陰謀論流布で賛同者急増、寄付7200万円集め一部私的流用…全国で反ワクチンのデモ

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「コロナワクチンは人口削減が目的だ」。
そんな陰謀論をネット上で流布し、接種を妨害する活動をしていた「神真都(やまと)Q会」代表の男が、生活保護費を詐取したとして逮捕、起訴された。大阪府警によると、会として多数の賛同者から約7200万円の寄付金を集め、男が一部を私的に流用していたという。どのような方法で集金していたのか。
■ウェブで呼びかけ、振込先は個人口座
会の設立は2021年12月。米国で「ディープステート(闇の政府)が世界を牛耳っている」と主張し、悪と戦う救世主としてドナルド・トランプ氏を信奉する「Qアノン」と呼ばれる集団に共感しており、その日本支部を自称している。
東京に事務所を構え、全国で接種中止を求めるデモを展開。ユーチューブなどで「ワクチンは殺人行為。子どもたちを救おう」「特別な遺伝子を持つ大和民族が立ち上がろう」などと発信すると、中高年を中心に賛同者が急増した。LINE(ライン)の「オープンチャット」の登録者数は1万人を超え、全国一斉のデモに計約6000人が参加したこともあった。
今年2月、ウェブサイトで寄付の呼びかけを開始。大阪府警によると、7月頃までに1044回の入金があり、計7192万円に上った。だが、指定する振込先は大阪府内に住む代表の被告の男(53)の個人口座だった。収支は公開されず、メンバーらから「不透明だ」との声が上がっていた。
府警によると、被告の男は大阪市此花区のマンションで生活保護を受給していたが、4月に転出届を出さずに堺市の3階建て住宅に転居。この際、口座から多額の金を引き出し、少なくとも400万円を新居のテレビや冷蔵庫、生活用品などの購入に充てていた。
府警は、寄付金を私的に使いながら収入として大阪市に届け出ず、保護費計51万円を受給したとして、被告の男を11月8日に逮捕。大阪地検が同28日に詐欺罪で起訴した。被告の男は容疑を否認しているという。
■ユーチューブで「理想の村つくる」
多額の寄付が集まった大きな要因は、代表の被告と共同で代表を務めた別の被告(44)の存在だ。
別の被告は元俳優。以前からユーチューブで陰謀論を流して人気を集めていた。会の設立後、広告塔となり、メンバーらが集団で暮らせる「理想の村をつくる」と発信。候補地と称した写真も公開して寄付を呼びかけ、「トランプ氏の銅像を建てる」とも訴えていた。
元俳優の被告は4月、ワクチン接種を中止させようと他のメンバーたちと東京都内のクリニックに侵入したとして建造物侵入容疑で警視庁に逮捕され、起訴されている。
逮捕後、メンバーの脱退が相次いだが、元俳優の被告の主張を信じる人も多く、ほぼ毎月、接種中止を求めるデモが各地で行われている。
元俳優の被告は11月17日、東京地裁で開かれた公判で起訴事実を認め、「被告の男とはネットで知り合った。『自分がやっていることは正しい』と思い込んでいた」と謝罪。「このままではメンバーが暴走するという不安があり、逮捕されてよかった」と述べた。
しかし、公判を傍聴したメンバーの無職男性は読売新聞の取材に「裁判はディープステートの計画で進められており、(謝罪は)コントロールされて言わされたものだ」と主張した。
ある捜査幹部は「神真都Q会の活動がより過激化しないか、今後も注視していく」と話した。
■カルト宗教に献金誘導される心理と共通点
陰謀論やカルト宗教を信じる人の心理に詳しい立正大の西田公昭教授の話「陰謀論にはまると、自分たちを『悪に立ち向かう絶対的な正義だ』と思い込む傾向がある。デモに参加するだけではなく、寄付をするのは、一緒に戦っている一体感や高揚感がより得られ、自分のお金が、崇高な目的のために使われるという幸福感が持てるからではないか。逆に寄付をしないと、罪悪感を抱くような集団心理が働いている可能性もある。当然、信じるのも寄付するのも自由だが、カルト信者が多額の献金に誘導される心理と共通点があり、注意が必要だ」

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