「一平ちゃん」でも「U.F.O.」「ペヤング」でもなく…カップ焼きそば市場の知られざる“ナンバーワンヒット商品”とは?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

〈U.F.O.って何の略? 日清食品創業者の息子が「日清焼そばU.F.O.」のネーミングに込めた、意外と知られていない“2つの意味”〉から続く
カップ焼きそばといえば、よく名前が上がる人気商品は「ペヤング」「U.F.O.」「一平ちゃん」だ。しかし、近年急速に売り上げを伸ばしている隠れた大ヒット商品がある。それは「マルちゃん ごつ盛り ソース焼そば」だ。
【画像】「一平ちゃん」でも「U.F.O.」「ペヤング」でもなく…カップ焼きそば市場の知られざる“ナンバーワンヒット商品”
販路の都合上、コンビニで売られることのない「ごつ盛り」は知名度が低い。なぜ、3社の人気商品を凌ぐほど売れているのだろうか? その躍進には意外な経緯があった。
ここでは、本業のITエンジニアのかたわら、ブログ「焼きそば名店探訪録」を運営し、これまで全国1500軒以上の焼きそばを食べ歩いてきた塩崎省吾さんによる『カップ焼きそばの謎』(ハヤカワ新書)より一部を抜粋。
同名の大型カップラーメンの後に発売された「ごつ盛り ソース焼そば」ヒットの裏側に迫る。(全3回の3回目/最初から読む)
Wakko/イメージマート
◆◆◆
大型カップラーメン3種が発売された翌年の2010(平成22)年3月1日、〈マルちゃん ごつ盛り ソース焼そば〉が発売された。
先行した3品と同じくニュースリリースはないのだが、WEBアーカイブで当時の商品ページを発掘できた。商品説明はごくあっさりした内容だ。
麺130g、スパイス感のあるブレンドソースに「キューピーからしマヨネーズ」が付いた大盛ソース焼そば。
麺量130gは、エースコックの〈大盛りいか焼そば〉とほぼ同じ、通常商品の約1.5倍のボリュームだ。カップ焼きそば1個でも十分な満腹感が得られる。
付属の〈キューピーからしマヨネーズ〉も大きな特徴だ。マヨネーズ付きカップ焼きそばというと〈明星 一平ちゃん夜店の焼そば〉のイメージが強いが、実際には〈バゴォーン〉シリーズの方が先行していた。東洋水産にとっては捲土重来という位置づけだ。
かやくはシンプルにキャベツのみ。青のりや紅生姜などのふりかけも付いていない。サンヨー食品・元副社長の井田信夫が語った《ヤキソバはキャベツ》という言葉を思い出す。
そういえばサンヨー元社長の井田毅も、エースコック元社長の村岡寛に《消費者はカップ麺に具材は期待していない》とかつて語っていたらしい(『産経新聞』2020年9月30日、12頁)。キャベツだけというのは、あれこれ付けるよりも商品の完成度をかえって高めているのかもしれない。
こうしてみると、売れ筋のカップ焼きそばが持つ訴求力のエッセンスを抽出して、ひとつのカップに集約させたかのような製品だ。なくても困らない要素をバッサリと全て削ぎ落とし、麺の量とからしマヨネーズで商品を特徴づけている。
現在販売されている商品を実際に食べてみると、もちっとした中細麺にスパイスと果実の風味を感じるまろやかなソースが絡み、からしマヨネーズで全体を引き締めている。そんな印象を受ける。具のキャベツはわずかで麺の量がかなり多いが、最後まで食べ飽きず、満足度が高い。

オープン価格という条件下で原価を抑えつつ、ギリギリできる限りのクォリティに仕上げたのだろう。開発者の苦労が偲ばれる。もちろん原価をなるべく下げるため、宣伝広告は一切行われていない。
〈ごつ盛り〉シリーズは発売直後から急激に売上げが伸び……なんてこともなく、地道な販売促進により陳列棚の一角に積み上げられ、淡々とコンスタントに売れ続けた。
〈マルちゃん ごつ盛り ソース焼そば〉に大きな動きがあったのは、2015(平成27)年のことだ。
2014(平成26)年の年末に、〈ペヤング ソースやきそば〉の異物混入事件が発生した。まるか商品は全商品を自主回収すると同時に、全工場を停止。販売再開する2015年6月まで、半年もの間〈ペヤング〉が店頭から姿を消した。
その間に、〈ごつ盛り ソース焼そば〉は大きく売上げを伸ばした。『食品新聞』2015年7月31日号では、同年上半期のカップ麺市場について、次のように報じている。
〈異彩を放っているのが名立たる定番ロングセラーブランドを押しのけトップ10入りした「ごつ盛り ソース焼そば」(東洋水産)。〔中略〕

発売当初からNB並みの品質価値を持つ商品として高い評価を得ていたが、〔中略〕定番「ペヤングソースやきそば」(まるか食品)の不在もあり、一気にシェアを拡大、トップ10入りした。

