「お客様は神?」日本で”クレーマー”が増殖する訳

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「お客様は神様」か?「カスハラ」が横行する最大の理由について解説します(写真:amadank/PIXTA)
一部上場企業の社長や企業幹部、政治家など、「トップエリートを対象としたプレゼン・スピーチなどのプライベートコーチング」に携わり、これまでに1000人の話し方を変えてきた岡本純子氏。
たった2時間のコーチングで、「棒読み・棒立ち」のエグゼクティブを、会場を「総立ち」にさせるほどの堂々とした話し手に変える「劇的な話し方の改善ぶり」と実績から「伝説の家庭教師」と呼ばれている。
その岡本氏が、全メソッドを初公開し、15万部を超えるベストセラーとなった『世界最高の話し方』に続き、このたび『世界最高の雑談力―― 「人生最強の武器」を手に入れる! 「伝説の家庭教師」がこっそり教える 一生、会話に困らない超簡単50のルール』を上梓し、発売3日で3万部を突破するなど、早くも話題を呼んでいる。
コミュニケーション戦略研究家でもある岡本氏が「『お客様は神様』か?日本で『クレーマー』が増殖し『カスハラ』が横行する理由」について解説する。
傍若無人に自分の要求や怒りをぶちまける「クレーマー」が増えています。
店で、学校で、交通機関で、役場で、病院で、高圧的な態度をとり、不機嫌をまき散らす。その対応に現場のスタッフ、職員、社員は疲弊しており、彼らを組織的に守る手立てが求められています。
長野県で、「子どもたちが使う公園が、一人の近隣住民の申し立てにより使えなくなり、廃止せざるを得なくなった」との報道がありました。その男性は、長年にわたり、騒音などについての不満を行政に訴えつづけ、時には子どもたちの手を引いて直接叱るなどの行為もあったとされます。もちろん、住民として静かな生活を求める気持ちもわかりますし、特定の音に対して耐性が非常に低い「ミソフォニア(音嫌悪症)」といわれる症状を持つ方もいらっしゃいます。子どもの数が激減し、日ごろ子どもと接する機会がなくなり、周波数が高い子どもの声を、煩わしく感じる人もいるかもしれません。さまざまな事情があるにせよ、たった一人の声の大きな人の苦情が、多くの子どもたちの遊び場を奪う結果になってしまったのは大変残念なことです。ここでは、クレーマー増殖の理由やその対策について考えていきましょう。今回の苦情者が、いわゆる「クレーマー」だったかどうかは定かではありませんが、声をひときわ大きくして、相手の非をあげつらい、自分の利益を主張する一部の人による「ハラスメント」の事例を目にする機会が増えています。サービス業では放置されがちな「ハラスメント対策」タレントの田村淳さんが先日、ツイッターで、以下のような投稿をして話題になりました(編集部注:絵文字は割愛しています)。飛行機にて、隣の席のおじさんがCAさんに対して、高圧的な口調の人だと、そのフライトはずっと地獄 あまりにも酷いので、CAさんにもっと敬意を持って話せないんですか?って言ってしまった…空気ピリピリさらに地獄 もうやめたい…いつもひと言ってしまう…これからはAirPodsして搭乗します。私にも似たような経験があります。行きつけのスターバックスで、若い女性店員に対し、店内の誰もが聞こえる大声で怒鳴りつけ、震え上がらせていた若い男性。延々と難癖をつけつづけているのに、店長など、ほかの店員がサポートに入る様子もありません。あまりにひどいので見かねて、声を掛けたら「うるせえ、ババア」と威嚇されました。一緒にいる息子がすかさず、iphoneを取り出して、撮影をするふりをしたら、激高。最終的には警察が出動する騒ぎになりました。会社経営者だということでしたが、一体全体、社員は普段どんな思いをしながら働いているのかと、気の毒になりました。駅でねちねちと若い駅員に因縁をつける男性を目撃したこともあります。10分も15分も延々と威嚇的な口調で脅しつけ、駅員はひたすらに話を聴き、申し訳なさそうにしています。