田久保眞紀市長(55)の学歴詐称問題で注目を集めている静岡県・伊東市。これまで市役所に寄せられた苦情の電話やメールは、7000件を超えるという。疑惑が発覚した当初こそ、田久保市長は辞意を表明していたが、7月末の会見で突然翻意するなど、市政の混乱が続いている。
地元の財界などから早期退陣を求められ、9月1日には不信任決議案が全会一致で可決されるなどまさに四面楚歌となるなか、田久保市長は活発にSNSを更新し、世論へアプローチしている。8月16日には、《今回の騒動の全容がやっと見えてきました。事実関係に基づいてその目的を明らかにしてきます》などと陰謀論を匂わせる投稿を行っている。
「就任してからわずか1ヵ月で学歴詐称問題が表沙汰になった。田久保市長が公約として掲げていた新図書館建設の中止やメガソーラー設置の撤回に反対していた者たちがリークしたのではないか、と市長が疑う気持ちもわからなくはありません」(地元財界の関係者)
田久保市長は7月2日の会見で「除籍だった」と述べたものの、市議会の百条委員会では論点の噛み合わない回答を続けている。伊東市で今、何が起きているのか。住民は一連の問題をどう感じているのか。現地を訪れ、生の声を拾った。
「今年5月の市長選に出馬した際、田久保市長には主だった支持団体や政党などバックボーンがなかった。それが逆に、昨今の自民党や公明党への不信感を抱く住民の支持を集め、大きな選挙運動を展開せずとも“勝ってしまった”のです。30年以上も自公系の市長が続き、議会の6割を自公で占める伊東市ではきわめて異例の出来事です。これまでの市政に住民が不満を抱えていたことの裏返しでもあります」(市議会関係者)
特定の政党色がない田久保市長の当選は大きなインパクトを残した。市民の支持を受けて強引に政策を進めようとした市長と、市政・議会との間に亀裂も入り始めた。新図書館建設の中止やメガソーラーの設置の撤回を巡る対立がその代表的なものだ。前出の市議会議員がこう続ける。
「彼女は一言で言えば非常に頑固な人。ブレーンもおらず、相談できる人も周囲にほとんどいないので一層、頑(かたく)なになっているように映ります。はっきり言って、市長の言動や対応は下手と言わざるを得ません。特に卒業証明書はあると断言しておきながら、いまだ公開を拒んでいる。ただ、全員で彼女に石を投げるような状況には違和感もある。市長としての実務能力なども、まだまだ不透明ですから」
伊東市は海と山に囲まれ、観光資源が豊富な地域である。街を訪れると、海水浴やアウトドア目当ての観光客の姿が目立つ。だが、中心部の商店街は寂れ、活気に乏しい。街中には、「隣接する熱海市が官民一体で観光地として復活して賑わっている。伊東とは大きな違いですよ」と自虐的に話す者もいた。
食事を取ろうにも、一部の大型施設を除くと飲食店はまばら。駐車場などの設備を含めた観光インフラの側面で見ると、観光地としては厳しいと言わざるを得なかった。地元商店の店員はこう嘆息する。
「『大型の道の駅だけ栄えたらいい』という政治的な空気を感じてしまう。豊富な観光資源を活かせておらず、インバウンドの恩恵も少ない。遅くまでやっている店が少ないので、深夜まで営業している店はどこも混む。観光客や地元民は困っています」
伊東市は、静岡県下で所得が最も低い市の1つで、長らく県下で生活保護受給率がトップであった地域でもある。伊東に長く住む老人は、記者にこう訴えかけた。
「結局、誰がなっても同じだね。(田久保)市長には期待していましたが、嘘や逃げはよくない。生活が政治で変わるという期待感がこの地域にはない」
抜本的な変化を求める市井の人々の思いが投票に反映されるというのは、昨今の国政の選挙戦にも重なる部分が大きい。政治と市民感覚の間に埋めがたいズレがあるのだ。
「誰がなっても私たちの生活は変わらない、という諦めに近い意識を市民の方から感じます。いまだに、特定の業界を対象とした政治資金パーティーが行われるような古い体質の地域ですから。そこへ政党色がない田久保市長が突然現れた。市民には、これまでの政治への憤りが根本にあったんです。
図書館を豪華なものにするために40億円もの税金を使うなら、インバウンドなど観光への”投資”に回して地域が潤うような政策に回してほしいという意見は根強い」(前出・議会関係者)
前出の商店の関係者に騒動後の現状を尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「長期の自民政権から市長が変わり、田久保さんになってやっと変わるかと期待していましたが、伊東は悪い意味で有名になってしまった。一方的に、過激に市長を攻撃する“反対派”にも違和感がある。いずれにしろ、一連の騒動に対して言えることは“住民感情が置き去りになっている”ということ。迷惑でしかないので早期解決を願っています」
一刻も早く健全な市政に変わっていく。それが伊東市民の望みだ。