SNSを一触即発の“地雷原”に変えた「叩き活」の正体…「推し活」よりも“嫌いな相手を叩く”ことに快感を覚えるのはなぜか

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日本は世界有数の安全安心な国である。夜道を歩いていても、暴行の現場を見かけることがないし、またその被害に遭うことも滅多にない。いきなり見知らぬ他人から暴言を吐かれることもない。しかし、暴言が日常茶飯事的に飛び交い、他者への誹謗中傷が行われている空間が日本にもある。
それはSNSである。Xでは毎日のように“炎上”が発生し、「仕事を辞めろ!」「謝罪しろ!」などと、日常ではまず耳にしないような口汚い言葉が書き込まれている。目を疑うような罵詈雑言でSNSに暗い影を落としているのは、“叩き活”と呼ばれる、他者を叩くことで快楽を得る人たちの存在なのだという。【文・取材=山内貴範】
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アイドルやアニメキャラなど、好きな存在を応援することを“推し活”と言う。推し活は“陽”とか“正”のエネルギーが原動力となるが、叩き活はその真逆で、他人を叩くことに快感を覚えることであり、“陰”や“負”のエネルギーが原動力である。もっとも、正義感が強いがゆえにマナー違反をした人を叩く事例もあるため、正のエネルギーも行き過ぎると途端に負に転じ、叩き活になってしまう危うさもある。
叩き活という言葉自体は以前からあったが、近年注目されるようになってきたのは、それだけSNSの治安が悪化していると感じる人が増えているからに他ならないだろう。
叩き活について言及したライターの笠希々氏によると、「一部には加害を望む人がいて、“好き”に群がるより“嫌い”に群がる方が快楽になっている」のだという。そして、「自分が嫌いなものって、本来は“視界に入れない”のが一番楽なはず。でも今の叩き活は逆で、ブロックするんじゃなくて“監視”して叩くネタを探している」と分析する。
叩き活は叩くほうだけが問題なのではない。叩かれる側が過剰に反応することにも問題があり、炎上を加速させている要因になっていると、笠氏は分析する。「互いがヒートアップしていくことで、ただの口論が一線を越えて事件に繋がりそうな怖さがある」と述べ、「SNSは気軽なはずなのに、今や地雷原みたいになっている」と危惧している。
さて、叩き活が行われた実例を挙げてみると、直近だけでもあまりに数が多いので驚かされる。例えば、9月14日、WEBメディアのKAI-YOUに「『ぼっち・ざ・ろっく!』『虎に翼』の脚本家吉田恵里香が語る、アニメと表現の“加害性”」という記事が掲載された。8月16日に開催されたイベントで、吉田氏が原作の一部の描写を「ノイズ」と表現したというものだが、瞬く間に騒動となり、吉田氏への叩き活が始まった。
そもそも、「ぼっち・ざ・ろっく!」原作者のはまじあき氏と吉田氏は良好な関係を築いていたし、筆者が記事を読んだ限りでは、問題になる点は見当たらなかった。ところが、脚本家が原作を改変したことで原作者が自殺したという「セクシー田中さん」問題と結びつけ、脚本家の仕事を叩く人が続出したのである。しかも、この叩き活に参加したのは一般人だけでなく、著名人も少なくなかったことが衝撃的であった。
飲食店に対する叩き活は頻繁に起こる。9月18日、埼玉県内にあるラーメン屋の店主がとった態度を不満に感じた客が、Xに店名を書き込んだところ、大炎上。当事者と無関係な人までもがXに書き込みを始め、店主の過去のポストを発掘しては、糾弾を繰り返している。店主に落ち度はあったかもしれないが、ここまで追い詰められるようなことをしたのかというと、疑問が残る。
大阪・関西万博にコスプレをして来場した女性に対する叩き活は、今も続いている。当初は、コスプレで万博に来場することの是非を考える議論があり、なかには冷静でまっとうな批判や意見も見られた。しかし、今ではこの女性に対する個人攻撃が盛んになっており、容姿などを中傷する叩き活がエスカレートしている。
笠氏は、叩き活勢にとって、相手が謝罪することは、「推し活でいうファンサや握手した時の感覚に近い」と分析する。そして、「自分が叩いたことで相手が反応したら、認知された! っていう快楽になる。ある種、これも歪んだ承認欲求なのか。行き場のない承認欲求を推し活ではなく叩き活で満たしているのかもしれない」と述べている。
このように、叩き活勢は企業や個人を“謝罪”させることで、快楽を得ている。叩かれた側がひとたび謝罪すると、叩き活勢に成功体験を与えてしまう。こうして、相手はますます増長してしまうのだ。叩き活勢は企業にとってはモンスタークレーマーやカスハラに近いものがあり、付き合い方を検討しておくべきであろう。
筆者は“マスゴミ”と呼ばれる立場なのでしょっちゅう叩き活のターゲットになるし、炎上は慣れっ子である。しかし、マスコミや著名人だけでなく、ラーメン屋の店主やコスプレイヤーなどの一般人も叩き活のターゲットにされる可能性が高くなっている。万が一、叩き活に遭った場合には、どのように対処すれば良いのだろうか。
結論は、無視することである。炎上は基本的に3~7日もすれば鎮火するのだから、自分が悪いことをしていないのであれば、放っておくのが良い。反発したくなる気持ちはわかるが、黙って無視するべきだ。反論も述べるべきではない。前出のWEBメディアのKAI-YOUの炎上も、編集者が直後にコメントを書いてしまったために、さらに火に油を注ぐ結果になってしまった。
叩き活勢は叩くことが快楽なのであり、もともとそのコンテンツに興味がなかったり、縁がなかったりすることがほとんどだ。手当たり次第に叩けるターゲットを探しているのだから、黙っているのが一番の対策になるのである。Xに反論を書き込むと、そのぶん叩き活が行われる期間が延びてしまう。黙って沈黙するか、Xを離れるか、無視するのが鉄則である。そうすればいつの間にか鎮火する。
しかし、叩き活の被害にあった人が著名人やある程度の社会的立場にいる人だと、その“信者”たちを動員し、加害者を叩かせようと扇動する例もある。やられたらやりかえすということなのだろうが、果たしてその行動は正しいのだろうか。かつての誹謗中傷の問題のように、叩かれた側だけが一概に悪いとはいえない事例も増えているため、叩き活は一層複雑な問題になっている。
自分が叩き活をする側にならないようにするには、どうすればいいのか。筆者は、正義感の強い人ほど叩き活を始める傾向が強いと考える。ゴミをポイ捨てしたとか、喫煙スペース以外で煙草を吸っていたとか、小さなルール違反も許せなかったりするためだ。まずは、ポストやリポストをする前に落ち着くことが大切である。
また、著名人のなかには攻撃的で強気の発言をウリにする人も存在する。そういった著名人のファン、すなわち“信者”は知らず知らずのうちに叩き活をしているケースが多い。著名人の発言に乗じて相手を攻撃することで、自分も強くなったと錯覚し、快楽を得ているのだろう。しかし、何かあっても、著名人は信者を守ってはくれない。いくらリスペクトしていても、批判的な発言に何でも同調しないように心がけるべきである。
ライター・山内貴範
デイリー新潮編集部

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