デイリー新潮では、鉄道の写真を撮影する“撮り鉄”が、線路沿いの草や樹木を無断で撮影し、沿線住民や鉄道会社とトラブルになっている問題について報じた。これを読んだあるJRグループの現役女性駅員A氏から情報が寄せられた。なんと、鉄道会社の“女性社員”を無断撮影し、写真をコレクションするという、とんでもない撮り鉄がいるのだという。
ネットでもほとんど話題になることはないが、A氏は、「後輩から“いきなり撮影された”と相談を受けることもあり、問題になっている」と打ち明ける。たとえば、飛行機に乗った際にCAを、コンビニで女性店員を無断で撮影することを想像すれば、それがどれほど異様な行為か理解できるはずだ。もはや撮り鉄、というより“盗撮鉄”のような存在について情報を提供してくれたA氏に、その実態を聞いた。【取材・文=宮原多可志】
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――女性社員を無断撮影する撮り鉄は、以前から存在していたのか。
A:女性の乗務員や駅員が珍しかった時代からいたと聞きますから、最近出現したわけではないようです。私は現在30代なのですが、以前は肖像権についての意識はなく、「嫌だが、仕方ない」「仕事中に撮られても、業務中なので強く言えない」という感覚でした。
しかし、先日、20代の後輩から「乗務員の盗撮について、会社側が対策を取ってくれない」と悩みを聞く機会がありました。カスハラやセクハラが問題になっている時代です。こういった盗撮も一種のカスハラに当たるのではないかと、問題提起する時期に来ているのでは、と感じました。
――Aさんの後輩が実際に遭遇した事例は、どのようなものか。
A:ある撮り鉄が、「〇〇口はどこですか? カプセルホテルはどこですか?」などと、注意を引く質問をしてきたそうです。そして、後輩が振り向いた瞬間、フラッシュを焚かれた。また、動画も撮られていたといいます。その場で注意して消させたそうですが、その後もしつこく質問をして注意を引こうとしていたのだとか。
注意をしてからも執拗に撮影をしようとするので、とても怖かったそうです。私は、「場合によっては警察を呼ぶから、一人で対応し過ぎないで」と声をかけました。女性の乗務員や駅員が増えてきていることもあって、こういった無断撮影に関する相談を受けることは増えた気がしています。
――今の事例はどう考えても盗撮だし、問題のある行為と感じる。
A:ほかにも、アジア系の外国人が乗務員だけでなく、周りの一般旅客も動画撮影しまくっていたので注意して消させたところ、「日本は厳しいですね」とヘラヘラしながら言っていたそうです。そのほかにも、「撮らせて」と一言も言われず、気づいたら撮られているパターンが頻発しているそうです。
ちなみに、私も無断撮影に遭ったことはもう、何度もあります。日頃から、撮られていると気づいたら声をかけて、消させるようにしています。しかし、気づかないうちに撮られていることはきっと多いんでしょうね……。
――今もあるかもしれないが、かつてネットでは女子高生を盗撮して画像を共有するコミュニティがあったと聞いている。乗務員、駅員の盗撮を行う人のコミュニティのようなものはあるのか。
A:私がネットで個人的に調べたところ、女性乗務員や駅員の写真や動画をアップロードし、共有するコミュニティがあることがわかりました。既にお話ししたように、昔から女性乗務員を撮る人は存在していたのですが、まさかコミュニティとして存在していることは知りませんでした。
後輩は、「知らない人のスマホやパソコンに、自分の写真や動画があるのは気持ち悪い」「何に使われているのかわかったもんじゃない」と憤慨していましたし、同時に不安を覚えていました。そもそも、女性乗務員の写真コレクターがいるって、冷静に考えて気持ち悪すぎるので、なんともいえません……。
後輩から、駅にそういった注意喚起をするポスターがあるかと聞かれましたが、カスハラ対策のポスターに「無断アップロードはカスハラです」と軽めに書かれているくらいです。これは駅員に無理難題を要求して謝罪させ、その様子を撮影してアップロードしないでほしい、というものだと思います。盗撮までは想定していない気がします。
――その一方で、撮影の許可を求めてくる人もいるのか。
A:うちのエリアは田舎なので、発車まで時間があったりする時に「撮らせて」と声を掛けられることがたびたびあります。私もかつて、おじさんが一声かけてきたので、渋々撮らせたことがありました。すると後日、後輩経由でそのおじさんから写真とお菓子が届いたことがありました。
後輩曰く、おじさんから「本人に渡してほしい」と言われ、託されたのだと。おじさん的には親切心があったのかもしれませんが、今考えればめちゃくちゃなモラルですよね。
――撮影されやすい女性社員の特徴はあるのか。
A:やはり……、ビジュアル的に映える人だと思います。また、駅員の制服に興味をもつ層もいるようです。例えば、東京オリンピックを機に制服で男女の帽子の区別がなくなり、希望した形の帽子を配られるようになったときのことです。その際に官帽を選んだ女性乗務員は、めちゃくちゃ撮られていましたね。
自分も顎紐が出しやすいという理由で官帽を選んでいたので、制服が変わった頃はよく撮られていました。カメラを構えている人がいて、「あ~、こいつ撮っているなあ」というのはわかっていましたが、そのときは慌ただしく、もはや注意するのがめんどくさいので、無視しましたが。
――今後、乗務員や駅員の盗撮に対する議論が巻き起こりそうだ。
A:一概に、マニアだからダメとはこちらとしても言えませんし、お子さまなどには快く撮影に応じたい乗務員もいますから、線引きが難しいですよね。ただ、強く訴えたいのは、乗務員や駅員の“無断撮影”はやめてほしいということです。嫌がる人には撮影を強制しないようになって欲しいです。
私たちも立場上、本音は嫌でもなかなか強く言えないこともあります。写真を撮られて、心の底から喜んでいる人は少数派であると思っていただきたい。ましてや、断られたり注意されたからといって、暴言を吐いたり、恫喝するなどの行為は慎んでほしいと思います。
――これは御社だけで起こっている問題なのか。
A:他の鉄道会社の乗務員や、航空会社のCAはどうなっているか、私も興味があります。聞いてみていただいた方が良いかもしれません。おそらく、鉄道会社では同じように苦労している方が絶対にいると思っています。
駅での盗撮というと、スカートの中を撮影するなどのイメージを思い起こす人が多いかもしれません。しかし、女性乗務員や駅員を無断撮影する人もいること。そして、お客様の姿を撮影している人もいるということ。こういった行為が相次げば、写真撮影に規制がかかる可能性がありますし、写真を趣味とする人全体のイメージ悪化は避けられないと考えています。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部