サンマの豊漁が話題だ。北海道などではあまりにもサンマの水揚げが多く、漁港がパンク寸前の状態に陥る事態にまでなっている。加えて、今年のものは味が良いとも評判だ。読者の皆様も久しぶりの手頃な価格で、脂がのった秋の味覚を堪能されているのではないだろうか。
だが、「よかったよかった」と手放しで喜んでいられるほど、サンマをめぐる状況は単純ではない。秋の風物詩を楽しむ雰囲気に水を差すようだが、その深刻な状況について、ここで改めて考えてみたい。
まずは今年、「豊漁」と言われている背景を探るためにも、近年サンマが不漁傾向にある理由を考えてみたい。サンマの不漁傾向は長期的な問題だが、ここ近年、特に水揚げ量が少なくなっている背景には海の環境変化が関係している。
サンマは比較的冷たい海水を好む魚であり、季節ごとに海を転々としながら生活をしている。春から夏にかけては日本のはるか東の北太平洋で過ごし、季節が秋に傾くころに日本の太平洋沿岸へ来遊してくる。
このサンマの回遊サイクルにおいて重要なのが、北太平洋を北から南に向かって流れる潮の流れ、いわゆる「親潮」だ。サンマは親潮にのって日本近海へやってくるため、この潮の流れの強さがサンマ漁には大きく関わる。
だが、2000年代以降、何らかの理由によって親潮の流れは弱くなる傾向をたどっている。そうなると、サンマの漁場となるはずの北海道の東の海域に、「暖水塊」と呼ばれる海水温の高い海域が生まれ、冷たい海水を好むサンマは日本近海へ来遊しづらくなる。
つまり、近年はサンマの漁場が太平洋の東側、日本から見ると沖合へ移動してきているのだ。「それなら沖合まで獲りに行けばいいじゃないか」と思われるだろうが、話はそう簡単ではない。
北海道の港から1000km以上離れた漁場まで行ける漁船は限られることに加え、日本ではサンマを船上で冷凍処理せず、「生」の状態で水揚げすることが一般的だ。そのため、遠くの漁場まで行ってしまうとサンマの鮮度が良いうちに水揚げすることが難しくなってしまう。
サンマの漁場が沖合に移動すれば、周辺国との関係も重要になる。なぜなら、日本の沿岸から200海里(約370km)以上離れてしまうと、そこは日本の排他的経済水域ではなく、各国が自由に漁業活動可能な「公海」となるためだ。
実際、北太平洋のサンマ漁場となっている公海では、日本の他に、台湾、中国、韓国などの漁船が漁業活動をしている。
これまで近海の漁場で日本がサンマ資源を独占できていたころとは違い、公海上では各国とサンマ資源を共有することになる。その結果、日本が漁獲できるサンマの量は減ってしまっている可能性があるのだ。
ではなぜ今年のサンマは豊漁といわれているのか? 実は、その背景にも、この公海上での動向が関係している。
北太平洋でサンマ資源を共有している各国は、NPFC(北太平洋漁業委員会)という組織で協議をし、年間の漁獲量に上限を設けている。この漁獲量の上限に達してしまうとその年のサンマ漁は終了せざるを得ず、実際に2024年はこのルールにのっとりシーズン途中で漁が打ち切られた。
2024年のサンマ漁に規制が効いたことを踏まえ、水産資源管理に詳しい片野歩氏は「例年なら獲られていた分のサンマが産卵したり、次の漁業対象になったりした」とも指摘している。今年、日本の漁船が例年以上にサンマを漁獲できている背景にはこうした公海上での事情が関係している可能性が高い。
また一部報道では、早くも今シーズンの漁獲枠を使い果たした中国漁船が南米の漁場へ向かっており、これが好調な水揚げ量の要因という地元漁業関係者の指摘が紹介されている。
いずれにせよ、今年のサンマ事情には、こうした公海上でのルールに関する動きが影響を与えていると見るべきだろう。
・・・・・・
【つづきを読む】『「今年のサンマは豊漁」、実は錯覚だった…《水揚げは15年前の半分以下》データが示す“歴史的不漁”の現実』
【つづきを読む】「今年のサンマは豊漁」、実は錯覚だった…《水揚げは15年前の半分以下》データが示す”歴史的不漁”の現実