「私たちが管理人なの?」「本当に迷惑」 “民泊トラブル”相次いでも営業可能なワケ…弁護士「何も利益を得ていない住民に社会的コストを押し付け」制度の限界を指摘

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民泊を利用する客の騒音やゴミのポイ捨て、不法侵入など、様々な迷惑行為に住民らは頭を抱えている。
【映像】カメラが捉えた“迷惑行為”の決定的瞬間
そんな民泊トラブルについて住民が一番困っているのは、「どこに相談しても解決しないこと」だという。民泊関連の法律だけでは、事業者に対応を強制することはできないからだ。ニュース番組『わたしとニュース』では、弁護士の三輪記子氏とともに法制度の落とし穴について考えた。
騒音などの苦情が相次いだ千葉県一宮町では、2023年に迷惑防止条例を制定した。しかし、地元住民は「全然機能していないですね。警察が来ても注意だけして帰っちゃうので。帰ったあとはまたすぐ騒いで。その繰り返し」と嘆く。
条例では命令に従わなかった場合、氏名などを公表するとしているが、町によるとこれまでに一度もそうした事例はないそうだ。一宮町役場によると、その理由は「利用者はその場限り(毎回変わるので)。指導までいかない」ためだという。
では、利用者を管理する事業者の責任を問うことはできないのか。「事業者は(民泊予約の)サイトなどで利用者に注意喚起しており、町として指導する案件はない」(一宮町役場)
町は住民からの苦情を事業者にも伝えているとしているが、中にはそもそも連絡がつかないケースもあったという。どこに相談しても同じことが繰り返される日々に、住民は不満を募らせている。
「町の無秩序な観光客誘致。その結果、我々住民が犠牲の上で成り立つ観光施設ができてしまった」(地元住民)
一宮町は、管理者の常駐を努力義務とする改正案を提出し、9日に可決された。
そして、千葉県の別の地域でも、同様に迷惑行為が解決しない事態が発生しているという。
「市とか保健所の対応に非常に困っています。どこに言っても助けてくれない。保健所としては『指導権限がない』と」(千葉・某市、民泊施設の周辺住民)
その理由を管轄の保健所に聞くと「(旅館業法に基づく民泊なので)旅館業法に基づく衛生面を中心とした指導しかできない。事業者に対しては、苦情は伝えている。対応を強制することはできない」との回答だった。
この民泊施設に管理人は常駐していないため、迷惑行為が発生した場合、警察などへの通報は近隣住民が行うしかない。「半ば『私たちが管理人なの?』みたいな。都度通報したり、夜遅かったり朝早かったり、本当に迷惑しています」(千葉・某市、民泊施設の周辺住民)
海外から来た客の中には、隣地への侵入が違法であるとの認識が乏しい人もいたという。
「住宅街に管理人が誰もいないのに、そうやって海外の人を泊めるとか、もう根本的に無理なんだと思います。制度的に」(千葉・某市、民泊施設の周辺住民)
解決が困難な理由を、厚労省(旅館業法)と観光庁(民泊新法)に聞いた。
厚労省は「旅館業法では宿泊者の不法侵入・騒音・ゴミ等のトラブルには対応できない」としている。また、客による迷惑行為が相次いでも施設が営業できる理由については、「旅館業法上の欠格条項(精神の不調・反社会的勢力等)に該当しない限り、基本的に営業は許可される」からだという。
一方、民泊新法やそのガイドラインでは、事業者に「周辺住民の苦情や問合せに適切かつ迅速に対応すること」や、「場合によっては宿泊者に退室促す等の措置を取ること」が求められている。
では、なぜトラブルは相次ぐのか。観光庁にこの規定について聞くと、状況が改善しない場合は事業者に行政処分もありうるとしたうえで、「実際は自治体から『証拠を集めるのが難しい』という声が上がっている」との回答が返ってきた。
三輪氏は罰則規定がないことを課題としてあげる。「(法では)事業者に対応義務が謳われているものの、罰則がない。罰則がなければ対応しない事業者というのは出てきてしまう」
法のはざまに落ちた民泊トラブル。事業者が対応しない場合、その対応は周辺住民が担うしかない状況だ。三輪氏はそのコスト負担の問題を指摘した。
「防犯カメラで迷惑行為を記録することなどは、本来的には事業者・管理人がやるべきこと。しかし、住民は何の利益もないのに自分たちの生活を守るためにやらざるを得ない。法制度や仕組みが不合理なまま定着してしまっているという良くない形だ」
「近隣の方にとっては“毎日”のこと。近隣の方の毎日の生活に影響が出てまで、誰かの経済的利益になるようなことを社会として推進しなければいけないのか?ということだと思う。社会的なコストを、何も利益を得ていない住民の方に押し付けているような結果になっているのだとしたら、やはり立法措置は必要なのではないか」
都内自治体を中心に、対応強化の動きも出てきている。東京・豊島区では、民泊を営業できる期間や区域をより制限した改正条例を12月15日に施行。東京・新宿区では、報告義務違反による業務停止命令を複数の事業者に出しており、4日には、その停止命令期間中に営業を続けた事業者に廃止命令を出すなど厳しい対応を行っている。
こうした状況を踏まえ、三輪氏は「地域の実情に応じた規制ができるという意味では、条例は良いと思うが、法律に基づく行政としては、法的根拠があった方が自治体の方も動きやすいだろう。」と述べた。
「自治体ごとに対応が異なることも問題だ。余裕のある自治体の規制と、そうでない自治体の規制が異なる。しかし、住民の生活は、本来的にはどこに住んでいても安心して暮らせるというのがあるべき姿」(三輪氏)
民泊トラブル対応を巡っては、自治体の担当者からも国に対する苦言が聞かれた。「国が観光振興の目的で作った制度だが、しわ寄せが地域に来ている。実態を把握して法律(民泊新法)のつくりを軌道修正する必要があるのでは」(都内の某自治体)、「届出や許可を制限できないと起こるべくして起こる」(千葉・一宮町)
現状について観光庁は「自治体が対応できていないことも重々把握している。国としても自治体と相談しながら何ができるか検討していく」と回答。ただ、迷惑行為や行政処分の数など、実態把握につながる統計は現在取れておらず「まとめていかなければならず、整理している状況」だという。
三輪氏は「市民の生活を守るために国が何をするかというところに来ていると思うので、国としては自治体からの声もちゃんと聞いて立法につなげてほしい」との見方を示した。
(『わたしとニュース』より)

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