「死に場所は、刑務所の独房であるべきでした」ジャニー喜多川“性加害”に、アメリカ人弁護士が示した「強烈な怒り」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP. 以下スマイル社)の創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害問題で、元ジャニーズJr.の2人が、生前の氏から米ネバダ州で性加害を受けたとして、会社側を相手取り、同州の裁判所に総額3億ドルの賠償を求めて提訴した。両氏の代理人であるクリストファー・ブレナン弁護士が、訴訟の背景や事件への思いについて、在米ライターである柳田由紀子氏のインタビューに答えた。
【画像】訴訟の被告となる藤島シュリー景子氏
◆◆◆
――本裁判に関わることになった経緯を教えてください。
「2006年、私は、北米トヨタ自動車のCEOからセクシャル・ハラスメントを受けたニューヨーク在住日本人女性の損害賠償請求訴訟の代理人を務めました。これをきっかけに日本の方々との繋がりができ、またハラスメント関連の案件を多く手がけるようになりました。故ジャニー喜多川氏の性加害問題について教えてくれたのも東京の日本人弁護士たち。23年秋、ちょうど旧ジャニーズ事務所が2度目の記者会見をした頃です。
クリストファー・フレナン弁護士
まったくの初耳でした。それで、喜多川氏について調べ始めました。すると、すでに2000年の時点で『ニューヨーク・タイムズ』が、後に日本の最高裁が氏による少年たちへの性加害を認めたいわゆる『文春裁判』を報じているではありませんか。その後も私は、英公共放送局、BBCのドキュメンタリーや被害者たちの告白本など資料にあたり続けました。最悪級のモンスターによる“公然の秘密”が法的に証明されたにもかかわらず、本人はもとより誰一人責任を取らなかったことや、メディアや政府、捜査機関が長年問題を放置し続けたことに衝撃を受けました。19年に開かれた喜多川氏のお別れの会には、時の首相、安倍晋三氏が弔電まで送っている」
――アメリカの捜査機関なら動いたと思いますか?
「性的虐待を告発されたジェフリー・エプスタインやハーヴェイ・ワインスタインを思い出してください。ひとりは拘置所で亡くなり、もうひとりは今、塀の中です。喜多川氏の死に場所は、刑務所の独房であるべきでした。
問題なのは、氏と深く関わった人々がいまだに芸能界に残り子どもたちと接していることです。#MeToo運動の引き金になったワインスタインは映画界でもとりわけ影響力のある人物でしたが、彼の会社は倒産しました。一方、ジャニーズ事務所はスマイル社と改名し、さらにSTARTO ENTERTAINMENT(以下スタート社)なる別会社を作り業務を引き継がせた上で、『私たちは別々』と平然と言ってのけている。しかし、関わっているのは同じ人たちです。KABUKI(歌舞伎)で衣をパッと替えることがあるでしょう、あれと一緒ですよ。中身は何も変わっていない。
今年は事務所が生んだスター、中居正広氏がやはり性的問題で突然引退しましたね。こうした負の連鎖を止めるには、皆が正直になるしかありません。真実を開示し責任を負うことです。日本の人々が、喜多川氏の周辺で何があったのかを完全に理解するまで問題は終わりません」

――原告のふたりとはどのようにして出会われたのですか?
「東京の弁護士たちが紹介してくれました。喜多川氏によって我が国に連れて来られ、我が国で性的虐待を受けた複数の元ジャニーズJr.の中に、今回原告となった田中純弥さんと飯田恭平さんもいました。話を聞いて私は怒りを覚えました。この世に児童への性的暴行ほど邪悪なことがあるでしょうか。氏の被害者の多くはほんの13、14歳。性的に未体験で、初めて氏から加害された時は何が起きているのかすらわからなかった。彼らの苦痛は生涯続き、人間関係や人生の選択に酷い影響を与えます。
私が田中、飯田両氏の代理人を受任した理由には、彼らがネバダ州で加害された事実のほかに――ネバダ州法の特殊性については後ほど説明します――人格に心を動かされたこともあります。そもそも、英語圏でも性被害を告白するのは困難です。ましてや日本文化にあって、しかも男性が同性に犯されたと公に口にするのは、はかりしれないほどつらく勇気のいる行為でしょう。

ふたりには、その障害を乗り越え事実を明確に語る能力があります。また、自分だけでなく他の被害者たちを代弁する意気もある。一例をあげれば、田中さんは、9月17日にタイで開催される国連の『責任あるビジネスと人権フォーラム』でスピーチをします。彼の行いは、将来起こりうる被害の抑止に大いに役立ちます」
※本記事の全文(約9000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年11月号に掲載されています(クリストファー・ブレナン「藤島ジュリーを逃さない」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。・性的虐待は殺人に次ぐ犯罪・日本にはない司法制度・スマイル社の報復体質・東山氏はなぜ被告ではないか・いくらなんでも高額すぎる?・なぜネバダなのか・ジュリー氏は出廷する?
(クリストファー・ブレナン,柳田 由紀子/文藝春秋 2025年11月号)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。