「殺しにいく」「家に火をつけてやる」反ワクチン派から誹謗中傷の嵐→殺害予告も…SNSで大炎上した現役医師(50)が明かす、ネットリンチの恐怖

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X(旧:Twitter)でコロナ禍の医療現場の状況や感染対策について発信する一方で、無数の誹謗中傷を受けてきた埼玉医科大総合医療センターの岡秀昭教授(50)。
【変わりすぎ!!】まるで別人…ハゲ→フサフサに大変身した岡秀昭教授50歳の“ハゲ時代”を写真で見る
「不毛な誹謗中傷との戦いを有毛に変える」と宣言して誹謗中傷の投稿者たちを訴え、彼らからの慰謝料で増毛したという岡氏に、誹謗中傷の嵐にさらされたときの様子、家族にまで及んだ危害、警察の対応などについて、話を聞いた。(全2回の1回目/2回目に続く)
岡秀昭教授 石川啓次/文藝春秋
◆◆◆
――X(旧:Twitter)での発信を本格的に始めたのは、やはりコロナがきっかけですか。
岡秀昭(以下、岡) アカウント自体は、かなり前から持っていました。2017年あたりかな。ただ、コロナ禍以前は完全にプライベート用のアカウントで、誰かをフォローしては投稿を見るくらいで。自分からなにかを発信することはほとんどありませんでした。
開いた当初は、フォロワー数もいまみたいに2万以上なんていなかったですね。そのアカウントは、誹謗中傷で閉じざるをえなくなるんですけど。

――それまでのアカウントの空気が、コロナ禍を機に変わってしまった。
岡 そう、2020年になってからです。コロナの第一波から感染した患者さんを診て、メディアからの取材依頼が大学に来るようになりました。当時の病院長から「先生、マスコミの取材を一元的に受けてくれませんか」と言われて。それで感染症の専門家として、医療現場の状況を伝えることになったんですね。
――病院からの要請だったのですね。
岡 病院の公式的な立場として動いていたわけです。せっかくメディアに出るなら、より多くの人に現場の状況、とくに当時は不透明だったコロナの実態を伝えられたらなと。
どんな症状が出る感染症なのか。私が実際に現場で見聞きした真実を、自分の言葉で伝えようと思いました。そのツールとして、最も拡散力のあるXを本格的に使いはじめたんです。
――情報の発信が目的だった。
岡 メディアに出演したさいの内容も拡散したりするうちに、Xのフォロワーはどんどん増えて、以前のアカウントでは8万人近くまでいきました。
――リプライに誹謗中傷が目立つようになったのは、いつくらいから。
岡 スタートしたとたんに飛んできました。最初は戸惑いましたよ。いままでそんな経験がなかったので。SNSをやっている知人に「Xってこんなにひどいこと言われるの?」と聞いたら、「フェイスブックはぬるま湯で、Xは修羅場ですよ」と返されて。
そのころから、SNSにおける匿名性の問題も感じていました。面と向かっては絶対に言えないようなことを、平気で言えてしまう。「これは危険だな」って。
――初期の誹謗中傷は、どのような内容でしたか。
岡 まだワクチンも治療薬もない頃ですから、「コロナはただの風邪だ」「陰謀だ」「人工ウイルスだ」といったものが多かったですね。治療薬やワクチンの話が出てくるようになると、科学的根拠のないイベルメクチンを熱狂的に信じる人たちや、行動制限に反対する人たちからのリプが集まるようになって。
そしてワクチンが普及しはじめると、反ワクチンを掲げる人たちからの誹謗中傷が激しくなっていきました。

――1日にどれくらいの誹謗中傷が?
岡 最初のころは、40件か50件くらいですね。いまも毎日20件くらい来てます。トータルでいったら、5000件は超えていますよ。
――ヤフーニュースの公式コメンテーターも務めていましたよね。
岡 ヤフーニュースに書き込まれるコメントがひどかった。そことXでひどいことを言ってくるのは、たぶん同じ層なんですよ。大学から「コメンテーターもやってくれないか」と頼まれたとき、イヤな予感はしたんです。でも、サイト側は「ひどい投稿は速やかに削除しますので」と言ってくれたので。
――ちゃんと削除を?
岡 しっかりと削除してくれました。ただ、ヤフーニュースに載った僕のコメントを気に入らない人たちが、Xに転載するんです。そうすると、今度はXで一気に炎上する。
よそに転載されると管轄外になるから、サイト側は対応しようがない。ヤフーニュースに誹謗中傷を書き込んだ人たちがXに引っ張られて、炎上が増幅される。そんな状態だったので、コメンテーターは1年で退任しました。
――病院に相談などは。
岡 ひどいものに関しては報告していました。取材を受けて、なにかを話すたびに荒れるので「先生、そろそろ取材を受けるのは控えましょうか」という話にもなりました。コロナ禍のピーク時は、1日に新聞やテレビを合わせて6、7件の取材を受けることもあったんですよ。NHKの取材クルーなんて、ずっと病院にいましたから。

