全国で相次ぐ”外国人ドライバー”による交通事故。観光客らの運転が招くトラブルの増加を背景に、政府は外国の運転免許証を日本のものへ切り替える「外免切替」の厳格化に乗り出した。しかし、その規制強化の網を不正にかいくぐる動きが活発化しているという。中国事情に詳しいフリーライターの廣瀬大介氏がその実態に迫った。【前後編の前編】
【写真】文字のフォントや色彩など本物の免許証と見比べてみても違いは判別できない精巧さ 業者から送られてきた偽造免許証のサンプル
「日本に観光に行ってタクシー、電車、バスとかを使うのはダサいよ。SNSに写真を投稿する時に、やっぱり自分たちで運転してるほうが見栄えがいい。日本人は運転が荒くないし、初めて旅行する時でも運転するのにそんなにハードル高いと思わなかった」
そう話すのは、昨年、日本を観光で訪れた際にレンタカーを利用したという40代の中国人男性だ。
もちろん、中国で運転免許証を持っているだけでは日本で運転はできないが、レンタカー利用を希望するこうした観光客の”ニーズ”にも応えていた制度が、海外の運転免許証を日本のものへ切り替える「外免切替」だ。
筆記試験が簡単なうえ、ホテルで短期滞在中の観光客でも切り替えが可能だった。外免切替者数はこの10年で2倍超に増加し、2024年は延べ約7万5900人を数える。
それに伴って問題視されるようになったのが、外国人運転手による事故の増加だ。警察庁は7月、外国人による交通事故の統計を初めて明らかにし、今年1~6月の死亡・重傷事故が昨年同期より19件多い258件と公表。運転手の国籍は中国籍と韓国・朝鮮籍が各51件で最多となった。5月には埼玉県三郷市で、小学生4人が車にはねられ重軽傷を負ったひき逃げ事件が起き、外免切替で運転していた中国籍の男が逮捕され注目を集めた。
そうした状況を受け、政府は10月1日、道路交通法施行規則の一部改正により、外免切替の制度厳格化に踏み切った。学科試験の問題数を増やすとともに、住民票がない外国人観光客は日本の免許証に切り替えられない制度となったのだ。
冒頭のようなレンタカー観光は難しくなったが、このタイミングで中国系のSNSでは不穏な動きが活発になっている。
「在留カード、保険証、労災保険加入証明書、年金手帳、運転免許証が必要な方、ご連絡ください」
これはウィーチャット(中国版LINE)のグループチャットの投稿である。こうしたグループチャットは無数に存在しており、在留カードを用意すると謳っていることからも、もともとは何らかの手続きに身分証が必要な在日中国人向けの宣伝だとみられるが、グループチャットは招待制で、チャットメンバーから招待があれば日本を訪れる観光客でも入会が可能だ。
他の身分証などの偽造品の実態は確認できていないが、今回、運転免許の偽造を謳う中国系業者と接触ができた。
当然ながら免許証の偽造は有印公文書偽造に問われる違法行為だが、その業者のSNSには、偽造免許証の宣伝の他、認可外の医薬品などの宣伝も確認でき、違法ビジネスを手広く行なっていることが窺える。
偽造免許証の購入者を装いウィーチャットでメッセージを送ると、数分後に返信があった。
「免許証は1枚1万円で明日発送して明後日には届きますよ」
こう告げると、偽造免許証を作成するうえで必要な情報を求めてきた。
「住所と氏名、顔写真を送ってください。免許証のサンプルが出来たらサンプル写真を送るので内容を確認してください」
慣れた様子で淡々とメッセージが送られてくる。気になるのが免許証の偽造のレベルだ。業者に最近作成した偽造免許証の写真をサンプルとして見せてほしいと尋ねると、一枚の写真が送られてきた。一部にはモザイク処理が施されていたが、実際に偽造品だとすれば、文字のフォントや色彩など本物の免許証と見比べてみても違いは判別できない精巧さであった。
すでに摘発事例もある。2024年には中国人留学生が日本の運転免許証を偽造し逮捕されている。自宅からはカードプリンターや約1400枚の白色プラスチックカード、偽造された運転免許証などが押収され、組織的な偽造が疑われた。
懸念は、そうした偽造免許証でレンタカーが借りられることだ。昨年5月、偽造免許証を所持していたインドネシア籍の男が、レンタカーを利用し違法ガイドを行なっていたとして逮捕された。
レンタカー業者はどのように免許証の確認をしているのか。中国人観光客のレンタカー利用が増えている沖縄県内のレンタカー業者に話を聞くとこう答えた。
「提示された免許証のコピーを取って貸し出しているというのが現状です。目視でも確認しますが、精巧なものだと偽造免許証なのか見破ることは難しい。業界全体でも免許証の真贋をチェックする体制は確立されておらず、企業や店舗ごとに対応しているのが現状です」
偽造業者に、記者であることを明かし、違法性の認識について訊ねると返信は途絶え、後日再度確認したところ業者のSNSアカウントは消えていた。
中国事情に詳しいジャーナリストの周来友氏はこう指摘する。
「偽造証明証業者は以前から存在していました。以前の偽造免許証は、漢字の一部が中国で使用されている簡体字だったりと目視ですぐに分かりました。最近は文字や色彩だけでなく、本物と同じような台紙を使っているので肌触りも本物と遜色ないレベルとなっています。もともとは身分証の用途とするための偽造でしたが、今般の規制強化を受けて今後、日本で運転するための偽造品として拡散することが懸念されています」
警察庁にも見解を求めたが、期限までに回答は得られなかった。
(後編に続く)
【プロフィール】廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。
※週刊ポスト2025年11月21日号