市長と市議会、市役所幹部職員の対立が泥沼化しているのが大阪市に隣接するベッドタウンの守口市だ。
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大阪府職員出身で大阪維新の会所属の瀬野憲一・市長が、同じ維新の地元代議士が会長を務めるスポーツ協会に補助金などで便宜を図ったという疑惑が浮上、市議会は百条委員会を開いて追及し、瀬野市長への辞職勧告決議を賛成多数で可決。本来は3月までに成立させる当初予算案の可決が8月まで大幅にずれ込むなど、市政が大混乱に陥っているのだ。
その瀬野市長にさらに”パワハラ人事問題”が持ち上がった。
「こんな人事を市政のトップに就いている人物が行なうことは断じて許されるべきではありません。権限の濫用、行政の私物化に他ならない」
本誌・週刊ポストが瀬野市長の取材を進めるなかで、そう証言したのが同市の尾崎剛・水道局長だ。
尾崎氏は8月まで政策部門トップの企画財政部長を務めていたが、9月1日付で長年空席だった水道局長(部長級)に追いやられたと訴えている。市役所の最高幹部職員の1人が、現職市長を名指しで告発するのは異例だ。
「水道局には水道事業管理者という特別職のトップがいて、7年以上、局長など部長級幹部はいなかった。それなのに年度の途中でいきなり異動を申し渡された。通常なら人事異動の時は部長会議が開かれて内示が出る。しかし、今回は8月22日の午後、市長から1人だけ呼ばれて『内示です』と。私のほか、総務部長や人事課長にさえ事前の打診や相談はなかった。”やられたな”と思いました。明らかな報復人事だと」
伏線があった。
市議会で紛糾しているスポーツ協会への補助金問題をめぐって尾崎氏を筆頭とする市役所の部長級幹部8人が今年5月に連名で異例の具申書を提出していた。
きっかけは今年4月、問題のスポーツ協会の元副理事長が、同市の教育委員会のナンバー2である教育監兼教育部長に就任する人事が発表されたことだ。批判の火に油を注ぐような人事であり、市議会側は猛反発した。
部長ら8人による具申書は、市長側近とされる教育長に対して、教育監に起用された人物の異動と、教育長本人の任命責任を含めた体制刷新を求める内容だった。
そして、尾崎氏以外にも、この瀬野市政の人事に異を唱える具申書に名を連ね、教育長からのパワハラを訴えた総務部長が危機管理監に異動になるなど、市政の中枢ポストに関わる人事が行なわれた。
尾崎氏が続ける。
「市長の独断で急に決めた報復人事だからか、私の後任として企画財政部長になった職員は財政課長との兼務です。可哀想に政策部門のトップと財政課長の仕事で事務量は膨大になる。こんな人事は考えられません。必要性もなく、合理的でない異動はパワハラに該当します」
尾崎氏は思い切った行動に出た。瀬野市長からパワハラを受けたとして、正式な「ハラスメント等相談申出書」を提出(8月28日)したのだ。そして条例で設置されている「守口市公正職務等審査委員会」(弁護士や大学教授がメンバーの第三者機関)で、パワハラの事実確認の調査と審議がなされることになった。
ところが、である。
尾崎氏は申し立ての際に、パワハラと訴えた内容の速やかな公表を求めているが、守口市は〈本調査については、事実確認が決定されるまで調査審議の過程の公表は差し控えさせていただきます〉という文書を報道各社に公表し、共同通信が「申し出の内容はプライバシー保護のため明らかにせず、審議過程も公表しない」と報じただけだ。
尾崎氏が本誌の取材に応じたのはこうしたやり方に危機感を募らせたからだと語る。
「今回の補助金問題では、市議会で3月に予算が成立しなかったため暫定予算が繰り返され、必要な事業が遅れて行政サービス、市民生活に大きな影響が及んでしまった。市民はその原因がどこにあるかを知る権利があり、パワハラ被害を申し立てた本人である私も、申立書に内容を公表してほしいとわざわざ明記している。それなのにプライバシー保護を理由に内容も審議過程も公表しないというのは問題を隠したいからでしょう。市長が掲げる『開かれた市政運営』とは真逆です」
市議会から辞職勧告を受けても辞める気がないように見える瀬野市長は、市役所最高幹部である尾崎氏の実名告発にどう答えるのか。
「(第三者機関で)事実確認が決定されるまで事案の内容についてのコメントは、差し控えさせて頂きます」と文書回答した。
市政の混乱は、いつまで続くことになるのか。
※週刊ポスト2025年10月10日号