【梅津 有希子】80代母とふたり暮らしする55歳女性、20以上の「スキマバイト」の中で一番楽しかった仕事とは

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

昭和の女性は、「結婚」「出産」「子育て」という一つのライフコースに集約されがちだったが、平成、令和と進み、その前提は変わりつつある。
「令和3年国民生活基礎調査」によると、恋人(異性)または婚約者がいる未婚男性は2割、未婚女性では3割弱、2000年代前半をピークに減少が続いている。一方で、未婚女性の約3人に1人が「特に交際を望んでいない」と回答した。
また、では、「生きがいとなる趣味やライフワークを持っている」「一人の生活を続けても寂しくないと思う」と答える未婚男女の割合が、いずれも前回調査より増加している。
結婚や出産を前提とせず、自分の時間をどう使い、何を大切にして生きるかを自ら選びたい–そんな価値観が、性別や年齢を超えて広がっていることが数字からも読み取れる。
愛知県在住のミサさん(仮名・55歳)は、30代に経験した失恋をきっかけに、長く働けるようにと、簿記の資格を取得。現在は経理事務の仕事と、自分の学びの時間を両軸に、空いた時間には、スキマバイトを入れている。
「自分の予定を優先しながら収入を増やせるのもありがたいけど、まるで“大人のキッザニア”のようで、知らない世界をのぞける楽しさもある」とタイミーのアプリを活用し、寿司店、スーパーのレジ、コールセンターなど、さまざまな仕事を体験してきた。
スキマバイトを「大人のキッザニア」と表現するミサさんは、仕事を単なる収入源ではなく、知らない世界に触れる入り口として楽しんでいる。
後編では、数ある体験の中でも「一番楽しかった」仕事、そして働くことを通して見えてきた自身の変化についてさらにお聞きした。
好奇心旺盛なミサさんが“大人のキッザニア”と呼ぶスキマバイトで、これまでに一番楽しかった仕事を聞いてみた。
「コンサート会場のスタッフです。
K-POPアーティストの物販のお仕事だったのですが、お客さんが事前にネットで購入した品物を、コンサート会場で渡すというもの。何人かでチームを組んでやるのでにぎやかで、お金のやり取りはなく、お弁当を出してもらえたりなど、イベント気分でそれはもう楽しくて。
ただ時間の面で、ジェネレーションギャップを感じる機会でもありました。事前準備や仕事内容の説明もあって、集合時間が仕事開始より早い時間だったんです。
私の年代だと、始まる前の準備や、集合時間前に余裕を持っていく、などは当たり前の感覚なので、はいと素直に受け取ったのですが、若い世代から『この時間は給料は発生しないんですか?』という質問があって、そういう考えもあるのか、と感じました。
いざ始まってみると、運営側の方の配慮が行き届いていて、こまめな休憩があり、お弁当やお茶、寒い時はカイロまで支給され、報酬に文句はありませんでした。
さまざまな年代の人が集まる仕事は、価値観や常識が本当にいろいろで、ジェネレーションギャップを感じることもありますが、それも刺激のひとつ。なかなか興味深いですよ」
ミサさんの受け取り方はつねに前向きだ。
自動車ディーラーの受付の仕事は「若い時は出来なかった花形職をこの年齢で出来るとは思わなかった」と嬉しそうに語り、不動産営業に使うアンケート調査の仕事は、「仕事なのに会話が盛り上がって、いい息抜きに。何度かやらせてもらったのですが、成績もよかったみたいで、褒められちゃった」。
さらに、洋服メーカーのリクルートスーツの採寸、レンタカーの車庫出しや返却された車の清掃、コーヒーのパッケージのシール貼りなどについても、「いろいろな車に乗れて楽しかった」「コーヒーの香りに包まれて、いい気分」。
楽しく前向きに取り組むからこそ、周囲から大切にされるのだろう。
40代、50代の女性は、社会経験や実務経験があっても、子育てや介護などで一線を退いている方も多いため、「若い子よりも、共通認識の多い世代に来てもらいたい」という企業も増えているという。
チャレンジ精神旺盛なミサさんは、タイミーのレビューでワーカーからの評価の低いところにも、あえて応募してみたりもするという。
「レビューでいろいろ書かれていた飲食店だったんですけど、何がひどいのか、自分の目で確かめてみたくて……(笑)。
実際に中に入ってみたら、まず、本当に忙しい。なので、古株の方がかなり強めに仕切っている。
みんな余裕がない中で、口調も当たりもキツいので、まあ、楽しく働ける環境ではないなと。でも、一度きりでいいのだし、こうして話のネタにもなるし(笑)」
「怖いもの見たさ」でわざわざ確かめにいくミサさんの好奇心も、あっぱれである。
「ほんとうに辛いだけなら行かないと思うんです。でも、行ってみると、やっぱり何か、楽しいことがある。どんなところでも、嫌なことしかない、なんてことはありません。
最近、月1ペースでとある雑貨店で働いているんですけど、かわいいものがいっぱい置いてあって、あの場所にいられること自体がとても幸せ。
とくにそこでは、オーナーやスタッフの方が、名前で呼んでくれるのもうれしくて。普段は『タイミーさん』で構わないと思っているんですが、名前で呼んでもらえると、何というか、心があるなと感じられる」
これまでにさまざまな人生経験をし、感謝の気持ちを忘れず前向きに暮らしているミサさん。今は80代の母親と2人の生活で、何気ない日常に笑いが絶えないという。
「ほんとうにちっちゃいことなのですが、うちでは何かものがなくなると、ヤカンにハチマキをかけた“ヤカン様”にお願いするという習慣があるんです(笑)。先日も母が、『ヤカン様、通帳がなくなってしまったのでどこにあるか教えてください』とお願いしたら、引き出しの奥のほうにあった通帳が見つかって。『やったね!』『ブラボーだね!』と大笑いしながら喜んだ、なんて、くだらない話でごめんなさい!」
ハチマキを巻いた“ヤカン様”を想像するだけで、ほがらかな2人の日常が目に浮かぶ。ちなみに、“ヤカン様”を調べてみると、なくしたものを探す時のおまじないのようなもので、ミサさん宅だけではなく、日本の一部地域に伝わるならわしだという。
「母との暮らしは快適で楽しいのですが、できればパートナーと呼べる人がほしいなとは思います。今、さびしくないのは、母と笑い合えているからで、誰かと一緒にいる方が、私は楽しめる」
かつては、判で押したようにみなが追従した「結婚適齢期」「寿退職」「出産・育児」という固定観念も、都会暮らしの中ではだいぶ薄まって、未婚の男女では「生きがいとなるような趣味やライフワークを持っている」「一人の生活を続けても寂しくないと思う」と考える人の割合が増加した。
「人生100年時代。健康、存在価値、経済健やかに」がモットーのミサさん。終身雇用や結婚、出産、育児などの世間体に縛られず、変化を楽しみ、新しい世界に飛び込むことで、学び続けようとする彼女は、失恋の傷みもひとりの寂しさも認める強さがあるからこそ、今の暮らしを楽しめるのだろう。
固定観念よりも自分の価値観を大切に、よく笑い、いきいきと話すミサさんは、確かに人生を謳歌していた。
【前編を読む】50代からのセカンドキャリア。55歳女性が「スキマバイト」でコールセンター、レジ、接客をしてわかったこと

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。