんは良性の腫瘍の手術を受けたのですが、摘出した検体を調べたところ、実はがんであることがわかりました。きちんと取り切れていなかった可能性を考えて、追加の切除手術も受けました。
私が付き添った日は、追加手術の後に行った画像検査(MRI)の結果説明と今後の治療方針を聞く、大事な節目となる診察のタイミングでした。
コンコンコンとドアをノックして、「失礼します」と挨拶しながら診察室に入ったところ、主治医の先生はこちらを見向きもせず、難しい顔つきでじっと目の前のPCの画面を見ています。着席して無言のまま過ぎること30秒。さすがにこちらから声をかけようかと思ったところで、主治医が画面を見たまま口を開きます。「これは、もう一度、今度はもっと深くえぐり取らないといけないね」。
この一言を聞いた患者さんは、わっと両手で顔を覆ったまま、ショックで何も言えなくなってしまいました。ここで私が口を挟みます。
私:「先生、追加の手術が必要ということですが、なぜでしょうか?」
主治医:「MRIの画像でモヤモヤとした影が映っていて、がんがまだ残っていることが否定できないんで」
私:「追加の切除術で、断端は確認されたのでしょうか? MRIの画像だけだと、がんではない可能性もありますよね? 術後の炎症が残っていて、モヤモヤしているとか。そうであれば、今しばらく様子を見るという選択肢は取れないのでしょうか?」
主治医:「……」
少し間をおいて、「もうそれなら、様子見でいいでしょ」と、主治医は不機嫌さを隠さず、捨て台詞のように言葉を発しました。
ここまでひどい対応をする医師を見たのは私も初めてで、これは絶対に主治医を変更しないとまずいと判断し、患者さんの同意を得た上で、別の主治医を探しました。その後は結局、追加手術の必要も全くないまま経過観察のみで、この患者さんは今でも何一つ問題なく日常生活を送っています。
この先生のダメなところは、
・そもそも患者さんが入室した時に挨拶もしない時点で、人としてダメ
・PCをずっと見たまま何も言わないで、患者の不安を煽る必要はどこにもない
・患者さんにとって一番聞きたくないニュース(追加手術)を、顔も見ず、何の枕詞(慰め)もなく告げる気遣いのなさ
・「えぐり取る」という、患者さんにとってショックを増すような言葉の選択
・手術以外の選択肢の可能性を示さず、(根拠が曖昧なのに)断定的に手術を宣告
とたくさんあります。
こう言ってはなんですが、「目の前の患者さんを見ずに、手術することばかり考えているのでは?」という感じでした。これはさすがに極端な事例ですが、患者さんやご家族が「あれ?」と疑問に思ったり不快に感じたりするのは、こうしたコミュニケーション不全が一因であるということは、感じていただけたかと思います。
ということで、医師の良し悪しを決めるのは、本来、「腕」に加えて「コミュニケーション力」がセットであるはずです。
では、日本の医師たちは、適切なコミュニケーションを行うためのトレーニングを積んでいるのでしょうか?
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
コミュニケーションの「達人」とも言うべき医師に、米国のコロンビア大学内科准教授の中川俊一先生という方がいらっしゃいます。中川先生は、その著書「あなたのACPはなぜうまくいかないのか?」(メジカルビュー社)の中で、こんなことを述べています(「ACP」とは「Advanced Care Planning(アドバンスト・ケア・プランニング)」の略語で、前もって将来起き得る悪い状況に備えることを意味します)。
米国と日本で指導をしていてしみじみと感じるのは、コミュニケーションに関する教育が非常に遅れているということです。米国は日本よりはまだマシですが、それでも全然足りません。
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医療者として仕事をして患者や家族と話をするのであれば、相手に何か悪い知らせを伝えることを避けるのは、どの専門家を選んだとしても不可能です。それなのに、コミュニケーションの教育や指導に割かれている時間は驚くほど少ないか、ほとんどありません。医師は各自が自分の感覚で、見様見真似でやっており、ぶっちゃけていうと(もちろん上手な医療者もたくさんいますが)基本的に「医師は口の利き方を知らない」といっていいと思います。
これを見る限り、残念ながら日本のがん治療医の多くは、適切なコミュニケーションを行うためのトレーニングを積んでおらず、「自己流」で対応しているというのが現実でしょう。
それでは、目の前の医師が、良質なコミュニケーション能力を持つ医師かどうか、患者さんはどうやって見極めれば良いでしょうか?
ポイント1がんの告知時や治療の節目で十分な時間をかけてくれるか?
どんな人でも、命に関わる病気であることを告げられたら、相当なショックを受けます。「バッドニュース(悪い知らせ)」の伝達は、医師にとっては日常の一コマですが、患者にとっては一生にそう何度とない“非常事態”です。バッドニュースを聞かされて、頭の整理も気持ちの整理もできていない状態で治療方針の決定を急かされても、患者は適切な判断ができません。
そのあたりの機微がわかっている良医は、告知そのものに時間をしっかりかけ、治療方針を決定する際にも、患者や周囲の人に考える時間を与えてくれます。
ポイント2あなたの仕事や生活への配慮があるか?
医師は原則、「病気を治す/コントロールする」ことがゴールです。一方、「手術や放射線治療による後遺症」や「抗がん剤での副作用」がもたらす影響は、一般的には、医師が気にする以上に患者が気にするポイントだと言えるでしょう。
例えば、“手足のしびれ”の副作用が高確率で出てくるような抗がん剤治療は、エビデンス的に推奨されたとしても、ピアニストの患者さんにとってはベストの選択肢ではないでしょう。また、フルタイムの仕事をしている患者さんであれば、来院して点滴が必要な治療より、飲み薬での治療の方が好ましいかもしれません。
こうした、患者の仕事面や生活面での「個々の事情」をしっかり汲み取って、治療選択を一緒に考えてくれるような医師は、良医です。
ポイント3あなたが「わかる」言葉で話してくれるか?
がん医療には、カタカナやアルファベットの専門用語が、やたらとたくさん出てきます。これらは、患者や家族にとってみれば、最初は「謎の暗号」にしか見えない、聞こえないものです。こうした専門用語を知ってか知らずか、ついついたくさん使ってしまう医師も多いのが実態ですが、「謎の暗号」が一定量を超えると、患者も家族も話の全体を理解することができなくなります。
逆に言えば、あなたがきちんとわかっているかどうか、不安になることや心配なことがないかを確認しつつ、患者や家族にも「わかる」言葉で話を進めてくれる医師は、良医と言えるでしょう。
以上、医師のコミュニケーション力を見極めるためのポイントをお伝えしましたが、これらの情報を事前に把握するのは、かなり難しいです。もちろん、口コミなどからある程度は推測することは可能ですが、大きな病院の医師ともなると、個人レベルでどのような対応をされているかという口コミ情報は、なかなかありません。
「イシュラン」のような情報サイトを使ってもらうとか、同じ病院に通っている他の患者さんから情報収集をするとかができれば、ある程度は見えてくるのですが、実際のところは、患者さん自身で会ってみて判断をする、という形を取らざるを得ないケースが多いのが現状です。
※本稿は、『後悔しないがんの病院と名医の探し方~「有名病院」「ランキング」に頼らず、最善の選択を』(大和書房)の一部を再編集したものです。

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