漫画家が“自ら原稿を売る”切実な事情とは…「カラー原稿は100万円を超えることも」「連載時の原稿料よりも高く買ってくれる」

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以前、デイリー新潮で、「漫画家の原稿が捨てられている」という実態をレポートしたところ、大きな反響を呼んだ。実際、漫画家からは「自分も他人事ではない」というコメントが多数寄せられた。膨大な量の原稿を押し入れに溜め込み、どうすればいいか、途方に暮れている漫画家は少なくないためである。
漫画の原稿の流出を防ぐために、政府も保存のための施設を整備しようとしている。また、秋田県横手市には「横手市増田まんが美術館」のように、矢口高雄氏や東村アキコ氏、浦沢直樹氏などの原稿を一括して収蔵、保管する施設もある。しかし、そういった施設に預けず、オークションなどで自ら原稿を売る漫画家も増えているようだ。
今回、匿名で取材に応じてくれた漫画家のA氏は、現在は既に引退しているものの、1990~2000年代に複数誌で連載をもっていた売れっ子である。「終活の一環」「生活費になるのでありがたい」と話すA氏に、原稿を売り始めたきっかけから、若手漫画家に対する思いまで深く話を聞いた。【文・取材=山内貴範】
【写真】こっそり売りに来る漫画家も? 漫画の原画も数多く取り扱う東京・中野の「まんだらけ」の様子
――先生は原稿をどのような形で販売しているのでしょうか。
A:私が原稿を売り始めたのは、コロナ禍の時です。以前はオークションサイトで売ったことがありますが、ファンから「直接売ってほしい」と連絡が来るようになり、直接取り引きすることが多くなりました。声をかけてくれたファンがとても熱心な方で、外国の友人などを紹介してくれるんですよ。だから、それなりの収入になっています。
私の原稿を買っている方々は私の漫画の昔からのファンであるとともに、みんなお金持ちです。最初にかなりの額を出してくれた方はお医者さん。あとは不動産業者もいるし、外国の方も資産家だと聞いています。もしかすると投資目的で買っているのかもしれないけれど、私としては目的がなんであれ、お金になるなら嬉しいですよ。
――毎月どれくらい売り上げているのですか。
A:いつも売っているわけではないので、月によってバラつきはあるのですが、今年も200万円は超えていると思います。ざっくりとした金額ですが、去年もだいたいそのくらいかな。私が売っているのは連載当時の漫画の原稿で、単行本の表紙などに使ったカラー原稿は30~50万円、なかには100万円を超える額で買ってもらったものもあります。
外国の方、特に中国人やフランス人は言い値で買ってくれますね。そういった“お得意様”にはこちらもサービスをするし、裏オプションみたいなことも受け付けています。キャラクターの“18禁”の絵を描いてあげたりとかね。もちろんそれも販売していますし、高く買ってもらえます。
――原稿を手放そうと思った理由は何でしょうか。
A:終活が目的ですね。自分はもう60歳を超えているのですが、手塚治虫先生は60歳で亡くなっているし、知り合いの同業者も病院通いをしているから、漫画家は病気がちで短命なイメージがある。実際、私も連載中には無理をしました。何日も徹夜したりとか、かなり不健康な生活をしてきました。
だから、今は身体のあちこちが痛いんですよ。一応結婚もしていますが、奥さんとの関係が疎遠になっているし、子供ともしばらく会っていない。私が突然死んだら残された家族が困るだろうから、いらないものは処分しています。漫画ももう描かなくなったから、仕事机などはとっくに処分してしまいました。
――「横手市増田まんが美術館」のような原稿を収蔵する施設があります。先生の絵ならそういった施設が受け入れてくれそうですが、預けることは考えなかったのでしょうか。
A:預けるとしても、向こうがお金を出して買ってくれるわけじゃない。無償で預けることになってしまうでしょう。私は原稿に未練があるわけではないし、美術館で保存されるより、お金になるほうがいい。政府や自治体が漫画家の原稿を保存しようと本気で考えるなら、ある程度の金額で買い上げないと、残せないと思います。
というのも、私と同世代の漫画家は稼いでいるときに浪費ばかりして、貯蓄がほとんどない人も珍しくないと思うからです。高値で売れるなら、売却してしまう人も多いんじゃないかな。原稿に愛着がある漫画家もいるかもしれないけれど、私はそれほど思い入れがないので、処分することにためらいはまったくありませんでした。
むしろ、「こんなに高いお金を出してくれていいんですか?」と、ファンの方に申し訳ないくらい。だって、連載当時の原稿料よりもはるかに高いお金を出して、買ってくれるんですよ。原稿料なんて1ページ1万円いかないくらいで、カラーも2万円前後。それが何倍にもなるんだから、ありがたいよね。
――失礼ですが、先生は現在、貯蓄はどんな感じなのでしょうか。
A:今もスーパーマーケットで品出しのアルバイトをしていますが、原稿を売り始める前は、収入が家賃と生活費に消えていたので、蓄えはほとんどありませんでしたね。今はありがたいことに、原稿を買ってくれる人がいるおかげで、外食できるくらいのお金は得られています。賃貸物件に住んでいますが、問題なくやっていけています。
売れているときはファンが買ってくれた単行本の印税が、今は残しておいた原稿が私を助けてくれている。本当にありがたいことです。
――若い漫画家に対して、思うことはありますか。
A:漫画家をやっている若い人たちは、貯蓄や投資などを真剣に考えたほうがいいと思うよ。私は最盛期で年収が4000万円くらいあり、その水準が何年も続き、税金を払う側でした。ところが、連載が終わると単行本も売れなくなり、あっという間に絶版になってしまった。すると、収入がパタッとなくなってしまいました。
40代後半に、自営業の厳しさに直面したのです。貯金を切り崩して生活していましたが、それも限界になりました。私がバリバリ漫画を描いていた20代の頃は、出版社も同業者も羽振りが良かった。だから貯蓄なんて考えず、入った印税はどんどん使ってしまいました。今となっては、なんて馬鹿なことをしたんだろうと思いますね。
――それでも、原稿という資産があるおかげで、先生の生活は成り立っているわけですね。
A:その通りですね。あと、そういう意味では、若い人たちのことがますます不安になります。彼らは原稿をデジタルで作っているから、データしかないでしょう。紙と違って一点物じゃないから、高額では売れないでしょう。だから、繰り返すようだけれど、漫画家は貯蓄をしておいた方がいいと思う。儲かってもくれぐれも浪費はしないこと。私から言えるのは本当にそれだけですね。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部

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