店員に横柄な態度をとるコンビニやスーパーの客、タクシーやバスの乗員に因縁をつける客、看護師に不当な要求をする患者やその家族など「カスタマーハラスメント」の事例は枚挙にいとまがありません。なぜ、サービスを提供している側が、一方的にこんな理不尽な苦情を受容しつづけなければならないのでしょうか。たとえ、何らかの過失や瑕疵があったとしても、怒鳴りつける必要はないはず。「言葉の暴力」であり、企業内であれば、即刻、「パワハラ」として、上司に処分が下るような案件が、なぜか、サービス業の現場においては放置されています。実際、2020年に厚生労働省が行った調査によれば、全国の労働者のうち15%が過去3年で勤務先から「カスハラ」を受けたと回答していました。その内容としては、「長時間の校則や同じ内容を繰り返すクレーム」が52.0%、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%という結果でした。「カスハラ」が横行する大きな理由が、「お客様は神様」という言葉が象徴するように、「金を払う客が『上』、サービスを提供する側が『下』」という固定的な「上下関係の意識」を持った人がいることが挙げられるでしょう。キャビンアテンダントが地に膝をついて、客の話を聞く、店員は深々と頭を下げ、挨拶をする……。そもそも、サービスの現場において、日本ほど、スタッフが客にへりくだる国は他にありません。「日本独特の思考」から「戦う」より「謝る」発想にクレームは「宝の山」であり、その要望にこたえ続ければ、サービス品質が向上する、という「おもてなし」幻想が、過剰サービスにもつながっています。日本人は常々、「異常な低料金」に見合わぬ「高いサービス」を受けることに慣らされており、期待値が上がりすぎてしまっていると言えるでしょう。それと同時に、企業側としても「あらゆるリスクを回避したい」という日本独特の思考から、「『戦う』よりも、現場が『謝り』、その場を丸く収めればいい」という発想にもなりがちです。非がなくても「ご迷惑おかけしてすみません」と謝れば、とりあえず、矛を収めてくれる人もいるので、頭を下げておく。そこで、クレーマーは「正しいことをした」と、承認欲求が満たされ、行動を繰り返す動機づけがされてしまうのです。認知機能が衰え、感情の制御が効きにくくなる、耳が遠く、大声になりがちな高齢者が増えているという事情もあるかもしれません。さらに、最近のSNS社会特有の事情もあるようです。ある外食大手チェーン社長は、「かつては横柄な客に対しては店長権限で『この店の敷居はまたぐな』と強い調子で追い払うことができたが、今はその様子を動画に撮られて、客に都合のいい箇所だけをSNSにさらされる危険性がある。だから、どこまでも丁重に下手に出なければならない」と苦しい胸の内を話してくれました。「頭を下げる、謝る、お礼を言うべきは常に、サービス提供者」といういびつで一方的な環境で、結果として、一部の客たちが増長してしまう側面はあるでしょう。そもそも、海外では、チップが発生しない場合、スタッフの愛想もサービスも、本当にひどいものです。総じて無愛想で、 態度が大きいので、「売ってくださってありがとう」「飛行機で食事を配ってくださってありがとう」と、客であるこちらが恐縮してしまうほどです。もちろん、全世界にクレーマーは存在しますが、日本のようにスタッフの側がへりくだることはなく、毅然とガチンコで向き合うことがほとんど。客が声を荒らげたり、暴力的な言葉などを発したり、一線を越えれば、即、警察やセキュリティーが対応します。一方で、日本ではこうした「カスハラ」に組織的に対応するシステムが未整備で、現場任せになりがち。現場の人間に大きな負担がかかってしまうというわけです。労働法が専門の芦原一郎弁護士に直接伺ったところによると、「日本では、多くの経営者がこうした現場の社員を守る義務を負っていることを理解していない。明確なルールもなく、現場に対応が任されているケースも多く、その負担を押し付けられた末端の労働者は疲弊している。