怖い、助けてください…朝3時、年金18万円の83歳母から悲痛な留守電。朝8時に起床後すぐ実家へ走った52歳息子、目撃した「手遅れな光景」【FPが解説】

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一人暮らしの高齢者が増え続ける現代日本。自由で気ままな暮らしの一方で、誰にも看取られずに最期を迎える孤独死のリスクは、決して他人事ではありません。離れて暮らす親を持つ多くの人が、「もしものとき」への漠然とした不安を抱えています。本記事では、田中さん(仮名)の事例とともに、大切な親の命を守るための「見守り」と「緊急対応」の必要性についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

会社員の田中誠さん(仮名/52歳)は、地方都市で年下の妻、社会人になったばかりの息子、大学生の娘と暮らしています。
実家は車で1時間ほどの距離にあり、3年前に父が他界してからは、母の和子さん(83歳)が一人で暮らしていました。和子さんの年金収入は、父の遺族年金と合わせて月額18万円ほど。なにかと心配ではありましたが、年に数回の帰省時には元気そうな姿をみせてくれていたため、田中さんが頻繁に訪れることはありませんでした。
そんなある日の朝。忘年会で遅くまで飲んでいた田中さんが朝8時ごろに目を覚ますと、深夜3時にスマホに着信があったことに気づきます。不思議に思いながら留守番電話を再生すると、そこには母の震える声で、こう録音されていました。
「怖い……助けてください……」
一瞬、聞き間違いかと思った田中さんは何度も再生しますが、やはり間違いありませんでした。慌てて着替え、車を飛ばし実家へと急行します。わずか1時間の道のりが、これほど遠く感じたことはありませんでした。
家を飛び出したために実家の鍵を忘れてきた田中さん。実家に到着し、玄関の鍵の隠し場所から鍵を取り出し、静まり返った家の中へ入ると、和子さんは廊下で倒れていました。声をかけても返事はなく、手を取ると、すでにその身体は冷たくなっていたのです。救急車を呼び病院に付き添いましたが、死亡が確認されました。
留守電があった時間は深夜3時過ぎ、ちょうど田中さんが帰宅してシャワーを浴び、寝付いてから間もない時間でした。「あのとき、もし目を覚ましていたら……」田中さんはその後、何度も留守電を繰り返し聞いたといいます。

総務省の「家計調査(2024年)」によると、単身高齢者世帯のうち65歳以上の約40%が独居しています。和子さんのように、一人暮らしをしている高齢者は全国に数多く存在しているのです。東京都監察医務院のデータによれば、都内で孤独死とみられる65歳以上の死者数は年間4,000人超(令和4年)にのぼります。
今回は母からの電話がきっかけで田中さんが数時間後には駆けつけていたため、「高齢者の孤独死」というリスクの点では不幸中の幸いだったかもしれません。しかし、発見までに数日~数週間を要するケースもあり、「死後1週間以上放置」されたケースも全体の約3割にのぼるとされています。
元気そうに生活していてもこういったリスクは常に付きまとうものです。
一人暮らしの高齢者の不安に対応するサービスとして、月々数千円で導入できる警備会社の見守りサービスや、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)への入居、緊急時対応付きのシニアマンションなどがあります。これらを活用すれば、急な体調変化にも対応可能です。
しかし、介護サービスや見守りサービスの費用に掛かる経済的な不安から、実際には活用されない場合も多いのが現実です。
誰でも高齢になれば衰えは必ずやってきます。そして、今回のように一人で死を迎えることも決して珍しいことではありません。こうした問題は、経済的な課題をクリアできれば、見守りサービスやサ高住への入居で解決できることも多いものです。
そのために、自分がどう生き、どんな最期を迎えたいか。逆にどんな生活、どんな最期が嫌かを考え、将来的な医療・介護費用を含めた必要な支出に対して、年金収入がどの程度不足するのか、資産をどの程度残しておくべきか、計画を立てておくことが重要になります。
田中さんの事例のように、「あのとき気づいていれば……」という後悔を生まないためにも、離れて暮らす親への“備え”を先送りにしないこと。そして、自分自身の生き方と最期を思い描き、「経済的な準備」と「見守り環境の整備」を、元気なうちから進めていくことが大切といえるでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー

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