【行ってみた】「ジャングリア」炎上も大成功の訳

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オープンしてから賛否さまざまな話題で盛り上がる「ジャングリア沖縄」(筆者撮影)
【内部写真】「恐竜は出てこない」「広告と違う?」《ジャングリア沖縄》の“リアルな内部”の様子(14枚)
7月25日にグランドオープンしたテーマパーク「ジャングリア沖縄」が、開業直後にいきなり大炎上するという事態になっている。
Googleマップに批判的な口コミが殺到、それらが一時的に大量に削除され、「作為的ではないか」という批判を呼び、さらなる炎上を招いてしまっている。
本テーマパークは、カリスママーケターとして知られる森岡毅氏が率いる「株式会社 刀」が700億円の資金を投入して実現した大規模プロジェクトだ。森岡氏と刀にとっては集大成ともいえる事業である。
どうして、いきなりこのような炎上を招いてしまったのだろうか? そして実際のジャングリアはどうなのか。
直近で同パークを訪問した体験と合わせて包括的に論じたい。
【写真を見る】「楽しそうだが、事前情報ほどではない?」《ジャングリア沖縄》の“リアルな内部”の様子(14枚)
ジャングリアに関しては、開業前から賛否両論の意見が出ていたが、本格的な炎上状態に至ったのは、Googleマップの口コミが削除されたことがきっかけだったと言ってよいだろう。
開業から2日後の7月27日の午前中には、Googleマップ上に寄せられていた口コミの大半が消え、新たな投稿も表示されない状態が数日間続いた。これに対して、「ジャングリア側が不適切な投稿を削除させたのではないか?」という疑惑が浮上した。
東京ドーム約13個分ともいう広大な敷地に建設されたジャングリア(筆者撮影)
しかしジャングリアは7月28日、公式X上で「Google社に対し、状況・原因の確認を進めております」と表明している。また、Googleは「ポリシーに反する不適切な投稿が増加したため削除した」と回答している。
ジャングリアによる「情報操作」という疑惑は消えたのだが、「そもそもGoogleに批判的な投稿が殺到したのはなぜか?」という疑問が生じる。
ジャングリアに関する批判的な意見を見ると、主に下記の4つに分類される。
1. PR・宣伝活動(主にインフルエンサー・マーケティング)に対する批判2. 実際に行った人の不満3. 森岡毅氏や彼が率いる“刀”に対する批判4. 公共性(公金が投入されていること、地域振興への影響など)に対する疑問
最も大きな批判が1であり、これがGoogleレビューの炎上と削除にもつながっている。
2に関しても、1によって形成されたイメージと実態とのギャップが大きかったため、不満が増幅されたと考えられる。その意味では、1がなければ、大炎上に発展しなかった可能性も高い。
実際のところ、ジャングリア沖縄のPR・宣伝活動は非常に巧みであり、チケットが購入できない状況が続いている。その点だけ切り出せば、“大成功”ともいえる。
逆説的だが、PR・宣伝活動の“成功”、さらには開園直後の人気こそが、炎上の火種になってしまったのだと筆者は考えている。
非日常的な空間が広がっている「ジャングリア沖縄」(筆者撮影)
実は筆者は、開業10日後の8月4日にジャングリア沖縄を訪れた(本記事も沖縄で執筆している)。
直前にチケットを購入しようとしたところ、沖縄滞在期間のチケットは完売していた。
当日券は販売されていないのだが、8月3日に公式サイトを見たら、翌日の「テーマパークとスパとのセット券」が数枚追加で販売されていたので、そちらを購入して何とか訪問が実現したのだった。
入場すると巨大なシンボルツリーがお出迎え(筆者撮影)
突然の雨が降りしきる中、長蛇の列に並ぶ人びと(筆者撮影)
実際に行った感想としては、楽しめたのは事実なのだが、広告をはじめとするプロモーション活動と実態のギャップの大きさも実感せざるをえなかったのもまた事実だ。具体的なレビューについては、別記事で改めて論じたいと思う。
さて、ジャングリア沖縄の主なPR・宣伝の展開は主に下記の3つである。
・広告・メディア報道・インフルエンサー・マーケティング
「広告が盛りすぎている」というのは、筆者も感じたところだが、開業2日後にジャングリアに行った友人も同様の意見だった。
実際のジャングリアは広告ビジュアルにあるほどには、パノラマダイニングやスパからの眺めはそこまでよいわけではないし、ダイナソーサファリでは恐竜が追いかけてきたりもしない。
巨大な恐竜が見えるも……追いかけてはこない(筆者撮影)
広告が期待値を上げすぎてしまっていたというのは、間違いなくあったはずだ。ただし、こうした広告での「過剰演出」はファンタジーを売りにするテーマパークでは、程度の差こそあれ、常套手段といえる。
広告に加えて、メディア報道やインフルエンサーの投稿との相乗効果も大きかった。
メディア報道については、森岡毅氏に関するものと、テーマパークそのものに関するものがある。
前者に関しては、森岡氏の才能やカリスマ性が強調されていた。後者に関しては、開業前の期待感や、テレビ番組などでの施設紹介があった。
広告と実態のギャップはありそうだということは、テレビ番組を見ていると何となく察しがつく。メディア報道は、本テーマパークの「リアルな体験価値」を醸成するのに寄与したといえる。