カップ焼そば市場は、これまで「日清焼そばU.F.O.」(日清食品)、「一平ちゃん夜店の焼そば」(明星食品)と「ペヤングソースやきそば」が上位を占めてきたが、今回のデータでは「ごつ盛り ソース焼そば」が「一平ちゃん夜店の焼そば」に肉薄している。(2頁)〉
《NB並みの品質価値》の「NB」は「ナショナル・ブランド」の頭文字で、「PB」=「プライベート・ブランド」の対義語だ。ここでは“標準価格帯の商品”という意味合いで使われている。つまり発売当初から〈ごつ盛り ソース焼そば〉の評価が高かったことが、この記事から読み取れる。
2015年7月に〈ペヤング〉が販売再開した後も、〈ごつ盛り ソース焼そば〉の売上げは下がらなかった。2018(平成30)年9月28日付の『日本食糧新聞』に、同年1月から8月までのカップ麺ランキングが掲載されている(8頁)。そのランキングからカップ焼きそばを拾い読むと、〈ごつ盛り ソース焼そば〉は〈U.F.O.〉〈一平ちゃん〉に続く3位の座を維持していた。
さらに2020(令和2)年の世界的な新型コロナ禍、2022(令和4)年のロシアによるウクライナ侵攻で、小麦粉や石油価格、人件費が急騰した。原価の高騰を受けて各社の即席麺が段階的に値上げを繰り返す一方、オープン価格の〈ごつ盛り ソース焼そば〉は相対的に割安感が高まり、さらに売上げを伸ばした。
標準価格帯とオープン価格帯は、実際にどの程度の価格差があるのか? それについてはオンラインDB「日経テレコン」の、POS情報を使ったランキングである程度確認できる。たとえば主要なカップ焼きそばの2023年の実売価格をまとめたのが下の表だ。
このデータによるとオープン価格帯の〈ごつ盛り〉は、標準価格帯の商品に比べて、実売価格が20~30円ほど安いことがわかる。しかも〈ごつ盛り〉の麺量は、通常商品の1.5倍だ。消費者が割安だと十分に実感できる価格差といえるだろう。
その割安感が奏功したのか、2023(令和5)年には「日経POSセレクション売上No.1」で、〈ごつ盛り ソース焼そば〉が、あの〈日清焼そばU.F.O.〉を抑え、即席カップ焼きそば部門で「売上げNo.1」の称号を獲得した。
1年間のPOS情報を元に各ジャンルで最も売れた商品を顕彰する賞で、長らく首位を占めてきた〈U.F.O.〉に土をつけたのだ。
その後も現在に至るまで、〈U.F.O.〉と〈ごつ盛り ソース焼そば〉は、カップ焼きそばジャンルで単品での売上げ首位の座をめぐり、一進一退の攻防を続けている。ただし、そのことを知っている消費者は、ほとんどいない。
オープン価格帯の〈ごつ盛り ソース焼そば〉はコンビニで売られていない。それだけでなく東洋水産の〈マルちゃん〉ブランドのカップ焼きそば自体、──北海道〈やきそば弁当〉と東北・信越〈バゴォーン〉は例外として――コンビニで見かけることはまずない。
大手コンビニのカップ焼きそばコーナーは陳列スペースが限られており、品揃えはどうしてもロングセラーの定番商品が主体になる。全国的には〈U.F.O.〉〈ペヤング〉〈一平ちゃん〉の3銘柄と、その大判が基本形だ。あとは各メーカーのスポット商品数品が入れ替わる。〈マルちゃん〉ブランドのカップ焼きそばは、時折そこに混ざるくらいでしかない。
ただ〈マルちゃん〉ブランドはなくても、東洋水産のカップ焼きそばは存在している。実はセブンイレブンとファミリーマートのプライベート・ブランド(以下、PB)、「セブンプレミアム」や「ファミマル」のカップ焼きそばを、東洋水産が製造しているのだ。
コンビニの陳列棚は、どのジャンルでも激しいシェア争いが行われている。その戦場に標準価格帯のナショナル・ブランド(以下、NB)で新規参入し、先行するロングセラー・定番商品と直接対峙するのはどう考えても分が悪い。一方、PBの供給を受託した場合、発注を受けて製造した分は返品されないため、確実な売上げにつながる。また先行する競合他社のコンビニでのシェア拡大にブレーキをかける効果もある。
ノウハウの流出や自社NBとの競合、あるいはジャンル自体の平均販売価格の低下を招くなど、PBの受注生産はマイナス面が注目されがちだ。そのため余り有名ではないメーカーが請け負う事が多い。しかしメリットがデメリットを上回るケースもある。カップ焼きそば市場における東洋水産の場合は、メリットの方が大きいという経営判断があったのだろう。ちなみに大手では、明星食品もPBのカップ焼きそば製造を何社か受託している。
東洋水産はセブンイレブンとファミリーマートだけでなく、流通系PBのカップ焼きそばもいくつか製造している。
正確な数字を追うのは不可能だろうが、〈やきそば弁当〉〈バゴォーン〉〈ごつ盛り〉などのNB商品だけでなく、それらPB商品群も含めて考えた場合、もしかしたらカップ焼きそば市場での総生産量・総売上高のシェアは、東洋水産が業界トップかもしれない。
カップ焼きそばのシェアが話題に上がると、〈U.F.O.〉〈ペヤング〉〈一平ちゃん〉に注目が集まりがちだ。東洋水産=〈マルちゃん〉ブランドのカップ焼きそばについては、北海道や東北・信越など地域限定での人気の高さにのみ触れて終わることが多い。しかし実態を掘り下げてみると、東洋水産はオープン価格帯や各社PBの製造など、消費者の目に止まりにくい販路を通じて、想像以上にカップ焼きそば市場のパイを確保していることがわかる。
(塩崎 省吾/Webオリジナル(外部転載))

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。