コンプライアンスの問題を理由に番組を降板し、活動を休止していた元TOKIOの国分太一さんが、11月26日に東京霞が関で記者会見を開きました。
報道によると、国分さんは、問題について謝罪するとともに、「どの行動がコンプライアンス違反とされたのか答え合わせもできないまま、環境変化の速さに心がついていかず」身動きができなくなったと述べ、何がコンプライアンス違反にあたっていると判断されたのか知りたいという思いを吐露しました。
国分さんの言い分については、「理由を説明する義務は日テレ側にはないのでは?」といった意見もありますが、どうなのでしょうか。簡単に説明します。
注意すべきなのは、今回のケースでは「国分さんが悪いことをしたのか」が問題となっているのではない、ということです。
問題となっているのは、国分さん側の言い分を説明する機会が十分に与えられず、また、国分さんが具体的に何をしたことを理由に番組降板となったのかが示されておらず、「適正な手続」がないのではないか、という点です。
たとえば、国が国民に対して不利益な「処分」を行う場合は、通常は、行政手続法などに基づき、理由を示すことや弁明の機会を与えることなどが必要とされます。
また、刑事手続でも、どの処罰規定に違反しているのかが本人に明確に示されたうえで、法律の定める厳格な刑事手続きを経なければ、処罰されません。
このような国対個人とか、刑事罰を科す、という場面だけでなく、たとえば一般企業の労働者に対して会社が行う懲戒処分でも、懲戒規定が存在すること、その規定自体が合理的であること、労働者の行為が懲戒事由に該当すること、懲戒権の濫用にあたらないこと、が求められています。
そのうえで、処分の対象となる労働者に対して弁明の機会(=言い分を十分に言う機会)を与えることなどの一定の手続きが求められており、そのような手続きを経ていない懲戒処分は違法や無効となる可能性があります。
国分さんは芸能人であり、日本テレビの「労働者」ではないと思われます。そこで、上のような適正な手続きは求められないようにも思えます。
しかし、特に契約当事者間に大きな力の差があるようなケースでは、理由の開示が求められるようになりつつあります。
国分さんは非常に有名な芸能人ですが、それでも出演を決定する権限を持っているテレビ局との間では大きな力の差があるといえるでしょう。
また、降板した番組『ザ!鉄腕!DASH!!』は長年にわたり放送されてきた人気番組であり、国分さんは継続的に出演してきました。
2024年(令和6年)11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)」(通称:フリーランス新法)では、一定期間以上の業務委託契約について、発注者側が契約を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合、30日前までの予告と、フリーランスから請求があった場合の理由の開示が義務付けられます(同法16条)。
今回のケースは新法の施行前の事案ですし、また国分さんが同法のフリーランスにあたるのかどうかも事情が分からないためはっきりしませんが、こういった規定が設けられた趣旨は今回のケースにもあてはまるように思われます。
ザ!鉄腕!DASH!!のような人気番組からの降板は、活動の基盤を失う重大な不利益といえます。理由も明確にせずに一方的に不利益を課すことは、特に不利益の程度が大きい今回のようなケースでは許されないのではないか、ということが問題となっています。
適正手続が必要な理由はいくつかあるのですが、もっともシンプルで分かりやすいものとしては、恣意的に不利益を課すことを避けるためです。
たとえば刑罰の場合、「警察・検察が悪いと判断したからあなたは処罰されます。理由はいえません」ということが可能になってしまえば、恣意的な処罰がいくらでもできてしまうことになります。
今回のケースでは国分さんは、複数の自らの行動に問題があったことを認めてはいます。しかし、現時点では、本当に降板相当の問題のあることをしていたのかも分かりませんし、何かしらの事実が複数あったとして、それらが本当に降板相当だったのかも、検証のしようがありません。
なお、「検証」はマスコミがする必要はなく、不利益を受ける当事者である国分さんが検証できるかどうか、という問題です。
報道によると、日本テレビ側の、降板理由を具体的に説明できない理由に関するコメントの趣旨は以下のようなものです。
1)「コンプライアンス違反行為があった」ということ以上は公にできない。
2)ヒアリングで国分氏が話した内容だけでもコンプライアンス違反に該当する。「青少年に見てもらいたい番組」に選定されている「ザ!鉄腕!DASH!!」の降板を即断せざるをえない。
3)身元の特定を防止し、二次加害を防ぐなど、関係者の保護のため国分さんが求める「答え合わせ」は難しい。
しかし、個人的な意見ではありますが、このコメントは「国分さんに具体的な違反行為について告げない理由」にはなっていないように思います。
1)について 「公に」する必要はありません。国分さんに伝えるかどうかという問題です。
2)について そうであるならば、ヒアリングの場で国分さんがこのように発言した、それが降板理由だ、と国分さん自身に示すことが可能ではないでしょうか。
3)について 被害者は国分さんに身元を特定されることをおそれている、ということになりそうです。
ただ、この被害者が国分さんの知り合いであれば、そもそもその被害者の身元を特定されるという話にはならないのではないでしょうか。
また、知り合いではあるが、未だ国分さんに知られていない特定の情報を知られたくない、ということであれば、その部分については秘匿することも可能だと思われます。
逆に知り合いでないのであれば、被害者の個人情報などについては明かさずに匿名性を保ったうえで、国分さんの心当たりのあるどの事案なのかを示せば良いように思います。
国分さんが希望している謝罪についても、被害者が国分さんをおそれているような事情があるのであれば、謝罪などは代理人を通じて行い、国分さん自身が直接被害者と関わらない形にすることも可能であるように思います。
このように考えると、少なくとも現時点で分かっている情報からは、国分さんに「どういった理由で降板となったのか」を説明する必要がない、という理由としては、十分ではないように思います。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)