「保険料は1日たったの100円」に騙されてはいけない…「保険のプロ」が警告する生命保険の営業の”常套句”

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※本稿は、藤井泰輔『正直すぎる保険の話 いる保険・いらない保険』(ぱる出版)の一部を再編集したものです。
突然ですが、みなさんは、10万円得するのと、10万円損するのとでは、どちらが精神的に大きなインパクトを感じるでしょう。コロナ禍で、国民に一律10万円が配られたとき、みなさんはどのように使いましたか。もし、それが、コロナ禍で10万円の拠出を迫られたとしたらどうでしょう。
私がシニアの人から投資に関する相談を受けたときに必ずお話しするのは、手元資金が100万円増えたときの喜びはさほどではないが、100万円失ったときの後悔は後々まで響きますよ。だから、資金は増えればいいが、減ったときのことを十分に考えて投資をしましょうと話すのです。
つまり、人はみな「得したいが、かと言って損はしたくない」と思うものなのです。
保険の場合、例えば、知り合いが病気で入院し、「医療保険から30万円支払われたので助かった」という話を聞けば、そのときに自分が保険の契約をしていなかったならば、もし病気になっても給付金が支払われないという損な目に遭いたくない。だから、保険を契約しておこうと思いがちです。
しかし、実際には、その知り合いが、30万円の給付金を手にするために、それまで100万円の保険料を支払っていたと聞いたらどうでしょう。そんなことならば、医療保険の契約をしないほうが得だと考えるのではないでしょうか。実際には、そんなことを考えもしない人が、持病があろうが何しようが、せっせと医療保険を契約しているのです。
何が言いたいか。つまり、保険を契約する(購入する)損得を十分に考えることなく、TVCMで流される「がん保険に入っていて本当に助かりました」という宣伝文句を信じ、まさかのときに支払われない損にだけ目がいってしまう。そんな判断を人はしがちだということです。
こういう話をすると「保険は損得ではない」と言う人がいると思いますが、保険も商品である以上、そこから得られる効用と、そのために支払う対価はしっかりと計算しておくべきだと私は思います。
あと、保険を売る側は、支払うべき対価である例えば月3000円の保険料を、「一日たったの100円」と宣伝します。しかし、「30年支払ってもたったの108万円です」とは決して言わないのです。108万円(3000円×12カ月×30年)の商品の購入は、普通の人にはそう簡単には決められないですから。
保険という商品を購入するのですから、その総額くらいは簡単な計算なので、やはりきちんと把握しておかなければいけないのです。
多くの人が言われると納得してしまいがちな売り口上に、「(他の)みなさん、保険に加入されていますよ」という常套句があります。
「それなら入っておこうか」なんてことになっていないでしょうか。ここで言う「みなさん」というのは、実際に全員という意味ではなく、より正確に言うと、「入っている人がいます」というくらいの意味なのです。
ですから本当は、「みなさん入ってます」「だから何」と思えばいいのです。子どもが何か悪いことをしたときに言う「みんなやってるよ」というのと同じで、日本語では、「みんな」は、「全員」という意味でも、「多くの人」という意味ですらないことがあるものです。
生命保険の世帯加入率は、最近では減り続けているものの、だいたい8割と考えていいでしょう。この8割という数字は確かに多いですが、どの年代がどのような保険に加入しているかが肝心です。
生命保険も損害保険も、「加入するかしないか」ではなく、社会保険など公的な保険が既にあることを考えると、「追加で加入するか、しないか」という表現のほうが実態には合っているでしょう。追加と考えれば、わざわざ加入する必要はないかとなるかもしれません。
何度も言っているように、加入という言葉が適切ではなく、購入に置き換えると、もっと民間保険との付き合いは少なくなるのかもしれません。
最近、サブスク(Subscription)という形態が身の回りに多く存在するようになりました。車、家具や衣服、映像配信など、ものを利用したりサービスを受けたりするために、毎月一定の金額を支払うもので、ちょうど保険契約もサブスクのようなものと考えるという手もあるかもしれません。
事故が起こったときに保険金が支払われるサービスを、保険料を支払って利用しているのです。そうすれば、保険には入りっぱなしということはなくなり、必要に応じて変更するものという意識が生まれるのではないかと思います。
