「孫はかわいい。でも、10人になると、話は別です――。年金月22万円、貯蓄1,600万円の70代夫婦。普通なら穏やかに暮らせるはずが、孫へのお祝い、旅行代、教育費のサポート…その負担は想像以上。喜びと不安が入り混じる、あるシニアの本音をのぞいてみましょう。
地方の町で暮らす山田剛さん(仮名・71歳)は、一見幸せいっぱいの老後を送る「幸せなおじいちゃん」。というのも、長女には7人の子ども、長男には3人。実に10人もの孫がいるのです。
長女・長男ともに地元で結婚し、同じ町内に家を構えています。そのため、孫はまるで第二の我が家のように剛さんと剛さんの妻・美枝さんの元を訪れる、賑やかな日々です。
孫たちは幼稚園から大学生まで幅広い年齢層。剛さんは孫たちの成長を見るのは楽しみであり、喜びでもあります。しかし、心の奥には小さな恐怖が潜んでいました。
夫婦の年金は合計22万円、貯蓄は現時点で約1,600万円。慎ましく暮らすだけであれば、何とか乗り切れる金額かもしれませんが、剛さんの「孫だくさん」の環境ではそうともいえません。
「何も考えずに“孫が可愛い”っていってる人は、孫の数がせいぜい2~3人でしょ。10人もいると、それだけじゃなくなるんだよ」
剛さんの頭を悩ませるのは、孫にかかるさまざまな支出です。幼稚園児には誕生日や運動会のプレゼント、習い事の月謝。小学生にはお祝い事やお年玉、学用品。中高生には進学祝い、修学旅行代の援助。大学生には入学金の補助や生活費のサポート……。
これまでにすでに数百万円を費やし、今後もこのペースは続くと考えると気が重くなるといいます。
「まだ一番下は幼稚園で先が見えない。このままじゃ俺たち貯金をどんどん減らすことになる。自分たちに使えるお金なんて、本当にちょっとなんだよ」
剛さんはため息交じりに財布の中を確認します。しかし、長女や長男のことを思えば、10人もの孫への援助を断るのも難しいといいます。
「どこかで止めるのって難しい。あの孫にはやってあげて、あの孫にはやってあげない。不公平になっちゃうからね。それで子どもたちがモメたりしても嫌だから。でも、もうそろそろ限界かな」
さらに、体力的な厳しさも大きくなっているといいます。
「特に妻が大変そうでね。長女は7人も子どもがいるけれど、昔から妻や俺に頼るのが前提みたいなところがある。でも、俺らも70代。入れ代わり立ち代わり孫が来たり、預けられたりするけれど、今日は静かに過ごしたいと思うことが増えた。孫がいなくて『何もすることがない』って言っている友達が羨ましくなることもあるぐらい。贅沢な悩みなのかもしれないけれど……」
現代の年金世帯でも、孫の数が増えると生活設計は一気に不安定になります。愛情だけでは支えられない経済的負担、そして家族への配慮と自分たちの老後のバランス。剛さんのように孫たちの笑顔を見るのを楽しみにしつつも、心の中で葛藤している人はいるでしょう。
しかし、自分たちの老後を守ることが先決であり、援助するお金は割り切ることも大切です。孫の成長を喜びながらも、生活を守るための冷静さも持つことが必要だといえます。