11月9日、政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者が兵庫県警に逮捕された。今年1月に自殺した元兵庫県議の竹内英明さんに対する名誉毀損容疑だ。
立花容疑者は田久保真紀氏の学歴詐称問題で混乱している伊東市長選に出馬表明したばかりで、俄然、注目を集めていた。捜査関係者はこう語る。
「伊東市長選は12月初旬に予定されている。逮捕が遅れて選挙期間に重なれば、選挙妨害ともいわれかねないのでこのタイミングになった。
それに、立花容疑者はなんでもかんでもSNSで発信する。11月9日、大阪府堺市のコインパーキングで午前3時40分に逮捕したのは、立花容疑者にSNSでライブ配信されないように見計らったという点もある。
逮捕の模様がライブ配信されたら、SNSでアクセスが増え収入にもつながりかねず、警察が稼ぎに加担したと思われない。それに『立花は悪くない』という世論形成になったら捜査が面倒になりますからね。
名誉棄損事件ですから在宅での調べも考えられた。だが、立花容疑者は最近、ドバイに出国している。海外逃亡のおそれもありうるとして、逮捕に至った」
なぜ竹内さんは、立花容疑者の発言、SNS投稿で死に追い込まれたのか。
兵庫県の斎藤元彦知事は昨年3月、パワハラなどの内部告発を受けた。真実性の高い県職員の内部告発だったが、斎藤知事は「ウソ八百だ」と否定。その後、文書問題特別委員会(百条委員会)が設置され徹底的な究明が行われた。
その結果、斎藤知事は辞職に追い込まれ、出直し選挙で当選したのが昨年11月。その時「助っ人」として参戦したのが立花容疑者だった。
「斎藤さんを当選させたい。私には投票しないでください」と「二馬力選挙」を公言。その時、立花容疑者のターゲットの一人になったのが、百条委員会で斎藤知事追及の中心的な役割だった竹内さんだった。
県職員の内部告発について、街頭演説やSNSなどで「竹内が黒幕」と攻撃したことで、大炎上した。立花容疑者は、事前のSNSで告知した上で百条委員会の委員長を務めていた奥谷謙一県議の自宅前で演説も行った。「奥谷出てこい」。大勢の人が集まったことも心労につながったとされる。
斎藤知事が当選した翌日、竹内さんは突然、県議を辞職した。
「県議のバッジをつけていると、立花の攻撃にさらされる。中身はデマであってもウソであっても、私には家族がいるので仕方ない」
竹内さんは生前そう言っていた。竹内さんの妻・Aさんが「現代ビジネス」に心境をこう告白する。
「主人は学生時代から政治にかかわり、大人になってからはずっと忙しい人生でした。それが、突然、立花容疑者のいわれなき誹謗中傷で家に閉じこもるしかなく、精神科の病院にかかるようになったのです」
竹内さんが県議を辞しても、立花容疑者の攻撃はかわらなかった。今年1月18日、竹内さんは死を選び、この世を去った。
竹内さんはデマの炎上に「自分にはどうにもできない」「何をすればいいのか」と心労を募らせ、自宅でおびえていたという。法的措置などの手続きをとればさらに炎上すると危惧していたそうだ。
それは妻のAさんも同じで、悲嘆の中で打ちひしがれ、いわれのない誹謗中傷で呆然とする日々を送った。
そんな時、救いの手を差し伸べてくれたのが、代理人となった郷原信郎弁護士だ。竹内さんと妻、双方の大学時代の1年先輩にあたる石川知裕元衆議院議員(今年9月に病死)が刑事告訴を進言。
妻のAさんが石川氏にゆだねて今年6月に郷原氏が代理人となり、Aさんは立花氏を名誉毀損容疑で刑事告訴した。郷原氏はこう振り返る。
「立花容疑者が竹内さんを誹謗中傷している動画や投稿は、すさまじい数があった。その中でどれを特定して、告訴の対象にするのか、選別に時間を要した。中には、5時間以上の動画もあった」
とりわけ郷原氏は法律的な観点から、竹内さんの生前だけではなく死後の名誉毀損も成立するはずと考えていた。名誉毀損は、社会的評価を低下させる事実を摘示しただけでも成立する場合がある。しかし死者の場合、社会的評価を低下させる事実を摘示だけでは成立しない。公表した事実の虚偽性が成立の対象となるのだ。
そこで郷原氏は、立花容疑者が行った明らかに虚偽の発言に絞って告訴状を書き上げた。
その発言とは、以下の通りである。
1. 令和6年12月13日、泉大津市長選挙の街頭演説での発言:
「何も言わずに去っていった竹内県議はめっちゃやばいね。警察の取り調べを受けているのは間違いない。複数の人から聞いていて、彼が取り調べを受けているのは、亡くなった元県民局長の奥さんの遺書を捏造したのではないかと」
2. 同年12月14日、同じ選挙の街頭演説での発言:
「いま警察に呼ばれていますよね、だれとは言いませんが。選挙の翌日に辞めた人ですよね。説明せえよ、お前これまで税金で生活してたやろ。はっきり言います、竹内元県議会議員です」
この街頭演説で、立花容疑者は竹内さんが何らかの不正を働き、兵庫県警から捜査対象になっている、事情聴取を受けていると発言した。これは明らかに虚偽の発言だとされる。
3. 竹内さんが死亡した翌日、今年1月19日、川越市議補選の街頭演説での発言:
「竹内元県会議員、どうも明日逮捕される予定だったそうです」
「昨年の11月24日の時点では、逮捕されるのではないかという情報が入っていた。ただ最終的な証拠がそろわないので、任意の事情聴取が繰り返されていて明日逮捕する予定であったところ、本人は逮捕される前にも自ら命を絶ったのではないかと。お亡くなりになったといっても自業自得であったとしか言いようがない」
立花容疑者は刑事告訴について「シロかクロかはっきりつくので、刑事告訴は感謝している」と自信を見せていた。
死後の名誉毀損の判例はこれまでほぼなかった。郷原氏は兵庫県警、神戸地検と協議を重ねたが、両者の反応は当初芳しくなかったという。郷原氏が言う。
「判例がないものを告訴しているわけですから、ハードルが高いのも承知の上です。マスコミなどでは、とても立件は無理だとみられていたそうです。そんな中、とりわけ神戸地検の担当検事が熱心に取り組んでくれたことで、死後の名誉毀損も立件につながったと思います」
妻のAさんもこう語る。
「いわれなき誹謗中傷で、夫を亡くして、どうすることもできなかった。何か動いてもまた、立花容疑者から反論されSNSで炎上するのではないか、さらに家族にまで及ぶのではと思うと、泣き寝入りして、黙っているしかないと……。
逮捕ですので、今後のことはわかりません、捜査を見守るだけ。ただ、こんな悲しみを経験するのは私だけで十分です。二度と同じようなめにあう人がいないようにと思います」
兵庫県警は告訴状に記された立花容疑者のすべての発言について、名誉毀損に該当するとみている。窮地に追い込まれた立花容疑者は、いかなる「反撃」を準備しているのだろうか。
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