「クマが世田谷区に出没する可能性も」 すでに青梅や八王子で目撃情報が… 「移動距離は1日10キロ」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【前後編の後編/前編からの続き】
10月に入ってから連日報じられている、クマによる人身被害。痛ましいことに、すでに死亡者は過去最多数を記録し、桃源郷だったはずの名湯の地でも死亡事故が発生してしまった。もはや誰にも“対岸の火事”とは呼べない、クマの驚愕(きょうがく)すべき実態に迫る。
***
【写真を見る】犠牲となった笹崎勝己さん プロレスのレフェリーとして活躍した
前編【「人里で母グマを駆除すると、子グマが“集落依存型”に…」 クマによる人身事故大量発生の理由とは】では、クマによる人身事故が急増している理由について報じた。
それにしても、山奥から里山、そして市街地へと、果たしてクマはどのように移動しているのだろうか。
「多くの川は森から始まり、農作地が広がる里山を通り、市街地へ流れ出ますが、これがクマの通行路にもなっているようです。河川敷には丈のある植物が生い茂る河畔林と呼ばれる地帯があり、クマが身を隠しながら移動するのに適しています。また、川沿いには木の実などクマが食べる物が豊富です」(岩手大学農学部の山内貴義准教授)
川と相性が良いのは実証されている。
「岩手県の農村部では、一面に広がる田んぼのど真ん中にある小学校の校庭に、いきなりクマが現れるということが起こります。田んぼは見晴らしが良いので、どこから来たのか地元の方は不思議に思う。そこでカメラを設置して調査すると、クマは身を隠せるような川や用水路を通っていることが確認されたのです」(同)
ちなみに、クマが現れた群馬県のスーパーも、川が近くを流れている。仙台市で一度に5頭ものクマが発見されたのも河川敷だった。
もっとも、現れるだけならさして問題ではない。恐ろしいのは、あまりに多くのクマが人を襲っていることである。
「どうして人を襲うような一線を越えたクマが増えたのか、科学的な結論は出ていません。ただ、市街地に出て、しかも人間を恐れないクマの個体数が増えていることはたしかです」(山内氏)
従来、クマは臆病であるといわれてきたが、
「今年のクマは人間の生活音や自動車の音にも警戒心が薄いようです。こうしたクマが市街地で人と接する機会が増え、人に慣れていく中で、さらに行動がエスカレートしていったと考えられます」(同)
とした上で、
「2年前の秋にも木の実の大凶作を受けて、市街地にはクマが大量に出没し、秋田県と岩手県では過去最多の人身被害数を記録しました。この大出没に参加したクマが、“人間の近くに行けばおいしいものがある”“人間は自分たちに何もしてこない”と学習した可能性が考えられます。また、このときには親子連れが多かったため、子グマにとっては市街地が生活範囲の一部と映っているのでしょう。クマは学習能力が高く、一度味をしめたエサ場には何度もやってくる習性もあります」(同)
さらに衝撃的なことに、市街地に慣れたクマは、
「ハイカロリーな食べ物に囲まれて太ってくる。こうした栄養状態がいいクマは冬眠をする必要がなく、ますます市街地に依存するようになる」(日本ツキノワグマ研究所の米田一彦代表)
というから、冬になればクマがおとなしくなる、という期待もできないのだ。
しかし、これほどクマの事故が報じられていても、どこか他人事として受け止めている向きも少なくないだろう。が、クマの生態に詳しい石川県立大学の大井徹特任教授は、こう警鐘を鳴らす。
「クマは移動能力が非常に高く、1日に10キロほど移動することもある。もともと都内のクマの生息地は奥多摩でしたが、現在では青梅や八王子での目撃情報があります。新天地を求めたクマが、多摩川沿いの長い旅をすることがあるかもしれません。その過程で人や犬などに驚かされると、クマは何をするか分からない。多摩川が流れる世田谷区などの市街地に迷い出る可能性も否定できません」
もはや、何が起こっても不思議ではない局面なのかもしれない。
前編【「人里で母グマを駆除すると、子グマが“集落依存型”に…」 クマによる人身事故大量発生の理由とは】では、クマによる人身事故が急増している理由について報じている。
「週刊新潮」2025年10月30日号 掲載

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。