和歌山県で男性信者のAさん、Bさん2人に自殺をそそのかし、死亡させたなどとして逮捕された自称占い師・濱田淑恵被告。その信者である滝谷奈織(なぽり)被告は自殺ほう助などの罪に、寺崎佐和子被告は有印私文書偽造・同行使などの罪に問われ、それぞれ逮捕・起訴されていた。そし9月10日、滝谷、寺崎両被告の第2回公判が大阪地裁で開かれた。
【写真】「信者の前で性交を見せつけ…」送検される濱田被告。2008年当時に開設していた“異様すぎるホームページ”
信者だった両被告は、”創造主”を自称する濱田被告の強い精神的支配の下にあったといい、濱田被告の指示のもと、入水自殺の幇助や被害者の遺書の偽造などの犯罪に加担した。濱田被告は信者の前で性交してみせるなど、常軌を逸した行為をすることもあったという。
両被告はなぜ濱田被告に「ハマった」のか。2人は公判で、創造主との異様な信仰生活について明かしたのだった。裁判ライターの普通氏がレポートする。【全3回の第2回。第1回から読む】
被告人質問では、2人が濱田被告に傾倒していくまでの経緯が語られた。
寺崎被告は、幼少期からコミュニケーションに不安を持っていたという。高校を卒業し、リハビリテーションの専門学校に通ったが中退。実習で、患者を実際に担当することで、その患者の人生に関わることに恐怖を覚えたためだった。中退後は目標を失い、引きこもり状態になったこともあった。
その後、複数の職を経験するが、コミュニケーションを取るのが苦手でうまくいかなかった。改善すべく、心理カウンセリングを受けたり、スピリチュアルの本を読んだり、セミナーに参加したりしていたという。
このセミナーで、「大阪に”創造主”がいる。大天使ガブリエルのカウンセリングを受けてみたらどうか」と寺崎被告を誘ったのが、滝谷被告だった。そしてこの「創造主」「大天使ガブリエル」というのが、濱田被告だった。
寺崎被告は電話カウンセリングで「そんなに心配しなくて大丈夫」、「神様が何とかしてくれる」といった言葉を受けたという。そして、濱田被告と対面で行われたカウンセリングについて、当時の感動を思い出すようにこう振り返るのだ。
寺崎被告「”創造主(濱田被告)”にお会いして、瞬間的に”魂の父”だと…。父(濱田被告)が『やっと会えたな本当の娘』と抱いてくれて、私は涙を流しました。本当に神がいるんだと」
一方、滝谷被告は、濱田被告と出会った際の様子について「パワフル、ユニークで、吸引力があって魅力があった」と表現した。傾倒したのは、次のような経緯だったという。
滝谷被告「今でもトリックはわからないが、(濱田被告を)神と思ったのは霊能力みたいなもの……まるでホラー映画のワンシーンのような、恐ろしいことが起きて。それで、やっぱり神様なんだ、逆らったら何が起きるかわからないと思った」
経緯は異なれど、2人とも徐々に濱田被告の心理的な支配下に入っていく。そこからの生活はさらに特異なものであった。
滝谷被告によると、濱田被告は「信者同志で結婚する指示、そしてそれらを解消する指示」などを出していたという。住居についても住む場所を指示し、反抗しない人物ばかりが近くに集まるようになった。反抗した信者は「財産を置いて東京へ帰れ」と指示されていたという。
家族への連絡も許されておらず、「肉体の家族より、精神の家族の方が上」として、濱田被告との関係性を重視させた。
滝谷被告によって、当時の様子が具体的に語られる。
弁護人「濱田被告からは、どんな指示があったのですか?」滝谷被告「濱田被告の周りにいるメンバーは、誰と結婚しろなど指示をされて、ある日にはいきなりそれを解消しろと言われたりで、関係性を決められていました」
弁護人「それらに際し、信者の心情は考慮されてたのですか?」滝谷被告「無視されてました。濱田被告からは、『(指示の理由は)神しか知らない』と絶対命令でした」
濱田被告の指示はもちろん異常なものであるが、指示通り動く信者の濱田被告への心酔の様子にも驚かされる。
人間関係など選択肢を制限することで、徐々に思考の制限をする。「神には『ハイ』としか言えない」とも表現した。不合理を感じる様子を見せると、濱田被告からは叱責され、暴力でコントロールされた。滝谷被告も暴力を受けることもあったが、徐々に従うことしかできない思いに変わっていったという。
強い支配を受けていた滝谷被告であるが、Aさん、Bさんが亡くなった今回の事件を境に、時間をかけて離脱したと供述する。
反抗心を見せた際は、馬乗りになって40分ほど殴る蹴るの暴行を受けた。「神に背いているのに気付かないのか」などと長く叱責され、部屋に閉じ込められたこともあったが、最終的に濱田被告のもとから出ていくように指示された。
グループを抜けてもなお洗脳は続いており、「とんでもない目に遭うのではないか」と、濱田被告に怯えながらの生活が続いた。実家に帰っていたが、常軌を逸した話を聞かせるのも恐ろしいと、周囲に話せずにいた。しかし、カルト救済を専門とする弁護士の情報を見て、これまでの環境に当てはまることが多いことに気付き、また事件発覚後に警察と話すことによって徐々に洗脳が解けたという。
弁護人「事件を通じて何か言いたいことはありますか?」滝谷被告「とんでもない人間の指示通りに動いてしまい、ご遺族はじめ関係者全てが不幸になりました。なんという集団にいたのかと…」
弁護人「(行為をその集団にいたことによる)言い訳にしていませんか?」滝谷被告「そもそも、私がとびついてしまったのが過ち、私の軽率さが原因です」
被告人両名によって、事件当日何が起きたか供述されていく。それらは、これまでの説明の通り複雑怪奇なものであると同時に、単純に悪意という言葉では表現しきれない底知れない恐ろしさを感じる内容であった。
(第3回につづく)
◆取材・文/普通(裁判ライター)