それでも、本当に必要なものは購入するし、購入しておかなければなりません。だから、代理店の商売は成り立つのですから。
老人が被害者になる「オレオレ詐欺(特殊詐欺)」ではなく、日本における保険販売の世界では、若者も被害者となる「入れ入れ詐欺」が行われていると言えば言い過ぎでしょうか。
TVでCMを流したり、あらゆる方法で情報を世の中に流し続けたりすることで、消費者は、保険漬けにされていることに気付かずに、知らぬ間に「おかしなことに慣らされてしまっていて、ゆでガエルになっている」ような気がします。もちろん、売る側はそれが狙いなのですが。
生命保険の販売では、消費者との知識の違いを利用したり、相手の情に訴えたりして契約につなげるという手法がよく用いられます。
「生命保険は難しい商品だ」という世間での通説を利用して相手にそれをことさらに印象付けたり、実際に不幸な目に遭った人の事例を挙げたりすることで、相手に必要以上の危機的臨場感を意識させるなどの方法が、販売現場ではあからさまではなく行われています。
また、生保業界では、外務員の営業形態を表す言葉として、GNPというのがあります。これは、「Giri(義理)、「Ninjyo(人情)」、「Present(プレゼント)」のことで、これらを駆使して契約を取る営業スタイルが今でも行われています。
そうした状況に対して、消費者側が、保険に対する最低限の知識と、情にほだされない最低限の心の準備をしておけば、無駄な出費が抑えられることになります。
間違った保険選びで一番多いのは、自ら良く調べもせずに、売り手の言うことを鵜呑みにして、それが自分に本当に必要なのかどうかも考えずに購入という行動を起こすことです。しかし、こうした人が実に多いのです。
だから、「保険の見直し商売」は成立するし、なくならないのです。これが、「無知はコスト」となるということです。気が付いたときには、100万円単位の後悔につながることもめずらしくありません。
また、「保険は付き合いで入っている」ということを平然と言う人がいるのも保険の不思議です。つまり、情けで保険という商品を契約してしまっているということです。もちろん、付き合いで入った保険が自分にぴったりで、不意な事態に十分に備えられていたということもなくはないのですが、それは結果オーライに過ぎません。
私が保険販売の仕事を始めた頃、ほとんどの保険販売初心者がするのと同様に、前職の同僚や知り合いを頼りにして、保険の勧誘に出かけていました。勧誘というのも他の商品販売ではあまり使わない、なんとなく宗教の布教活動に似た響きです。
そんな中で、勧誘を試みたある後輩が「月1万円までならば付き合ってもいいですよ」と言ったのです。つまり、保険とはそういう商品だという認識が多くの人にあるということです。もちろん、その人にはやんわりとこちらからお断りを入れましたが、当時の私は、まともな保険を売りたいという気概を強く持っていただけに、保険販売は大変な商売なんだなということに気付かされたものです。
その当時、今から30年近く前には、養老保険や終身保険など、貯蓄性があると言われた保険がまだそれなりの積立て効果があり、付き合いで入った保険でも損することはなく、一定の役割を果たしていましたが、今それをやってしまうと、ひょっとして付き合いの保険で大損することにもなりかねません。
だから、「情けもコスト」、しかも大きなコストとなってしまうのです。
———-藤井 泰輔(ふじい・たいすけ)生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士総合保険代理店、株式会社ファイナンシャルアソシエイツ代表取締役。生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士。1954年名古屋生まれ。一橋大学商学部卒業後、三井物産、生命保険会社勤務を経て、2000年に総合保険代理店、株式会社ファイナンシャルアソシエイツを設立。不思議と不合理の日本の生保、損保業界に身を置き、代理店という立場で、常に買う側の立場に立った保険提案を心がけている。また、機会あるごとに保険をテーマとしたセミナーの講師を務め、さらに新聞、雑誌などへの寄稿を通して、正しい保険の活用法を説いている。著書は『どんな家庭でも 生命保険料は月5000円だけ』(かんき出版刊)ほか多数ある。———-
(生保協会認定FP、DCプランナー、宅地建物取引士 藤井 泰輔)

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