上野の仲町通り――アメ横と並ぶ人気飲み屋街は、いまや「ぼったくり通り」とも呼ばれる。キャッチによる違法客引き、薬物混入、クレカ不正使用……。そして夜が更けると現れる、中国系・ベトナム系の違法店。警察の取り締まりをすり抜け、次々と形を変える“裏の稼ぎ方”とは? 現地を取材した、花田庚彦氏のレポートを新刊『台東区 裏の歩き方』(彩図社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
【写真】この記事の写真を見る(2枚)
今、治安が悪化している「東京のある街」とは――。写真はイメージ getty
◆◆◆
上野で一大歓楽街として知られる上野仲町通り。この通りの歴史は古く、1628年に上野寛永寺の門前町として成立したという。今では多くの飲食店が立ち並び、アメ横と人気を二分する飲み屋街だ。
しかし、最近ではこの通りにダーティなイメージが定着しつつある。それが、ぼったくりや違法客引きの多発地帯であるというものだ。
仲町通りや南にある春日通りまでを含むこの地域では、キャッチによって連れていかれたバーやエステなどで、入店前に聞いた価格とは異なる巨額の請求をされるケースや、飲み物に何かしらの薬物を混ぜられ、昏睡したところでクレジットカードやキャッシュカードなどから金が引き出されるといったケースが近年相次いでいる。
消費者トラブルなどのサポートを主に行う梶山行政書士事務所の公式サイトには、こんな事例が掲載されている。
2024年3月2日、キャッチに紹介された店で酒を飲んだあと、客は意識を失った。後日、クレジットカード会社から29万円の身に覚えのない請求がきていることが発覚。さらにキャッシュカードからは現金11万円が引き出され、そのうち10万円が奪われていたこともあわせて判明したという。
こうしたことから、警視庁の公式サイトでも違法客引き出没エリアとして仲町通りや春日通りの近辺が紹介され、注意喚起がなされている。
さらに、コロナ禍以降では、ベトナム人が経営するガールズバーやクラブなどが急増し、こちらも強引な客引きや、違法薬物の蔓延が問題視されている。
2022年5月には、近辺の路上でベトナム人女性が口におしぼりが入ったまま死亡しているのが発見されたが、これも違法薬物事案だった。のちに女性の死因は、急性MDMA中毒と気道閉塞によるものと発覚。死亡した日に一緒にクラブに行った男女4人が、死亡した女性がMDMAの摂取で錯乱状態に陥ったにもかかわらず放置して死なせたとして、保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕されている。
警察もこうした状況を憂慮してか、2024年10月と2025年6月、ベトナム人が経営するガールズバーを無許可営業などの風営法違反容疑で検挙するなど、締め付けを強めている。
そんな仲町通りは果たして今、どうなっているのか――。疑問を抱いた筆者は、現地を訪れ、その状況を自分の目で確かめてみることにした。
まずは、仲町通り近辺のキャッチから話を聞くことにした。警察から目の敵にされている彼らだが、街の裏も表も知り尽くしているネタ元として、まさに理想的な取材相手である。
最初はストレートに「近辺にまだぼったくりバーはあるの?」と聞いて回ったが、彼らは一様に「ぼったくりはもうないです」と口を揃えるばかりだった。それでも、話が弾んだ何名かに粘り強く聞いてみると、そのうちのひとりがこう話した。
「まあ、今いるあたりではそういうところは本当にほぼないと思いますよ。向こう側はわからないけどね。ベトナム系や中国系のお店も、基本的にこっちよりもあっちにあるんですよ」
彼は、上野駅方面と逆の方向を指さしながらそう告げた。
この場所がぼったくりの温床になっている理由の一つに、通りの途中で警察の管轄が変わることが挙げられる。上野駅方面の約半分は台東区の上野警察署の管轄であるのに対して、逆側半分ほどは文京区の本富士(もとふじ)警察署の管轄となっている。そのためいざ事件が起きたときに、捜査が困難な“ポケット”とも言うべき状況になっているのだ。
引き続きキャッチが話すところによると……。
〈値段を誤魔化すために「わざと下手な日本語」を話すガールズバー店員も…近づいてはいけない『東京のヤバい店』はどこにある?〉へ続く
(花田 庚彦/Webオリジナル(外部転載))