大分182棟全焼でも「賠償ゼロ」の衝撃…弁護士が明かす「もらい火」賠償責任の残酷なリアル

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11月18日に大分県佐賀関で起こった大規模火災。飛び火した離島の火も消し止められたとして、12月4日、発生から17日目に火災全体が鎮火したと、災害対策本部から発表された。
この火事で焼け落ちた家は182棟。消失範囲は約4万9000屬傍擇屐1人の死亡が確認され、原因は民家からの出火だろうとされているが、現在調査中だ。
大分県の火災ほど大規模でなくても、隣家からのもらい火で被害を受けることはある。この場合、火元に賠償責任は問えるのか?
「賠償を受けられるのは、火元に故意や重大な過失があると認められた場合だけと、失火責任法に定められています」
こう言うのは、虎ノ門桜法律事務所代表で、数多くの火災での損害賠償問題を手がけた伊澤大輔弁護士。
“重過失(重大な過失)”とは、「通常の注意を払えば容易に結果を防ぐことができたのに、漫然とこれを見過ごした」こと。たとえば、石油ストーブに火をつけたまま給油するなどの危険行為、あるいは深酒などで意識が朦朧としながら寝たばこをした場合が、それにあたる。
天ぷらを揚げている途中で鍋から離れ、それが元で火事になってしまった場合も重過失になるのだろうか。
「火災発生の条件はケースによって、すべて異なり、一定の行為が一律に重過失となるわけではありません。ケースバイケースですが、一般家庭の場合、火の消し忘れ程度で重過失を問われることは、ほとんどありません。一般家庭が重過失を問われることは、非常に稀だと思います」
伊澤弁護士自身、一般家庭へ重過失を問う案件は、ほとんど扱ったことがないという。
「近隣からの出火で被害を受けて、弁護士に相談しても、賠償責任を問うのは難しいだろうと言われると思います」
重過失を問われることが多いのは、業務で火を扱う仕事をしている飲食店が火元となったケース。
「飲食店が施設賠償責任保険に加入していれば、保険会社から賠償金(保険金)が支払われることがありますが、その場合も重過失があるかどうか争われることになります。訴訟を経ないと賠償は得られないケースが多いでしょう」
’16年の年末に新潟県糸魚川市で大規模火災があった。建物の焼損数は147棟。うち120棟が全焼した。原因はラーメン店のコンロの消し忘れとされている。
「この場合は、損害賠償請求が法的に認められる可能性が高いと思います。けれど、実際に賠償されたかどうかはわかりません。仮に施設損害賠償責任保険に加入していたとしても、支払われる保険金は一般的に1億円程度。
とても全戸に支払うことはできないでしょう。法的に賠償責任が認められたとしても、加害者に資力がなければ払ってもらうことはできません」
大規模火災ではなく、延焼が2~3棟ならどうか。
「たとえ賠償責任が認められても、それで家を建て直すことはできないでしょう。損害賠償される家の価値は時価額で決められます。築年数が古ければ、それなりの金額しか支払われないでしょう」
飲食店の重過失だと認められなければ賠償金は支払われない。その支払いも裁判や調停を経てから。しかも、家を建て直せるほどの金額ではない。いったいどうしたらいいのだろう。
「火災などで家屋が大きな損害を受けた場合、新築に建て替えられる“再調達価額”補償の火災保険に自ら入っておくことです。そうすれば、築年数に関係なく、新しく家を建てることができます」
火災保険に入っていることは重要だ。近隣の火災の影響で、たとえ焼けなくても水浸しになれば補償してもらえる。これは一戸建てもマンションも同じだ。住宅ローンを組んで分譲マンションを購入する場合、火災保険に加入することが条件になっている。この火災保険がカバーするのは、専有部分だ。エレベーター、廊下などの共用部分はマンションの管理組合が加入している火災保険でカバーされる。
糸魚川市の大規模火災では、日本損害保険協会の調べによると、67件に対して12億円近くの保険金が支払われたという。ということは、147棟のうち80件は保険を請求しなかったということか。12億円も支払われたと聞くと驚くが、1件あたりに換算すれば2000万円弱。家を建て直すには心細い金額だ。再調達価額補償をつけておけば、万一のときも安心だが、再調達価額を補償しない場合と比べて保険料が4~5倍になることもある。
「賠償金はほとんどあてにならない。生活を再建するためには保険に頼るしかありませんが、保険料との兼ね合いもあるでしょう。私自身は命さえ助かれば、なんとかなると思っているので、自宅にかけている火災保険の補償額はほどほどです」
いちばんいいのは火事に遭わないことなのだが……。
取材・文:中川いづみ

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