「-28℃の衝撃!」ワークマン”着る冷凍服”の進化

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広報担当の伊藤磨耶氏に着用してもらった「ウィンドコア アイス×ヒーターペルチェベストPRO2」(筆者撮影)
【着た瞬間に冷たくなるベスト】ワークマンが開発、軽量化して着やすさにもこだわった
今年5月にワークマンが発売した、“着た瞬間に冷たくなるベスト”が爆発的に売れている(同社は「着る冷凍服」として訴求)。
「昨年の1.5倍にあたる9万枚を用意しましたが、予想以上の売れ行きで残り少なくなっています」(同社)
商品名は「ウィンドコア アイス×ヒーターペルチェベストPRO2」(以下、ペルチェベスト)といい、価格は1万9800円(税込、以下同)。多くの店舗で品薄状態だという。
「今回の商品は3代目になります。最初に発売したのは2023年5月、次いで2024年5月に改良品を出しました。お客さまからの要望も踏まえて、毎回機能を進化させています」
開発担当の土井健太郎氏(製品開発部第1部マネジャー、以下発言は同氏)はこう話す。
商品名に「アイス×ヒーター」とあるように、夏は冷却、冬は温熱に切り替えて使える冷暖房服だ。昨年の商品とはどこが違うのか。
「最も大きいのはペルチェデバイスを5つにしたことです。昨年発売した商品は3つでしたが腰後ろにも付けて『背中1、腰後ろ2、前面2』の5カ所となり、冷たさの体感が増しました。冷却温度も昨年の-23℃から-28℃にアップしています」
ペルチェ(Peltier)とは冷却と加熱を制御する電子部品の意味で、商品説明では冷却の場合は「瞬間冷却 最大約-28℃」〈表面温度約-3℃〉(※)と記されていた。
(※)環境温度約25℃の時、デバイス表面温度との温度差(メーカー調べ)
「また、肩のダイヤルを回すとペルチェデバイスの位置を上下に調整でき、冷却位置も変更できます。バッテリーもよりコンパクトにしました。以前の商品を使われているお客さまから『重い』という声もいただき、軽量化して手のひらに乗る大きさにしました」
バッテリーをフル充電した場合の連続稼働時間はアイスモード「強」で約2.5時間、「弱」で約4.3時間となっていた。
(ワークマン公式オンラインストアより)
(ワークマン公式オンラインストアより)
最初に発売したのは2年前のこと。そこから商品性は急速に“進化”した
「ワークマンには『ファン付きウェア』(空調服)があり、多くの方にご愛用いただいています。でも毎年気温が上がり、35℃を超えるとファンウェアでは熱風が回り余計に暑さを感じます。『服がふくらんで見栄えが気になる』という声もいただいていました。
そこで『ファンウェアとは違う視点で涼しい服を開発できないか』と社内で議論した結果、冷蔵庫などに使われるペルチェ(素子)に注目したのです」
IoT(モノのインターネット)商品を手掛ける会社に開発依頼をして試作品が完成。そこから性能やデザインをブラッシュアップさせたという。
こうして2023年に発売されたのが「ペルチェベスト」(1万9800円)だ。年々機能を進化させたが「企業努力で価格は据え置いています」(土井氏)。
「昨年から他社もペルチェベストの販売を大々的に行うようになりました。そこで『どこにも負けないペルチェを開発しよう』と関係者で話し合い、アイデアを出し合いながら実現させてきました。ペルチェデバイスのダイヤル調整はそのひとつです」
ダイヤルを回してペルチェデバイスの位置を調節する(筆者撮影)
利用者は建設業や運送業、農業、製造業といった現場作業者が多い。一般消費者が使う例もあり、例えばバイクに乗る時、釣りや野外フェスティバル、屋外でのスポーツ観戦などさまざまだ。昼と夜の気温が大きく変わる時も冷却と温熱を切り替えて使用できる。
「ペルチェベストは一般の方からも好評の声をいただきますが、現場作業者を想定して開発しており、あくまでも作業現場ベースで考えています。作業環境が許せば、ペルチェとファンウェアを組み合わせて使うと、より涼しくなるのでお勧めです」
外作業での暑さ対策は欠かせないが、建物内の作業でも窓の少ない場所、エアコンが効かない場所での長時間作業は身体に変調をきたしかねない。
使う時の状況もある。「音が気になる」という声もあったが、周囲に人がいない外の作業なら気兼ねなく使えるだろう。
「今回は法人向けの営業も行いましたが、非常に反響が高かったです。6月1日から熱中症対策が法律で義務化された影響もあったと思います」
利用者からは「インナーにコンプレッションウェア(身体にフィットした機能性ウェア)を着けてペルチェを使うと冷えが実感できる」という声もあった。それぞれ工夫して使っているようだ。
6月には「ウィンドコア アイス×ヒーターペルチェベストPRO2 スペシャルエディション」という商品も発売した。価格は2万5000円で限定生産だ(公式サイトでは本稿執筆時に予約受付終了となっていた)。
前の2カ所にもライトがついた「ウィンドコア アイス×ヒーターペルチェベストPRO2 スペシャルエディション」(筆者撮影)
「ペルチェベストの基本性能に加えて、こちらの商品では、前2カ所と背中にライトを付けました。アイスモードは青く、ヒーターモードは赤く光ります。夜間の作業を行う方には視認性が上がるのでご好評いただいています」
後ろ姿はこのようになる(筆者撮影)
いずれの商品も長所があれば短所もある。例えば「バッテリー持続時間が短い」「屋外の高温環境では冷却効果が弱まる」といった声も聞く。予備バッテリーを用意して充電しておく手もあるが、それができない時もあるだろう。室内の冷房設定温度でも身体が慣れて涼しさを感じにくくなるように、できるだけ工夫して使いたい。
ファンウェアでは、虫が侵入するケースも聞く。ベテラン作業者の人はご承知だろうが、周囲の状況に注意しながら着用したい。
前述したように今年6月から熱中症対策が義務化されたが、背景には亜熱帯化した日本の現状と社会問題化する熱中症がある。2024年5月~9月には過去最多の全国で10万人弱(9万7578人)が熱中症で救急搬送された。
ワークマンとして猛暑対策にどう関わっていくのか。
「今後もペルチェを進化させて現場作業を少しでも快適にしたいと考えています。新製品を開発するにあたり、開発チームも演習に参加したり実験室に行ったりと、実践に近い体験をして使い勝手のよさを追求しています」
土井氏の話す「演習」とは、日本赤十字看護大学附属災害救護研究所(日赤救護研、本部・東京都渋谷区)と連携した活動の一環だ。
2025年1月には日本赤十字北海道看護大学(北海道北見市)で開催された「厳冬期災害演習2025」に併せて、日赤救護研と厳冬期災害対策に関する共同技術検証も行った。ワークマンの既存製品や開発予定製品のテストも含めて過酷な環境での製品機能を試している。
さまざまな企業の開発現場を取材してきたが、現場の開発哲学のひとつに「新製品は発売日から改良対象」という言葉がある。さらなる進化を目指すという意味だ。
例えば素材メーカーや部品メーカーから、より通気性の高い素材、より軽量化した部品が開発されれば、それを用いた完成品を目指すこともできる。ワークマンが掲げる経営理念「声のする方に、進化する。」が、猛暑対策ではどう進化していくか。
(高井 尚之 : 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント)

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