〈《林芳正総務相は「問題ない支出」と弁明》週刊文春が報じた“公選法違反”疑惑とは? 架空の「ポスター監視代」を支払い…スタッフ「監視なんて、しとらんよ」〉から続く
「週刊文春」が報じた「林芳正総務相の『運動員買収』を告発する」記事について11月7日の記者会見で説明を行った林芳正総務大臣(64)。林氏は記事の事実関係を問う記者の質問にこう回答している。
【画像】林芳正総務相の収支報告書に不可解な点が…
「選挙運動用ポスターを貼付したり、毀損した場合の貼り替えなど機械的労務であり、そのことを選対事務局から事前に説明をした上で労賃をお支払いしているところでございまして、公職選挙法上問題のない支出であると認識しております」
果たして本当にそうなのか。記事ではどのような内容が報じられたのか。現在配信中の「週刊文春 電子版」および発売中の「週刊文春」より一部を抜粋してお届けする。
10月21日、深夜に首相官邸の大階段で行われた記念撮影で高市早苗首相の右手に控えたのが、自らも総裁選に立候補し落選した林芳正・新総務相(64)だ。
岸田・石破内閣で官房長官を務めた林氏。総裁選は3度目の挑戦だった。
「1回目の投票で議員票では高市氏を上回って小泉進次郎氏に次ぐ2位につけ、存在感を示した。他方、党員票で1位をとったのは山梨、山口など6県のみ。全国での浸透具合に危機感を抱いたのか、今回は『地方を回れる』ポジションを希望し、総務大臣の座に落ち着いた」(政治部デスク)
地方行政や郵便、通信、統計など幅広い業務を所管する総務省。政治資金規正法や公職選挙法など、「政治とカネ」に関する制度も管轄する立場だ。
「週刊文春」は林氏の選挙を巡る記録を丹念に追った。すると浮かび上がってきたのは、大規模な「金配り」の実態だった。
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2024年10月15日。この日公示された第50回衆院選は、林氏にとって重要な意味を持つ一戦だった。
「裏金問題で自民に大逆風が吹いていただけではない。林氏にとって、同じ山口が地盤の故・安倍晋三元首相が22年に死去して以降、初めて臨んだ衆院選でした」(地元記者)
10増10減の区割り変更で、山口県内の選挙区が4から3に減少。安倍氏が地盤とした旧4区の下関市、長門市が林氏の新3区に編入され、集票力が試された。そして結果は約11万5000票を得て再選。約7割の得票率に達したのだった。
「週刊文春」は今回この昨秋の衆院選をめぐる、林氏陣営の「選挙運動費用収支報告書」を情報開示請求で入手。その内容を精査した。
まず目につくのは膨大な「労務費」だ。
「選挙運動は資金力の差が結果に影響しないように自発的、かつ無報酬で行うのが原則です。そのため、公選法上報酬の支払いができる先は極めて限定的。ウグイス嬢や手話通訳者に法定で例外的に支払い可能であるほかは、裁量性のない機械的な“単純労務”に限られる。例えば公示日のポスター貼り、ハガキの宛名書きです」(山口県選管)
この単純労務への報酬が今回の焦点になる「労務費」である。
「上限は1日1万円。ただし、単純労務以外を行っていれば、違法性が問われます。それもあって近年は労務費をむやみに支出せず、ポスター貼りなども原則通りボランティアで支援者に依頼するのが一般的です」(前出・政治部デスク)
にも関わらず、林氏の「労務費」の支出は異様な規模だ。先の総裁選候補者と比べてみると、昨年の衆院選に出馬した高市総理、小泉防衛相、茂木敏充外相は、ウグイス嬢など法定を除く労務費の支払いはゼロ円。一方、林陣営は計269人(業者1社含む)に計約316万円の労務費を支払っている。
リストによれば、支出を受けたのは主に選挙区の住民たち。1万円や5000円などと金額にばらつきがあるが、269人が従事した「労務」とは一体何か。
収支報告書添付の領収書を見ると、宛名欄には予め「林よしまさ選挙事務所 御中」とあり、その下には金額を書き込む欄があるなど、すべて同じ形式だ。但し書きには「衆議院総選挙山口3区選出議員選挙の労務費」とあり、続いて2種類の業務が記載され、携わった方に〇かをつける選択方式になっていた。
1つは、「ハガキ筆耕」(64人)、もう1つが「ポスター維持管理費」(123人※重複含む)である。ほか、〇ももつけず、内容が不明な労務費が111人分にも上っていた。
最初の「ハガキ筆耕」は、ハガキの宛名書きを指すとみられ、前述の通り労務費の支払いが可能。それにしても多いが、さらに奇妙なのはもう一方の「ポスター維持管理費」だ。労務の範疇である公示日のポスター貼りだけでなく、その「維持管理」。中には、「ポスター監視(2日間 10/18、10/25)」などと手書きで追記された領収書もあった。貼られたポスターの「監視」とはどんな業務なのか。
異様な名目で大人数に支出。しかも名目すら不明な領収書も3分の1以上という極めて不可解な状態だ。
衆院選から約1年。取材班は山口3区に赴いた。
〈この続きでは山口3区で総力取材した結果を詳報。公選法違反疑惑について取り上げた記事の全文は「週刊文春 電子版」および11月6日(木)発売の「週刊文春」で読むことができる〉
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年11月13日号)