なぜ、妻は『凶暴化』したのか…「手が付けられない」「年々ひどくなってる」60代夫が悩まされる“DV妻”が誕生した経緯

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〈「妻が、暴れるんです」怒鳴る、叩く“凶暴すぎる妻”から逃げ、夫は真冬の公園で寝たことも…『60代夫婦』の歪すぎる関係〉から続く
「妻が、暴れるんです」「その辺にあるものを手あたり次第に投げたり。私につかみかかってくる時もあります。両腕をつかまれて揺さぶられたり……」
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64歳の達夫さんは、62歳の妻・百合子さんの暴れっぷりに困ってカウンセリングを訪問した。時には包丁を持ち出すこともあると言い、真冬にもかかわらず耐えかねて公園に逃げて寝泊まりしたこともあるという。「本当に、穏やかな日々だけが望みなんです」という達夫さんの望みが叶う日は、来るのか。
年間に20万件弱も発生している「離婚」。夫婦の衝突や、それぞれの抱える葛藤の行きつく果てといえるが、その前段階でお互いのことを理解し合えれば「壊れかけた夫婦」は再生できる。長年、多くの夫婦と向き合ってきたカウンセラー・山脇由貴子氏による新著『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』から、一部抜粋してお届けする。なお、プライバシーへの配慮から本文中の名前は全て仮名。(全2回の2回目/前回を読む)
凶暴すぎるDV妻は、いかにして生まれたのか 画像はイメージ siro46/イメージマート
◆◆◆
まずは達夫さんの生い立ちです。達夫さんは地方出身。小学生の時に父親が亡くなり、兄弟4人を母が1人で育てたそう。そのため、子どもの頃から家事をやるのは当然だったとの事。経済的にも厳しく、食べる物に困る事もあったので、食事はとにかく「食べられればいい」。
高校は夜間へ、日中は働いて家計を助けていました。大学にも行きたかったけれど断念し、単身上京して就職。実家に仕送りもしていた為、食べるのがやっとの生活だったそう。百合子さんとは職場で出会い結婚。当時職場結婚は許されず、ただ、達夫さんの収入だけでは生活が厳しかった為、百合子さんは転職し、共働きで結婚生活がスタートしたそうです。
「2人とも働いていたので、経済的にはぐっと楽になりましたね。今考えるとあの当時が一番余裕があった気がします」
「2人目が生まれてからは明らかにイライラする日が増えました」
さらに、達夫さん夫婦は、下の娘が小学校高学年の時に一戸建てを購入しました。
「無理に組んだローンなのは2人共分かっていたのですが、どうしても家が欲しくて」
けれど不運が2人を襲います。
「妻が職場でいじめにあって。辞めざるを得なくなったんです」
長女は高校生、次女は中学に上がった時だったそうです。経済的にはさらに困窮。百合子さんは慢性的にイライラしており、料理も次女にやらせ、ほとんどの家事をしなくなったそうです。
「あまりにイライラしているので妻には何も言えなくなりました。娘への暴力を止めようとするとエスカレートするので、何もできなかったです」
言いなりになるしかない。達夫さんは学んでしまったのです。DV被害に遭い続けた妻たちも、同じように学びます。
達夫さんの心理テスト結果からは、強い喪失不安が認められました。早くに父親を亡くしたことで、悪い事が起こる予感を慢性的に抱いている傾向も認められました。現在に安心感が持てないままなので、とにかく自分が耐えるしかないと考えていたのです。また、諍いを極端に嫌う傾向があり、穏やかに暮らしたい願望が強く認められました。
結果を達夫さんに伝えると、
「そうなんです。本当に、穏やかな日々だけが望みなんです」と達夫さんは深く頷きました。

百合子さんは、母親がかなり過干渉で、百合子さん自身も叩かれて育った事が分かりました。勉強にもとても厳しかったそうです。達夫さんと結婚するまでは実家暮らし。結婚してようやく自由になれたと感じたそうです。
ただ、子育てにはすごく苦労した、とのこと。達夫さんの話と一致します。百合子さんの家事、特に片付けの苦手さは達夫さんの話からも気になっていました。ですが、百合子さんは普通高校を出ており、学校での勉強は出来たそうですし、学校から「集団適応が悪い」といった指摘もなかったとのこと。発達障害の可能性は低いと考えた所で、私は達夫さんの言っていた事を思い出して百合子さんに尋ねました。
「そういえば百合子さん、茶道をやってらっしゃるとか」
「ええ」
百合子さんは頷きます。
「それで、着物をたくさん持っていて、その片付けだけはご自身でやっている、と達夫さんからうかがったのですが」
「はい」百合子さんは頷きます。
「高価なものですし、手入れも大変ですけど、着物だけは主人には任せられないので」
大事な物は自分できちんと片付けられる。だとすると、発達障害の可能性は否定していいでしょう。
「それ以外の片付けは苦手なんですね?」
私が尋ねると百合子さんは答えます。
「どれだけ夫が協力的でも、思っていた以上に仕事と家事育児の両立が大変で。私、不器用な方なので。それに職場のいじめで、イライラが余計にひどくなってしまって」
今で言えばひどいパワハラに遭っていたけれど、住宅ローンもあるので我慢していたそうです。
百合子さんの心理テスト結果から、深刻な心の傷が残っている事が分かりました。職場のいじめによるトラウマです。ただ、母親の過干渉の影響もあって、人からどう見られるかを過剰に気にするので、外では本音が言えず、弱音も吐けず、かなりの疲労を抱える傾向もありました。
外で本音を言えない、人の顔色を窺って我慢してしまう事による疲れが、帰宅後にイライラとなって表出し、それが達夫さんや娘さんに向けられていたと考えられます。ですが、達夫さんに対する愛情はあり、唯一無二の依存対象となっている事も分かりました。
夫婦の照らし合わせで2人のテスト結果を説明した後、私は言いました。
「百合子さんにはトラウマの解消が必要です。トラウマの治療に一番重要なのは、実は『治療環境』なんです。それは、傷つけられたり、悲しんだりする事なく、怖い事、嫌な事が起こらない日常を実感する事です」
「治療環境……」
耳慣れない言葉に2人はちょっと戸惑っていました。
「難しい事ではないですよ。つまりは、穏やかな日々を過ごすって事ですから」
「それで良くなるんですか?」
達夫さんの質問に私は頷いて答えました。
「穏やかな日々は達夫さんも望まれているので、お2人にとって必要なものは一致している、ということです」
「私のイライラは、おさまるんですか?」
百合子さんの質問に私は答えました。
「ご自分の心の中で、達夫さんへの見方を変える事が必要です。達夫さんは百合子さんを傷つけた職場の人ではありません。百合子さんを傷つけたり、悲しませたりする人ではなく、百合子さんの期待に応えよう、望みをかなえてあげよう、力になりたいと思っている人です。改めて、達夫さんがやってくれている事に注目してみて下さい」
「やってくれている事……」
百合子さんがつぶやいたので、私は続けました。
「たくさんあるんじゃないですか? 掃除してくれたり、洗濯してくれたり」
百合子さんは頷きます。
「はい。よくやってくれる方だと思います。でも、もうずっとなので当たり前になってしまって」
「達夫さんは百合子さんの為に、とても頑張ってくれていると思います。その事に改めて『助かるな』『ありがたいな』という気持ちは持って下さい」
百合子さんは小さく頷きましたが、「出来るかな」とつぶやいたので、私は付け加えました。
「カウンセリングで気づいた事は、その後、ご自身の中で繰り返し、繰り返し思い起こす事が大切なんです」
(山脇 由貴子/Webオリジナル(外部転載))

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