「夫は体の原型がわからなくなるまで食い荒らされていた」空腹のヒグマが喰った夫、赤ん坊、雇い人…「異常に膨らんだ熊の胃から発見された内容物」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

全国各地で熊による襲撃事件が相次ぎ、多くの犠牲者が出ている。11月7日朝、山形県米沢市の温泉旅館に熊による”立てこもり”が発生。特に市街地で熊が出没するケースが増加し、秋田県の鈴木健太知事は10月28日、小泉進次郎防衛相に面会し熊対策支援のために防衛省に自衛隊派遣を要請。11月5日には陸上自衛隊が秋田入りした。
【写真】線路に寝ていた子グマが、数時間後に轢かれた後の様子。その他、「頭にホッチキス30針」クマに襲われた男性の生々しい傷跡も
自衛隊は箱ワナを輸送するなどといった支援活動を主に担うが、銃による熊の駆除も行うのではないかと勘違いした人から自治体に”苦情”が入ってもいるという。はたして熊と人間はどう向き合っていくべきなのか──。
いま大きな問題となっているのは、山間部でひっそりと暮らす熊ではなく、住宅地や市街地まで降りてきて人間を襲う熊だ。そういった熊たちは人間を”エサ”とみなし、容赦なく襲いかかってくる。実は過去にも日本国内では「人喰い熊」による事件が発生している。
なかでも特に凄惨だったと語り継がれているのが、明治時代に北海道で発生した「札幌丘珠(おかだま)事件」だ。
その全貌を別冊宝島編集部編『アーバン熊の脅威』から、一部抜粋・再構成して紹介する。
* * *
発生年月日:1878年1月11~18日発生場所:北海道石狩国札幌郡札幌村大字丘珠村(現・札幌市東区丘珠町)犠牲者数:死者3名、重傷者2名熊種:ヒグマ
札幌市民の憩いの場として知られる円山公園がある円山。標高225メートルで、その大部分は今でも原生林で覆われ、北海道開拓が本格化する前にはヒグマの棲みかでもあった。
1878年1月11日、その円山で札幌在住の猟師が冬眠中のヒグマを見つけた。当時道民にとって熊肉は貴重な栄養源であり、冬眠中は脂肪ものっているためとくに美味とされていた。毛皮なども高値で売れることから猟師は喜び勇んで銃を構えたが一発で仕留めることができず、目覚めた熊の逆襲を受けて殺されてしまう。
突然眠りを妨げられた手負いの熊は、冬眠中で空腹だったことも手伝って暴走状態に突入。餌を探して札幌市街の全域を駆けずり回った。
まだ北海道開拓の初期だったとはいえ、札幌市の中心部には3000人ほどが住んでいた。狂暴な熊を放置するわけにもいかず、1月17日には札幌警察による駆除隊が編成される。
駆除隊によって熊はほどなく発見されたが、市街を中心に逃げ回り、折悪く猛吹雪となり足跡が消えたことで見失ってしまった。
熊は森林地帯へと向かったが、冬の森に空腹を満たす餌はない。さまよう熊は深夜になって、丘珠村へたどり着いた。当時の丘珠村は、山中で木炭づくりを営む数百人が住む小さな集落で、熊はそのなかの一軒の小屋に目をつける。
小屋は木と藁でつくられた簡素なもので侵入するのはたやすい。異変を察知した家主は入口へ向かうが、戸を開けた瞬間に熊の一撃を受けて昏倒してしまう。
家主の妻は生まれたばかりの息子を抱いてなんとか小屋の外へ逃げ出したものの、頭皮が剥がれるほどの一撃を後頭部に受けて、息子を雪の中に落としてしまう。それでも命からがら逃げ続け、近くに住む雇い人に助けを求めて2人で小屋へ戻った。
だが、すでにその時、熊は雪の中に投げ出してしまった息子に喰らいついているところだった。さらに助けにやってきた別の雇い人も返り討ちに遭い、自身も重傷を負っている妻はその惨事を呆然と見ていることしかできなかった。
夜が明けて熊が去ったあと、小屋へ戻ると、夫である家主の体は原型がわからなくなるまで喰い荒らされていた。
熊は18日の昼頃になって、事件現場近くで駆除隊に発見され、射殺される。死骸は札幌農学校(現・北海道大学)に運ばれ、教授の指導のもと学生たちが解剖することになった。
異常に膨らんだ熊の胃を、学生の一人がメスで切り開くと、消化された内容物とともに人間の髪の毛や赤ん坊の両手と頭巾、歯形のついた大人の腕などが流れ出た。
胃の切開を行う前の休憩時間、一部の学生たちはこっそり熊の肉片を切り出して用務員室の炭火で焼いて食べていた。しかし、胃の内容物を見るや急いで解剖室から駆け出し、喉に指を入れて熊の肉を吐き出したという。
なおこの時の胃の内容物はすべてホルマリン漬けにされている。また熊の死骸も剥製にされ、現在も北海道大学付属植物園に保管されている(現在一般公開はされていない)。
事件の翌年に北海道を訪問した明治天皇はこの人喰い熊の剥製を天覧しており、それが報じられることによって、札幌丘珠事件は世に広く知られることになった。
取材・文/早川満

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。