高市早苗首相による国会での「台湾有事」答弁は各方面に波紋を広げた。26年にわたって自民党と共に連立を組んでいた公明党と支持母体の創価学会も例外ではなく、「連立離脱」がなければ存在感をアピールできたのにと悔しがる声があがっているという。
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高市氏は11月7日の衆院予算委員会で、中国による台湾の海上封鎖が発生した場合、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」と答弁。台湾で有事が起きれば日本が集団的自衛権(他国の防衛のために武力を行使すること)を行使できうる状況になる可能性があると認めたことになる。
これまでの政府答弁は「個別具体的な状況に即し情報を総合して判断することとなる」といったもので、台湾有事が存立危機事態に該当するかの判断については明確にせず、”曖昧路線戦略”を取ってきた。今回もあくまでも可能性について言及しただけ、というのが政府側の見解であり、それ自体、本来問題はないはずなのだが、中国はそう受け止めなかった。
その後、中国の大きな反発が起こり、それは今もなお継続・拡大して米中首脳電話会談の主要テーマにあがるくらいに発展し、問題の長期化は不可避とされている。
一連の事態については公明と創価学会も憂慮してきたという。
「連立を離脱していなければ、より主体的に中国共産党との独自のパイプを生かして、日中双方のブレーキ役となって事態を沈静化できたはずだとの思いがあるようです。こんなことになるなら与党にいたほうがよかった、というわけではないでしょうが、自分たちの力を一番発揮できる機会を失いかねないという危機感があったのは間違いありません」
と、政治部デスク。
結局、公明は行動に出た。斉藤鉄夫代表は「台湾有事は日本が集団的自衛権を行使できる存立危機事態になり得る」とした高市氏の国会答弁について質問主意書を出した。これに対し政府は、従来の政府見解を完全に維持している旨の答弁書を閣議決定した。
斉藤氏は満足げに「存立危機事態の政府の見解が変わっていないことを確かめられた」と語っていた。公明としては野党という立場ながら、かつてのパートナーに助け舟を出した、という自負のような気持ちがあるのだろう。
斉藤氏は26日の党首討論でも与えられた6分すべてを「非核三原則」の質問に費やした。高市氏はこれまで明らかにしてきたように三原則の一部例外の容認を持論としているため、それにくぎを差す狙いがあったようだ。これもまた助け舟の一環と見ることができる。
「斉藤氏は中国側に、安全保障に関する日本政府の見解やスタンスは全く変わっていない旨をアピールしたいと言っていますから、実際そのようにするのでしょう。悪化する日中関係を自分たちの努力で改善できたならそのように主張するはずです」(同)
ただ、そういった動きがどれだけ組織内で評価されるのかは微妙という声が支配的だ。というのも、党を支える創価学会員にとっての関心は外交や安全保障といった大きなテーマではないからだという。
「中央と地方とで事情は違いますしね。そもそも今回の連立離脱の主たる要因は学会員の選挙疲れであって、選挙時の労多くして成果に乏しい虚しさであり、せっかく協力して当選してもカネの問題が噴出する友党・自民の体たらくであり、現場や末端の不平不満を受け止めて和らげることができない中央の能力不足でもあるわけです」(同)
連立離脱につながった学会内の悲鳴と今回の高市氏の件は完全に別の問題であることは、当然、党幹部も承知している。が、野党になったからには斉藤氏らは何らかの形で存在意義をアピールし続けなければならないということなのだろう。
デイリー新潮編集部