「寝耳に水で、どうしていくか…」岐阜の名湯・池田温泉「高級旅館」運営会社が“夜逃げ”、運営を委託する町の職員が困惑「電話かけても留守電で、これはもうダメだなと」

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岐阜県揖斐郡池田町にある「池田温泉」。池田町が運営するこの温泉は、ヌルヌルとした肌触りの泉質が人気で、多くの観光客が訪れている。
【写真】「カップ5杯の重曹をグルグル…」従業員が部屋風呂に重曹を入れる瞬間、HPに掲載されていた「白濁したお湯」
「池田温泉 新館」の2階、3階部分にあるレストランと宿泊施設は2019年に「株式会社たち川」が町から委託を受ける形で運営していた。地元出身のオーナー・A氏の手腕で、1人1泊4万~5万円ほどかかる高級旅館「池田温泉旅館 たち川」として、人気を博していた。
しかし7月31日、「池田温泉 新館」の入り口には〈事業を停止することとなりました〉と記された1枚の紙切れが貼られていた。前の日の夜中11時頃には、旅館から運び出した段ボールを車に詰め込むオーナーの姿が……事実上、“夜逃げ”したのだ。旅館が突如たち消えたことで、池田町は混乱のさなかにある–【全3回の第3回。第1回から読む】。
1階は町が運営する日帰り温泉(現在も運営中)。2階と3階にレストランと宿泊施設があった。突然閉鎖されたのはその2階、3階部分だ。
「池田温泉旅館 たち川」は、経営がうまくいっていなかった可能性がある。A氏のもとには、池田町長から「督促状」が届いていたのだ。NEWSポストセブンが入手したこの督促状は、7月25日付で以下のように書かれている。
〈5月分までの施設使用料等の未納が7月25日時点で2,288,097円ございますので、(中略)7月31日(木)までに金融機関または役場会計課にて納入していただきますようお願いいたします〉
「池田温泉旅館 たち川」の従業員は、「A氏は、『(委託元の)町にバレないように旅館を閉める』と言っていた」と証言する。
「池田町に対する未納金については納入せずに、期限までに夜逃げする手筈を整えたんです。私たちも、『7月30日以降の予約は全てキャンセルしてもらうように』と指示を受けていました」
がらんどうと化した旅館を前に、町の職員でもある「池田温泉」の支配人は途方に暮れていた–記者が話を聞いた。
–「池田温泉旅館 たち川」は、夜逃げしたんでしょうか?
支配人「率直な意見を申し上げますと、私も朝来てこんな張り紙がしてあったんで、もうびっくりしたんです。この2~3日前にも『続ける』ということをAさんから聞いていたものですから、寝耳に水です……」
–7月25日、池田町のほうから「株式会社たち川」に、施設利用料の請求があったことはご存知ですか?
支配人「はい、私が督促状をAさんに手渡しましたので」
–それは支払われないまま、今日に至るわけですよね?
支配人「そうです、そうです」
実は「池田温泉」もいま、苦境に立たされている。東海地方のローカル局記者が語る。
「1996年に創業して以降、利用者の増加で『新館』を建てた2003年には64万人が来場した。しかし徐々に来客は減少し、2018年度に純損益が赤字に。そこにコロナ禍が追い打ちをかけ、現在は赤字を補填するために基金を取り崩している状況です。
このままでは経営が立ち行かないと、池田町長は昨年冬から経営再建に着手。今年の6月には『再生策』を打ち出し、入湯料金の値上げや経費削減を通じてなんとか黒字化させる計画を発表したところでした。
竹中誉町長も『池田温泉は町民にとっての誇り。施設を存続し、利益を考えていきたい』と語るほど、熱を入れていたんです」
「株式会社たち川」の夜逃げは、そんな池田町の取り組みのなかで起こった“事件”だったことになる。
–「池田温泉」の経営悪化が、今回の「たち川」の夜逃げに関係している?
支配人「たち川さんとうちの経営は、全く別ですので。2階、3階部分は全部たち川さんに依頼してお願いしているものですから。うち(池田温泉)の経営再建というのは、夜逃げとは全く関係ないです」
–「たち川」さんに代わる施設の運営者は見つかっている?
支配人「いや、代わりも何も、まだ何もわかっていない状態で……何もかも未定です。今日の今日なので、私もバタバタでして……」
–3階の旅館部分である「たち川」の部屋風呂に重曹を入れていたと聞いているが、それは知っていたか?(第2回記事参照)
支配人「3階の客室部分は、完全に水道水です。Aさんが客に『温泉だ』と説明していたことも、まして重曹を混ぜていたことも、私は全く知りませんでした……。
さらにいうと、Aさんに対しては、開業当初、『客室部分については水道水だから、お客さんにわかるようにちゃんと説明してね。そうじゃないと、お客さんに対して誤解を生むから、それはちゃんと伝えるように』と話していたんです。それが、重曹を入れとったなんて話は、僕も聞いてびっくりなんです」
–今後、池田温泉さんが再建に向かっていって欲しいが、今後は宿泊施設も存続させる?
支配人「いや、まだそういうことも、まだこれからなので。どうしていくか……」
–オーナー・A氏とは連絡は取れている?
支配人「私も電話をしたんですが、留守電になったきり連絡が来なくて。これはもう、ダメだなと。
うちはとにかく、粛々と進めていくだけです。ご迷惑をおかけしています、申し訳ございません……」
そう言って、支配人は頭を下げたのだった。
NEWSポストセブンは池田町・町長に取材を申し込んだが、担当者から「現状では取材に応じられない」との回答だった。
直撃取材後、A氏には再三電話をかけたが、繋がらなかった。「株式会社たち川」の事業停止を告知する張り紙に連絡先として書かれていた弁護士事務所にも質問状を送付したが、期限までに回答はなかった。
池田山の自然の恵みを受け、風光明媚な景観が残る池田町。いまも1階で運営されている「池田温泉」は地元の人も、そして観光客も愛する正真正銘の名湯だ。再建に向けて、池田町の奮起に期待したい。
(了。第一回から読む)

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