『この言葉が出たら、こういう態度だったら、こうする』などといった明確なマニュアルを作るなど、一線を越えたら毅然として対応できるようにルール化をし、現場を守らなければならない」と話していて非常に腑に落ちました。お互いが「感謝」と「敬意」を表すことが大事職業に貴賎はなく、上下関係もありません。ただでさえ人手不足なのですから、客側とて「サービスを提供してくれてありがとう」と、まずは、しっかりとお礼を言うべきでしょう。「客は神」という間違った幻想を解き放ち、お互いがまずは「感謝」と「敬意」を表す。このコミュニケーションの基本動作を共有するところから始めるべきではないでしょうか。(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)
長野県で、「子どもたちが使う公園が、一人の近隣住民の申し立てにより使えなくなり、廃止せざるを得なくなった」との報道がありました。
その男性は、長年にわたり、騒音などについての不満を行政に訴えつづけ、時には子どもたちの手を引いて直接叱るなどの行為もあったとされます。
もちろん、住民として静かな生活を求める気持ちもわかりますし、特定の音に対して耐性が非常に低い「ミソフォニア(音嫌悪症)」といわれる症状を持つ方もいらっしゃいます。
子どもの数が激減し、日ごろ子どもと接する機会がなくなり、周波数が高い子どもの声を、煩わしく感じる人もいるかもしれません。
さまざまな事情があるにせよ、たった一人の声の大きな人の苦情が、多くの子どもたちの遊び場を奪う結果になってしまったのは大変残念なことです。
ここでは、クレーマー増殖の理由やその対策について考えていきましょう。
今回の苦情者が、いわゆる「クレーマー」だったかどうかは定かではありませんが、声をひときわ大きくして、相手の非をあげつらい、自分の利益を主張する一部の人による「ハラスメント」の事例を目にする機会が増えています。
タレントの田村淳さんが先日、ツイッターで、以下のような投稿をして話題になりました(編集部注:絵文字は割愛しています)。
飛行機にて、隣の席のおじさんがCAさんに対して、高圧的な口調の人だと、そのフライトはずっと地獄 あまりにも酷いので、CAさんにもっと敬意を持って話せないんですか?って言ってしまった…空気ピリピリさらに地獄 もうやめたい…いつもひと言ってしまう…これからはAirPodsして搭乗します。
私にも似たような経験があります。
行きつけのスターバックスで、若い女性店員に対し、店内の誰もが聞こえる大声で怒鳴りつけ、震え上がらせていた若い男性。延々と難癖をつけつづけているのに、店長など、ほかの店員がサポートに入る様子もありません。
あまりにひどいので見かねて、声を掛けたら「うるせえ、ババア」と威嚇されました。
一緒にいる息子がすかさず、iphoneを取り出して、撮影をするふりをしたら、激高。最終的には警察が出動する騒ぎになりました。
会社経営者だということでしたが、一体全体、社員は普段どんな思いをしながら働いているのかと、気の毒になりました。
駅でねちねちと若い駅員に因縁をつける男性を目撃したこともあります。10分も15分も延々と威嚇的な口調で脅しつけ、駅員はひたすらに話を聴き、申し訳なさそうにしています。
店員に横柄な態度をとるコンビニやスーパーの客、タクシーやバスの乗員に因縁をつける客、看護師に不当な要求をする患者やその家族など「カスタマーハラスメント」の事例は枚挙にいとまがありません。
なぜ、サービスを提供している側が、一方的にこんな理不尽な苦情を受容しつづけなければならないのでしょうか。たとえ、何らかの過失や瑕疵があったとしても、怒鳴りつける必要はないはず。
「言葉の暴力」であり、企業内であれば、即刻、「パワハラ」として、上司に処分が下るような案件が、なぜか、サービス業の現場においては放置されています。
実際、2020年に厚生労働省が行った調査によれば、全国の労働者のうち15%が過去3年で勤務先から「カスハラ」を受けたと回答していました。
