「今更もう驚きもしないのですが、この先を考えると…」。こうため息を漏らすのは地元議員だ。“学歴詐称疑惑”が持ち上がっている静岡県伊東市の田久保眞紀市長(55)が、辞任表明を撤回し続投すると宣言した。過去の発言との矛盾点を指摘されても、ありとあらゆる言い訳を持ち出して跳ね除けていく“無敵ぶり”。「何を考えているのかもはや理解しようがない」と関係者は一様に頭を抱えている。
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すでに数日前から不穏な空気が流れていた。田久保氏は7月7日の記者会見で「2週間を目処に辞任し、出直し市長選に出馬する」と表明していたが、月末が近づくにつれ、辞任しないばかりか、いつの間にか「31日に進退を明らかにする」と話を変えていた。
そればかりか、放り出していた公務を最近になって急にバリバリこなすようになっていたのである。29日には、自分の学歴詐称疑惑を追及する百条委員会が開かれている中で、近隣市町と合同で開かれた消防組合の会議に出席。会見を開くと告知していた31日には9時半に登庁し、午後1時半からは優良建設工事成功業者の表彰式に出席、午後4時からは緊急の幹部会議を開いた。
当日、市庁舎を訪れると、会議を終えて出てきた幹部が地元記者の囲み取材を受けていた。
「市長からは進退についての話はありませんでしたが、職員たちの苦労を理解していただき、混乱を早く収めてほしいという意見を出させていただきました」
幹部はこうため息混じりに話していた。秘書広報課によれば、これまでに電話だけで2000件以上の抗議が殺到しているという。
その後、午後8時から開いた記者会見で田久保氏は「改革の道はまだ始まったばかり」「頑張ってほしい、負けないでほしい、やり遂げろという声もある」と述べ、続投を表明したのである。
当然、地元記者たちから「辞任すると発言していたのですから、嘘をついたということですね」と突き上げられたが、田久保氏は「迷いがありましたし、未熟さもあったと思いますが、この1カ月めまぐるしく状況が変わりまして…」「皆さんとの公約をどう守るか考えた上で…」などとかわし続けた。
ある地元記者は「何度も繰り返されてきた光景です」と呆れる。
「議長、副議長に“チラ見”しかさせてくれなかった、問題の東洋大学のニセ卒業証書も最初は『2週間くらいを目処で、検察に上申する』と言っていたのに、いまだに上申していません。この人の常套句は『状況が変わった』『あの時は正確に状況を把握していなかった』。これさえ言えば、なんでも自分に都合よく話を変えられちゃうんですから、もはや無敵です」
この展開に議員たちの我慢も限界に達しつつある。青木敬博市議会副議長はこう怒りをあらわにした。
「呆れを通り越し、はらわたが煮えくり返っています。何よりも許せないのは、誤記載を職員のせいにし始めたところです」
そもそもの発端は、田久保氏が市の広報誌「広報伊東」に「東洋大学卒」と載せていたことだった。のちに本当は除籍で卒業していなかったことが判明したわけだが、田久保氏は29日の定例会見で、
「広報伊東の作成にあたりましては 、 その権限は事務の所管は私ではなく、行政の方で制作しています」
「今後は経歴学歴を確認する場合、卒業証書や卒業アルバムといったものではなく、最初から卒業証明書を提示するというふうに、行政手続きをしっかり改善するということが非常に大切だと思っています」
と人に責任をなすりつけるような発言をしたのである。
「担当した職員は勝手に載せたわけではなく、本人に確認し、しかも修正まで加えているのです。ただでさえ職員たちは鳴り止まない抗議電話に疲弊しています。自分のせいで溺れている人間をさらに蹴っ飛ばすような行為であり、政治家である前に人間として問題がある」(青木氏)
青木氏は、本来あるはずのない「卒業証書」を目撃した一人である。田久保氏はこの問題が発覚すると、まずは“ニセ卒業証書”を青木氏と中島弘道議長に“チラ見”して乗り切ろうした。その後、ウソがバレて、改めてニセ証書を百条委に提出するよう求められたが拒否。今も「まだ自分では本物だと信じています」などと訳のわからないことを言いながら、弁護士事務所の金庫に封印している。
どの程度のチラ見だったのか。
「最初は一秒くらい。開いてすぐに閉じてしまったので、議長が『いやいやいや』と言ったら、また開いたのですがまた2~3秒で閉じてしまった」(同)
ただ、おかしいなとは思ったという。
「紙は古ぼけていたから、一見本物っぽくは見えるんですよ。けれど、書式に違和感があった。普通は『卒業証書』という題名、『氏名』、そしてなになにを修了したと証するといった『本文』の順のはずですが、本文の中に不自然なかたちで氏名が入っていたのです。あとで本物も見たらやっぱり本文に氏名など入っていなかったし、デザインも全く違った。その後、議会には彼女の同級生を名乗る匿名の人物から『パロディで作ったもの』という投書がありましたが、私はその情報が真相だと確信しています」(同)
議員たちは不信任決議に進む決意を固めつつあるという。
「議員19人中10人は覚悟を決めていて、まだ6人がはっきりしていませんが、市長派は一人しかいないので最終的には決議できると考えております。決議されたら彼女は議会の解散に踏み切るのでしょうが、こうなったら仕方ありません。無駄な税金が3000万円もかかってしまいますがね」(同)
だが、まずは今継続している百条委員会を終わらせてからという順序になり、決議までは時間を要するという。
「百条委は必ず告発までやります。それが終わるのがおそらく9月半ば。そこから不信任、解散、50日以内に選挙といった流れですから、結局、年内くらいまで彼女は延命できることになってしまいます」(同)
しかし、なぜ田久保氏は悪あがきをするのだろうか。
「推測になりますが、市長の座を降りた瞬間に警察に捕まることを恐れているのではないでしょうか。常識では計り知れない人なので何を考えているのか、もはや謎です」(同)
デイリー新潮編集部