この点については、インフルエンサーの投稿も同様だ。ただし、インフルエンサーについては炎上の大きな「火種」となってしまった。
この開放的な空間は確かに気持ちがいい(筆者撮影)
YouTuberのHIKAKIN氏や、実業家の堀江貴文氏などのインフルエンサーが、いち早くジャングリアの体験レビューを行ったが、メディア報道と同様に好意的な内容だった。
ところが「特別な人だけが招かれて楽しい思いをしている」という、いわば嫉妬心がネット民の反発を食らってしまったようで、それがGoogleマップでの批判的な投稿につながったと考えられる。
堀江氏は批判的な声に対して、「平日の昼間だったからかもしれませんけど行列ほぼなし。やんばるの森の上飛べるのめちゃくちゃいいよ。なんで俺より一般人の意見信じるの?笑」とXに投稿したが、それも逆効果だったようだ。
堀江氏が体験したのは、ワイヤーロープで滑り降りる「スカイ フェニックス」のようだ(写真:堀江貴文公式Xより)
筆者が行ったときもそうだったのだが、開園早々に整理券の配布が終わってしまい、体験できないアトラクションも多かった。人気のアトラクションは、「プレミアム パス」がなければ長時間待つ必要があり、筆者が体験できたアトラクションは2つだけだった。
炎天下の中、「220分待ち」と表示されたアトラクションも(筆者撮影)
整理券を取得しなければ利用できないアトラクションも、あっという間に発券終了の文字が……(筆者撮影)
開業の前日、フジテレビの「ホンマでっか!?TV」でジャングリアの特集をやっており、芸能人がアトラクションを楽しむシーンが放映されているのを見ていたのだが、その限りでは筆者としても「うらやましいな」くらいの感想だった。
ただ、「自分に近い存在」であるはずのインフルエンサーが、特権階級的な待遇を受けているのを見ると、面白くないと思う人も少なからずいるように思う。
昨年、東京ディズニーシーの新エリア「ファンタジースプリングス」がオープンした際も、芸能人やインフルエンサーが特別招待されていたことで、炎上が起こっている。
開業前に「特別枠」としてメディアを招待するといった手法は「プレスツアー」として、以前から広報・PRの常套手段であった。インフルエンサーに対しても同様のことを行うのは、ブロガーブームが起きた2000年代から通常に行われてきた。
ステマ(ステルス・マーケティング)は、2023年10月1日から景品表示法違反として規制対象となっているが、招待を受けたインフルエンサーが自主的に情報発信すること自体はステマではない。
インフルエンサーが「特別な待遇を受けて、(一般人とかけ離れた)特別な体験をした」ということが炎上の火種となったようだ。
車内に設置された楽器を鳴らしながら、パーク内を移動できる「タム タム トラム」。もちろん、常時満員だ(筆者撮影)
2023年に人気VTuber・周央サンゴさんとコラボして大きな話題を集め、集客数も大きく伸ばした「志摩スペイン村」のように、インフルエンサー活用で成功したテーマパークもある。
同施設は「人気テーマパーク」というわけでもなく、周央サンゴさんの投稿も「人がいないから並ばず楽しめる」といった、正直で地に足の着いた内容で、逆に共感を集めることに成功した。
周央サンゴさんとコラボした「志摩スペイン村」(写真:志摩スペイン村公式サイトより)
インフルエンサー・マーケティングの有効性がなくなったわけではないが、以前に増して細心の注意を払う必要性が高まっている。
いまは、芸能人よりも稼いでいるインフルエンサーも少なくないが、彼らを「特権階級」として扱うことは、マーケティング上は得策ではないように思える。
四輪バギーに乗って、ジャングリア内の自然を探索できる「バギー ボルテージ」(筆者撮影)
このたびのジャングリア沖縄の炎上は、「大阪・関西万博」の炎上と比較されることも多いが、似て非なるものだ。
大阪・関西万博は、開幕前から批判が多く、事前の期待値が高かったとは言いがたい。
開幕後も、運営上のトラブルやパビリオンの待ち時間に対する批判はあったが、実際に行った人々から「楽しめた」「行く価値がある」という声が出てきた。
メディアも万博の内容や集客に関する報道を行う中で、世の中の論調が少しずつポジティブなものに変わってきている。
ジャングリアについては、事前に形成されたイメージと実態に乖離があるという認識は広がりつつある。
しかし、現時点でも来訪者の不満は解消されているとは言いがたいし、そうした中で、安定的な集客が図れるかどうかは今後の課題となるだろう。
それでも連日、チケット争奪戦が繰り広げられているジャングリア(筆者撮影)
加えて、6月末に森岡氏と彼が率いる「刀」に対する批判的な報道がNewsPicksから出され、「公金の使い道として適正だったのか?」という議論も起きている。
「悪名は無名に勝る」というのは事実だが、悪名を「名声」へと戻していかなければ、ジャングリア沖縄の長期的な維持、発展は望めないだろう。
(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)

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