高知県は、全国チェーン企業にとって“最後のフロンティア”と呼ばれることがある。実際、その顔ぶれを並べてみると、その特異性は際立っている。
サイゼリヤやジョナサン、バーミヤン、やよい軒などの全国的な外食チェーンがいまだ出店しておらず、ガストや吉野家といったおなじみの店も数えるほどしか存在しない。コンビニ最大手・セブンイレブンの国内都道府県別店舗数は51店舗と、2025年11月時点で全国最下位だ。
また、ビジネスホテルの定番である東横インやルートインホテルも、全国で唯一未進出となっている。全国最大の1024軒・約14万室を展開するアパホテルでさえ、高知県への初進出は来年3月開業予定と、ようやく重い腰を上げた格好だ。
そんな高知に今年2月、ドン・キホーテが全国で最後となる初出店を果たし、開店直後から数百人もの長蛇の列ができたことは記憶に新しい。このお祭り騒ぎは、高知県民がいかに全国チェーンから切り離されてきたかを示している。
なぜ、高知にはここまでチェーン店が根付かないのか。その最大の理由は、地理と物流にある。
高知県は四国の中でも特異な地形をしている。県土は東西に長く、その大半を四国山地が占める。陸路で入ろうとすれば、どの県からも山を越える必要があり、高速道路網も他県に比べて脆弱だ。多店舗展開を前提とするチェーンにとっては、配送網を引く決断が難しい。
実際、徳島・香川・愛媛は関西や中国地方の物流センターを活用できるが、高知だけはその圏外にある。高知に本格進出するなら、別途新たな拠点を構える必要があり、初期投資のハードルは一気に跳ね上がる。
加えて、人口規模と所得水準という問題も大きい。2019年の全国家計構造調査によれば、都道府県別の年間収入(総世帯)において、高知県の世帯年収は全国45位にとどまる。可処分所得が低ければ、売り上げが見込みづらいのは当然だ。
さらに、2020年の国勢調査では人口密度も全国44位とワーストクラスで、東京の約70分の1にすぎない。となると、商圏としての厚みは決定的に弱いと言わざるを得ない。これでは「進出しても採算が合わない」とチェーン本部が判断するのも、合理的な話だろう。
だが、それだけでは説明がつかない側面もある。総務省が毎年発表している家計調査によれば、実は高知県民の外食費は全国平均を上回っているのだ。
高知ではファミリーレストランや全国チェーンの居酒屋が少ない一方で、街には個人経営の飲食店がひしめいている。象徴的なのが、根強い喫茶店文化だ。漁師町が多く共働き世帯も少なくない高知では、人口当たりの喫茶店数が全国トップクラスとされ、モーニング文化が日常に深く根付いている。
こうしたチェーンが入り込みにくい難攻不落の市場で、地元密着型の飲食チェーンが着実に勢力を築いてきた。その代表格が、高知県内に15店舗を展開する「現代企業社」グループである。
現代企業社は、高知県内のみで飲食店14店舗とベーカリー1店舗を展開するローカルチェーンだ。創業以来、全国チェーンとは一線を画す独自路線を貫き、県民のニーズを着実に囲い込んできた。
はたして、どんな工夫や戦略で、高知県民に愛される飲食店として不動の地位を築いてきたのか。副社長の大西みちるさんに話を訊いた。
「現代企業社」の歴史を紐解くと、昭和33年に遡る。大西みちるさんの祖父の弟が一号店となる「ショパン」を開き、祖父が1年後に引き継いだ。「ショパン」は、「第一」という名への改名を経て、現在の「ファウスト」という店名になり、こちらは今なお高知市内の繁華街の人気店である。
高知の喫茶店文化は大正時代から芽吹き始めていたものの、大空襲で全滅した。しかし戦後の昭和30年代、特別な知識がなくても始められる手軽さや共働きが多かったことなどから一気に再興し、喫茶店文化の黄金期を迎える。「ファウスト」が開店したのも、ちょうどそんな時期だった。
大西さんは言う。
「娯楽が少なかった当時の高知において、喫茶店は社交場として機能していました。とくに祖父の店ではクラシック音楽を流し、店内の雰囲気づくりにもこだわっていて、詩人や画家などの芸術家が集まって芸術論を交わす場になっていました。祖父自身も小説家を志していましたが、画家たちとの交流を通じて絵を描き始めます」
その後、街で映画を観た後に、「ファウスト」に寄り、音楽も楽しみながら映画の話をする、なんていう流れもできた。「現代企業社」は一気に店舗展開を広げていく。
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【つづきを読む】『「サイゼリヤすら県内ゼロ」の高知県で、半世紀以上も君臨し続ける「ローカルチェーン」の正体』
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