――それだけ現場の情報が求められていた。
岡 埼玉のこの地域で、最初にコロナ患者を受け入れたのがうちの大学病院で、一時期はうちしか受け入れる病院がなかった。だから軽症者から重症者まですべて運ばれてくるので、取材するには絶好の場所だったわけです。
――これほどの誹謗中傷を受けると想像していましたか。
岡 まったく。メディアの人間じゃないですから、そういう状況になってみるまでわかりませんでした。テレビなどに顔を出すというのは、そういうことなのかもしれないですけど。
――メディアやSNSが、ギリギリのところで身を守る壁になっていたところも。
岡 むしろメディアがあってよかったと思ってます。もちろん玉石混交ではあるけど、NHKさんを中心に頑張って取材して、正しい情報を発信してくれたので。
これが100年前だったら、僕は反ワクチンを掲げる人たちから私刑を受けていたんじゃないかな。病院も焼かれてたんじゃないかなと思いますよ。
――病院に凸してくる人などは。
岡 リアルで病院にまで来てしまうと、本当に警察に捕まりますからね。そのあたりを理解しているのか、乗り込んでくるような人はいなかったです。でも、病院に手紙を送ってきたり、悪い口コミを流されたりはしましたね。
この埼玉医大のSNSやグーグルマップに「岡を懲戒処分しろ」「岡はとんでもないことを言う医者だ」などと書き込まれました。
なんだか、コロナよりも人間のほうが怖くなりました。不安に駆られた人間の心理や行動が、一番怖かった。

――誹謗中傷をするアカウントを訴えるきっかけになった出来事はあったのですか?
岡 それまでは、私個人への揶揄や挑発、中傷があっても、あえて見ないようにしたり、ブロックしたりして耐えていました。しんどかったですけど、現場も忙しかったし、コロナ禍によって生じる社会的なストレスの一部だと割り切ろうとしていました。でもある時、家族の写真が拡散されたんです。
――拡散はどういうふうに。
岡 コロナ禍になってからずっと休みを取っていなかったので、子どもたちの春休みに合わせて海外旅行に行ったんですよ。2023年5月から5類に移行することが決まっていて、医療現場も落ち着いていた時期でした。その旅行中に撮った家族写真を、プライベートで使っていたインスタグラムに投稿したんです。
――それを流された。
岡 妻と一緒に写っている写真です。インスタを見た人がそれを見て、無断で写真をXに転載したんです。転載された直後に、私がコロナに感染してしまった。すると、「海外旅行でマスクも着けずに遊んでいたからだ」「国民に自粛を強いておきながら、自分はセレブ旅行か」と、ものすごい勢いで炎上したんです。
――旅行ぐらい贅沢したいものですけどね。
岡 泊まってもいない高級ホテルの名前を挙げられ、「ワクチンで儲けた金で行ったんだろ」と。セレブもなにも、飛行機はマイルを貯めたエコノミーですよ。でも、そんなことは関係ないんですよ。写真一枚で勝手なストーリーが作られ、妻の容姿に対する侮辱まではじまった。いわゆる集団リンチの状態です。家族まで攻撃対象になったのを見て、「これはもうダメだ」と。そこで一度、Xのアカウントを消しました。
それまでは「自分ひとりの問題だから」と耐えられた部分もありましたけど、さすがに家族が巻き込まれたのは許せなかった。

――住所も特定されたそうですが。
岡 僕が書籍の執筆や講演で得た収入を管理するために、妻が代表のプライベートカンパニーを持っていたんです。その登記上の住所が、当時住んでいた自宅のマンションでした。製薬会社が公表している講演料の支払いリストから、その会社名を見つけ出した人がいて。
――そこから住所が割り出された。
岡 法務局で調べて、自宅の住所を突き止めたんです。そして、うちのマンションの外観写真をネットのマップから転載して、「事務所らしくない建物ですね」「そういえば……〇〇県在住」「節税対策!」と住所であるとわかるように投稿を拡散していました。
僕が「人の住所を公開するな」と抗議すると、「おまえが自分で登記したんだろう、自爆だ」「公開情報だ」と開き直る。向こうは悪意を持って個人のプライバシーを晒しているんですけどね。
――身の危険は感じませんでしたか。
岡 Xで「家に火をつけてやる。おまえも家族もまるこげだ」「おまえの家に遊びに行ってやる」といった投稿が繰り返されました。さすがに怖かったですよ。
妻も「早く終わらせてくれ」と。子どもたちが学校でいじめられるんじゃないかと心配もしていました。一番つらいのはそこですね。家族に不安を与えてしまうことが。

――警察に相談は。
岡 何度も行きました。でも、警察の対応は驚くべきものでしたね。まず、プライバシー侵害、つまり住所の公開自体は刑事罰の対象ではない、と。「ひどいですね。でもこれは民事不介入です」と言われるだけ。脅迫にあたる投稿を見せても、「これだけではすぐには動けない」と言うんです。
それどころか、3回目の被害届を出しに行ったとき、警察官にこう言われたんです。「お宅、これで3回目ですよね。先生のほうで自衛してください」と。
でも、そう言われている間に「おまえを殺しにいく」なんて書き込まれてるわけです。
撮影=石川啓次/文藝春秋
〈「おまえから取った慰謝料で増毛してやる」SNSで“ハゲ”と誹謗中傷された医師→慰謝料でフサフサに大変身…岡秀昭教授(50)が語る、髪の毛を増やした経緯〉へ続く
(平田 裕介)

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