法律事務所と弁護士会で働く事務職員を対象とした実態調査アンケートを実施した全国法律関連労組連絡協議会(全法労協)は6月23日、労働条件の改善をもとめて日本弁護士連合会(日弁連)に要請書を提出した。アンケートは毎年尋ねているもので、今期は811人が回答した(6月12日現在)。
事務職員が物価高にあえいでいるとの状況が反映されており、「手取り14万円では生活が厳しいです。昇給や退職金制度がほしいです」といった声が届けられた。
要請書では「健康で文化的な生活を営む権利を保障し、労働者の働く意欲の向上を図るため、月額23万円、パートアルバイトの時給は1,500円(生計費原則の考えに基づく額)とし、これ以下の金額では労働者を雇用しないで下さい」などと求めた。
全法労協は、法律事務所など民間の法律・司法関連の職場で働く労働者の労働組合でつくられる組織で、アンケートには811人が回答した。内訳は女性681人、男性102人、その他(無回答) 28人。
今期のアンケートでは、回答者の43.1%が「年収が減少または変わらない」と答えた。また、家計収支について「赤字・時々赤字・ギリギリの生活」と答えたのは77.4%で、物価高が生活状況に深刻な影響を与えていると全法労協は指摘する。
また、職場において「セクシャルハラスメントがある」(7.0%)(昨年4.5%)、「パワーハラスメントがある」は23.1%(昨年17.2%)との回答が、昨年より増加した。
こうした内容を踏まえて、要請書では、賃金の増額やハラスメント防止、社会保険の強制適用などを求めている。
回答者からは、職場の弁護士にアンケート結果を読んでほしいが、読まれることがないとの声もあるといい、日弁連に対して「事務職員の声が各会員に届くよう」に求めることも強調された。
アンケートにはフリーコメントもある。一部の声を紹介する。
「毎年回答しています。弁護士はこのアンケートの存在を知りません。弁護士会に通知するのではなく、弁護士が必ず目を通すような研修等で知らせてください。弁1事1の事務所では退職の覚悟がなければ弁護士に話すことなどできません。弁1事1の事務所においてハラスメントの防止の手立てはありません。全く評価もされず、働く意欲が持てずにいます」
「このアンケート結果は、弁護士が見るべきだと弁護士が言っていました。事務局宛に届くとあえて渡すのも難しいと思うので(うちは見せましたが)、弁護士会の総会資料にも入れておいてはいかがでしょうか」
「弁護士が違法なことをしているが、どこに相談していいかわからない。職場の問題をハラスメント窓口に相談したことがあるが、匿名では何もできないとのこと」
「AIの発達により、この先、法律事務員はAIに代替される部分が増えてくるので、職業としては淘汰されていくとの予想がなされています。その影響で、若い人材は就職先として法律事務所を選ばなくなってきています。そうなると、新たな人材確保・教育・経験の継承が難しくなり、一定の経験や能力を持つ事務員は、貴重な存在となります。その事務員がより良い条件を求めて他事務所に流れてしまえば、いくらAI が代替できる部分が多いとはいえ、事務所(弁護士の日常業務)に与える影響は大きくなります。人手不足が解消できないばかりか、人材の流出により事務所が依頼者に対して提供できるサービスの低下を招くことになる」
「弁護士会は、所属弁護士に対し、事務員を雇用するにあたっての「使用者」としての研修を充実させてもらいたい(ハラスメントの面や賃金支払に関して)」
「10年近く働いても手取り20万強ではこの物価高の中生活できない。給与上限も決められておりこれ以上の昇給もほぼ見込めない」
「手取り14万円では生活が厳しいです。昇給や退職金制度がほしいです」
「一人事務です。昨年は、有給を取れませんでした。というのは、これまで有給申請をすると、『時季変更権』を言い出され、却下ばかり。理由は『その日は裁判が1件あるから、その間の電話番がいないのでダメ』と。普段、留守電も併用しているので、支障はないのではと言っても、『留守電はダメ。人が出ないとダメ』と。体調不良で、明日病院に行きたいと申出たときも『明日は来客があるから、来週ならOK』と。病院でさえ、この調子なので、有給申請をすること自体、無駄だとあきらめました。弁論のプロである弁護士相手に言葉で太刀打ちなどできません」
「私は令和◯年分(※編集部で編集)から、雇用主による年末調整をしていただいていません。弁護士として労務事務の知識はなかったかもしれませんが、知る努力もせず、何年も雇用主の義務を果たさなくても、咎める人は誰もいません。(中略)人権を守る、と声を上げる弁護士が運営する法律事務所は、本来、その最先端をいくはずですが、社会の死角になっている法律事務所がここにあることをここに証明します」
「事務職員全体の平均賃金は、労働者全体の平均賃金より大幅に低いと感じています。ベテランの事務職員の給与も、昨今の新卒初任給より低い人も多いのではないでしょうか。私自身、自分より多い給料を受け取っている人間の自己破産(同時廃止)も数多く扱ってきました。虚しさを覚えています」
「個人事務所なので、人数が少ないです。そのため妊娠してもギリギリまで働き、出産後4か月で復帰しました。にもかかわらず時給制にされ、給料を上げるどころか減らされました。0歳の子供を保育園に預けながら時短で働くしかない状況です」
「仕事を終えてチェックだしをしてもそれが確認されるのに1か月かかることがある。一ヶ月たつと事情を忘れてしまうし、依頼者からも『放置されている』とクレームがくる。クレームを受けるのがストレス」
「業界全体の賃金が低いため、私は低いと感じているものの雇主は高い(十分に払っている)と思っている。しかしこの業界で20年以上のキャリアがあり、幅広い業務をこなしているのに、週に半日しか来ない雇用主の妻より給与が低いため、気持ち的に頑張れない。この事務所だけでも1◯年(※編集部で編集)になるが、手取り17万円」
「事務所内にトイレがあるが、弁護士がかなり汚す。清掃も従業員がしているがかなり苦痛。お客様も使うし、綺麗に使ってほしい。手も洗っていないので、その手で記録やら触っていると思うと嫌」
●自分の身分証明書を出したくない
「業務上の手続きで本人確認が必要な場合、弁護士会等発行の身分証(事務所の住所記載)も本人確認資料として認めてほしい。個人の免許証やマイナンバーの提示をしなくてすむようにしてほしい」
「身分証明書の提示を求められた際、事務員職員証ではなく運転免許証が必要となる。自宅住所を記載しているので、提示したくない」
「弁1、事1の小さな事務所です。こちらのアンケート、お手紙を毎年見て、昨年、勇気を出して賃金を上げてほしいと弁護士に伝えることができました。結果、2万円の昇給となりました。物価高、社会保険料の高騰を考えるとまだまだ追いついている感じはしないです」
「年配の男性弁護士から『やっぱり女性は丁寧』『女性脳はマルチタスクに向いている』などの発言があり、誉めているのでしょうが、『女性だから』ではなく個々の能力や成果として評価してもらいたいと感じます。本人にその旨を話しても『個人の感想だから』と一蹴されました。これをセクハラとまでは言いませんが、より良い職場環境のためにジェンダーについて学ぶ機会があると嬉しいです」
「 法律相談の内容が性的相談だった際に、相談終了後に、性的内容を事務員に止めどなく一方的に話し、デリカシーがなく、まるでセカンドレイプのようでした。依頼を受けたわけではないので事務員に話す必要はないし、セクハラだと思いました。他の相談は、詳細を話してはきません」