その内容としては、「長時間の校則や同じ内容を繰り返すクレーム」が52.0%、「名誉棄損・侮辱・ひどい暴言」が46.9%という結果でした。
「カスハラ」が横行する大きな理由が、「お客様は神様」という言葉が象徴するように、「金を払う客が『上』、サービスを提供する側が『下』」という固定的な「上下関係の意識」を持った人がいることが挙げられるでしょう。
キャビンアテンダントが地に膝をついて、客の話を聞く、店員は深々と頭を下げ、挨拶をする……。そもそも、サービスの現場において、日本ほど、スタッフが客にへりくだる国は他にありません。
クレームは「宝の山」であり、その要望にこたえ続ければ、サービス品質が向上する、という「おもてなし」幻想が、過剰サービスにもつながっています。
日本人は常々、「異常な低料金」に見合わぬ「高いサービス」を受けることに慣らされており、期待値が上がりすぎてしまっていると言えるでしょう。
それと同時に、企業側としても「あらゆるリスクを回避したい」という日本独特の思考から、「『戦う』よりも、現場が『謝り』、その場を丸く収めればいい」という発想にもなりがちです。
非がなくても「ご迷惑おかけしてすみません」と謝れば、とりあえず、矛を収めてくれる人もいるので、頭を下げておく。そこで、クレーマーは「正しいことをした」と、承認欲求が満たされ、行動を繰り返す動機づけがされてしまうのです。
認知機能が衰え、感情の制御が効きにくくなる、耳が遠く、大声になりがちな高齢者が増えているという事情もあるかもしれません。
さらに、最近のSNS社会特有の事情もあるようです。
ある外食大手チェーン社長は、「かつては横柄な客に対しては店長権限で『この店の敷居はまたぐな』と強い調子で追い払うことができたが、今はその様子を動画に撮られて、客に都合のいい箇所だけをSNSにさらされる危険性がある。だから、どこまでも丁重に下手に出なければならない」と苦しい胸の内を話してくれました。
「頭を下げる、謝る、お礼を言うべきは常に、サービス提供者」といういびつで一方的な環境で、結果として、一部の客たちが増長してしまう側面はあるでしょう。
そもそも、海外では、チップが発生しない場合、スタッフの愛想もサービスも、本当にひどいものです。
総じて無愛想で、 態度が大きいので、「売ってくださってありがとう」「飛行機で食事を配ってくださってありがとう」と、客であるこちらが恐縮してしまうほどです。
もちろん、全世界にクレーマーは存在しますが、日本のようにスタッフの側がへりくだることはなく、毅然とガチンコで向き合うことがほとんど。客が声を荒らげたり、暴力的な言葉などを発したり、一線を越えれば、即、警察やセキュリティーが対応します。
一方で、日本ではこうした「カスハラ」に組織的に対応するシステムが未整備で、現場任せになりがち。現場の人間に大きな負担がかかってしまうというわけです。
労働法が専門の芦原一郎弁護士に直接伺ったところによると、「日本では、多くの経営者がこうした現場の社員を守る義務を負っていることを理解していない。明確なルールもなく、現場に対応が任されているケースも多く、その負担を押し付けられた末端の労働者は疲弊している。『この言葉が出たら、こういう態度だったら、こうする』などといった明確なマニュアルを作るなど、一線を越えたら毅然として対応できるようにルール化をし、現場を守らなければならない」と話していて非常に腑に落ちました。
職業に貴賎はなく、上下関係もありません。
ただでさえ人手不足なのですから、客側とて「サービスを提供してくれてありがとう」と、まずは、しっかりとお礼を言うべきでしょう。
「客は神」という間違った幻想を解き放ち、お互いがまずは「感謝」と「敬意」を表す。このコミュニケーションの基本動作を共有するところから始めるべきではないでしょうか。
(岡本 純子 : コミュニケーション戦略研究家・コミュ力伝道師)

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